新型コロナ「イベント等の自粛」はどのような効果があると言えるか 過去のパンデミックデータから考える

文=鳥越規央
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「GettyImages」より

 2019年11月に発生が確認された新型コロナウイルス(正式名称 SARS-CoV-2)は、わずか4カ月で世界各国の約10万人に感染が確認されるほどの脅威となりました。そのうち中国での感染者数が約8万人と大半を占めていますが、他にも韓国、イタリア、イランをはじめ98の国と地域で確認され、感染の勢いが増す傾向にあるようです。さらにここ数日でフランス、スペイン、ドイツなどヨーロッパ各地でも感染者数が1000人を超えました。

 この未知のウイルスを我々はどう克服していくことができるのでしょうか。過去に世界で流行した感染症のデータを紐解きながら、新型コロナウイルスの現状と今後について推測していきます。

約10年に一度発生する世界的感染

 20世紀に入って初めて起きたパンデミックといえば、「スペイン風邪」と呼ばれた流行性感冒です。スペイン風邪の詳細については古谷経衡さんがYahoo!ニュース個人でまとめている記事が参考になります。

「日本はパンデミックをいかに乗り越えたか~100年前のパンデミック・スペイン風邪の教訓」

 この記事よりデータを抜粋しますと、当時の世界人口の3割にあたる5億人が感染し、2000万〜4500万人が死亡したと推定されています。日本でも1918年5月、横須賀軍港を起点に感染が広がり、2年間で総患者数2357万人、死亡者数38万人と記録されています。当時の人口は57195万人ですから、約37%が罹患し、致死率は1.6%となります。

 スペイン風邪の日本での患者数のデータは内閣官房新型インフルエンザ等対策室より引用しました。余談ですが、引用元に書かれている川名明彦先生の記事は2018年に執筆されたものですが、この中に「2009年に起きた直近のパンデミックから早くも10年が経過しようとしている現在、もう次のパンデミックが出現しても全く不思議ではありません」との記述があります。そして2020年の今、新型コロナウイルスが猛威をふるっているのですね。

 ちなみに、スペイン風邪はA/H1N1亜型といういわゆる新型インフルエンザウイルスであることが後にわかるのですが、当時はウイルスの存在そのものがわかっておらず、ウイルスに対する科学的な対処ができていませんでした。結局感染が収束したのも、ウイルス感染の拡大の限界を迎え、快癒した人たちが免疫抗体を獲得したからということです。

2009年新型インフル流行はどうだったか

 スペイン風邪の大流行から、約10年おきに世界的な感染症が発生していると言われていますが、皆さんの記憶にあるのは2000年以降のものが多いのではないでしょうか。

2002〜2003年  SARS   32の国と地域
患者数 8096人  死者数774人 (致死率9.6%)

2009年        新型インフルエンザ  135の国と地域
患者数 不明    死者数18500人 

2015年〜      MERS   27の国と地域
患者数 2494人  死者数858人 (致死率34.4%)

 特に2009年の新型インフルエンザは日本でも感染が拡大し、社会問題にもなりました。2009年5月に日本で初めての感染例が発覚してから2カ月で、44都道府県にわたり、累計1517人の患者が確認されました。

 この患者の増加の様子をグラフに表すと以下のようになります。

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 そして半年経過の2009年11月には、日本国内での患者数は推計で902万人いたとされました。なお感染者の86%が19歳以下の若年層でした。

 SARSやMERSはコロナウイルスの一種で、SARSは中国や香港、MERSは中東地域や韓国を中心に感染が確認されましたが、日本での感染例は発見されていません。今回、日本で感染が拡大している新型コロナウイルスは、SARS関連コロナウイルスの一種です。

 この新型コロナウイルスの感染力は、これまでのコロナウイルスよりも感染力が強いと言われていますが、それを示す数値を紹介します。1人の患者から何人に感染させるかを示す数値である基本再生産数は以下の通りです。

