月日は流れ、天保十二年。それぞれ旅籠を継いだお文とお里は敵対し、お文は夫の弟の蝮の九郎治(くろうじ・阿部裕)、お里は用心棒の尾瀬の幕兵衛(まくべえ・章平)と不義を働きながら、たよりない夫の殺害と互いの旅籠の乗っ取りを計画。清滝村を訪れた、醜い顔にゆがんだ体と心を持つ無宿者の佐渡の三世次(みよじ・高橋一生)は、謎の老婆のお告げに焚き付けられ、言葉巧みにお里一家に入り込み、村を手に入れようと企てます。
お文の息子・きじるしの王次(浦井健治)は死んだ父の無念を晴らそうとしますが、村に戻ってきたお光と恋に。新代官の着任によって両家の争いは一度鳴りを潜めますが、実は代官の妻おさちは、お光の生き別れの双子の姉妹でした。
高橋一生、歌う。
ひとりの登場人物がシェイクスピアの複数の作品の要素を兼ね備えているのですが、それでもキャラクターの数は膨大。それぞれに物語がある群像劇ですが、あえて言うなら、役名通りの「リチャード三世」や「オセロー」のイアーゴ―など、有名な悪役たちを投影したのが、佐渡の三世次です。
役名だけでなく、リチャード三世の設定である醜い顔にこぶの体をした高橋一生は、目の周りを黒く塗っていることもあり、とにかく目がギラギラ。高橋はNHK大河ドラマでの好演で一時期は社会現象化もした人気もあり、昨今は映像作品での活躍が目立ちますが、もともとは舞台でもキャリアが豊富。子役時代にはミュージカル「レ・ミゼラブル」に出演したこともあり、今作でも歌声を披露していますが、その声質のつやっぽさは高橋の魅力の再発見かもしれません。
高橋一生は「イケメン俳優」で消費されない 難しいキャラクターを演じきる役者力
10月9日から高橋一生(37)が主演する連続ドラマ『僕らは奇跡でできている』(フジテレビ系)がはじまる。『僕らは奇跡でできている』で高橋一生が演じ…
本来のシェイクスピアの設定では悪辣の限りを尽くすキャラクターたちですが、旅籠で娼婦を買い、乱暴にバックから犯しながら歌っている三世次はどこか憎めない愛嬌も。将来の展望や希望がみえない境遇から、刹那的な楽しみを求めて自分の生死すらネタにしているように見せる高橋の三世次は、むしろ現代的な若者風ともいえそうでした。