 WHOでは2人前後としていますが、大学などの研究機関による調査では、新型コロナウイルスの再生産数は4人前後と推定され、インフルエンザやSARS、MERSよりも感染力が高いとされています。この数値は環境によって大きく変化し、換気の悪い空間に多くの人がいる場合は、この何倍にも上昇します。ダイヤモンドプリンセス号における発生当初の再生産数は14.8であったと推定する報告もあるようです。これは麻疹の感染力に匹敵するものです。

 感染力の強さは、イタリアや韓国での感染者数の増加の上昇が物語っています。

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日本の新型コロナ「感染者数」が増えない理由

 では日本の感染者数の推移はどうなっているでしょうか。上記のグラフに日本の推移を重ねるとこのようになります。

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 日本の新型コロナウイルスの増加の推移が、2009年新型インフルエンザの推移に酷似しているように見えます。これだけ見ると、日本ではそこまで感染が増えているように見えませんが、実はその裏には検査数の大きな違いがあるのです。

 韓国ではMERS感染の教訓があるため、コロナウイルスに対する検査キットの準備が大量にあり、今回すでに約18万件のPCR検査を行っています。それに対し、日本では医療現場での混乱を招かないようにとの考えもあり、検査数が8771人(3月10日現在)となっています。

 PCR検査の偽陽性、偽陰性があることは承知の上で紹介しますと、単純計算では、両国とも検査数のうちの4〜5%が陽性反応となっています。もし日本でも韓国並みの検査を行っていれば、ほぼ同数の感染者数がいるのではないかと推測します。

 3月6日より日本ではコロナウイルスの検査に公的医療保険が適用され、医師の判断により保健所を通さずに検査ができるようになりました。そのため検査の実数がこれまでより多くなり、それに伴い感染者数の大幅な増加が予想されますが、それはすでに感染していた人数が検査により炙り出されたに過ぎないのです。

 政府の要請により、コンサート、スポーツなど大規模イベントの開催自粛、小中高校の臨時休校、中国と韓国からの入国者に2週間の待機といった施策が実施されています。この施策による経済状況の悪化についてはまた別のところで述べるとして、この施策により新型コロナウイルスの感染が収束するのでしょうか。

 結論から申し述べますと、

「ワクチンや特効薬の開発がない限り、感染者数の総数は変えられないが、
感染の拡大速度を遅くし、感染者の最大数を抑える効果はある」

 ということです。これについては厚生労働省のサイトに説明の図があります。

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出所 https://www.mhlw.go.jp/content/10200000/000603002.pdf

 細いカーブ線は何も対策を講じない場合の感染者分布、太いカーブ線は対策を講じた時の感染者分布です。急激な感染で医療対応の限界を超えると、それによる社会的パニックが起きます。中国の武漢や韓国の大邱、イタリアはまさにその状況になってしまったと言えるでしょう。対策を講じることで、流行のピークを下げ、ワクチン開発など医療対応の体勢を強化する時間を稼ぐことができます。まだ日本では医療崩壊が生じていると行った報告がなされていないので、今のところ、対策を講じたことが裏目には出ていないといったところでしょうか。

 さて、これまでの専門家会議で発信された新型コロナウイルスの実態について、次のことがわかっています。

・8割は感染しても軽い症状で済む
・致死率は2%程度
・高齢者になるほど致死率が上昇し、80代では約14%まで上昇する
・潜伏期間が長い人もいるため、感染者が見つかりづらい
・換気の悪い場所に多くの人がいる場合は、感染クラスターが生じやすくなる

 現在、日本で感染が確認されている方々の多くが、クルーズ船、屋形船、展示会会場、ライブハウスといったクラスターでの感染であることが判明しています。よって今後の感染の拡大を抑えるためには、「感染クラスターを作らないこと」が重要です。

 そして、何より私たち一人一人が「日々のこまめな手洗い、うがいの励行」をすることです。その証拠に、新型コロナの流行で「手洗いうがいを」と呼びかけられた結果、今年の季節性インフルエンザの患者数は、前年と比較して6割も減少したのですから。

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