【町中華】ラーメン・チャーハンが相性抜群で、箸が止められない!/雑色・ウルフ(東京)

文=昼間たかし
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 なんで店の名前をこんなのにしたのだろう。

 中華料理屋にはどうも馴染まない。おまけに、近くには「タイガー」という名前の中華料理屋もある。いったい、どういう関係なのか。昔はやんちゃをしていた店主が、正業に就こうと思った時にこんな店名にしたのか。

 色々と勝手な想像がめぐる。

 店の最寄り駅である京急線の雑色駅に下りたのは5年ぶりだった。都心から少し離れた大田区は、たいていの人には用でもないと来ることはない街だ。でも、ここ10年あまり京急線沿線の変化は著しい。京急蒲田駅から羽田空港と横浜方面へ向かう線路は幹線道路の第二京浜を線路が横切っていた。だから、いつでも交通渋滞の名所。それを解消するために、京急線の高架化工事は進んだ。

 それと共に昭和の雰囲気を色濃く残していた京急蒲田駅周辺は一変。京急線から直通する都営浅草線で都心に一本という立地がうけてすっかり有望なベッドタウンとなった。

 その流れは一駅先の雑色駅まで及んでいる。

 各駅停車しか停まらない雑色駅は、駅を降りるとすぐに鄙びた商店街。ずっと時の止まったような街だった。

 それが久しぶりに降りてみればどうだろう。

 ホームの位置を移動させて出来上がったロータリーは、ベッドタウンの駅そのもの。鄙びた商店街も、少しずつ垢抜けている風に見えた。

 そんな街に本当に街中華なんてあるのか。

 今回、訪問前に得ていた情報は店の名前と住所だけ。いったいどんな店なのか、まったく調べてはいなかった。行ってみたら改装されて、すっかり垢抜けているのではなかろうか。

 そんな不安を感じながら、スマホの地図を頼りに歩く。雑色駅からは第二京浜に沿って川崎方面へ。歩いているうちに、次第に不安になってくる。思ったよりも遠いのだ。

 ロードサイドに幾つかの飲食店やコンビニはあって、車も走ってはいる。でも、歩いている人は少ない。まだ開発の手の及んでいないエリアだから、垢抜けたりはしていないだろう。でも、逆に年季が入りすぎて「恍惚の味」になっているのではなかろうか。

 これまで立ち寄った街中華で、店主が年齢を重ねすぎたゆえにか、驚くほどの薄味になっている店や麺が茹ですぎの店にも多く出くわした。そんな店も一度や二度なら話のタネにはなる。でも、せっかく足を運んでお金を払うのだ。「また来たい」と思う味に出会いたいではないか。そんなことを考えていたら、住宅街の中にある店についた。

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ウルフ

住所:東京都大田区南六郷3-9-2

営業時間:11:30~14:30、17:00~21:00

定休日:火曜日

 味の善し悪しはわからないが、この店にはなにかがある。そう観じたのは、表の様子。なぜか乱雑さが目立っている。もっとも気になるのはドアに張られた「本日の定食」。そこには「ラーメン半チャーハン」「麻婆豆腐定食」の二種類が写真入りで掲げられている。 きっとこれは「本日の」ではない。毎日がそうなのだろう。

 おそるおそる店のドアを開けると、予想外に威勢のいい「いらっしゃいませ」の声がした。店は存外に狭い。カウンター席が5席ほどと、詰めれば4人座れるボックス席がひとつだけ。そのボックス席から立ち上がったのは、黒い普段着の中学生くらいの男子だった。

 店主が子供に店を手伝わせているスタイル だということは、すぐに理解する。ところが、この男子、存外に動きがいい。さっと水を運んで来るとメニューを見ている客の邪魔にならないようにスッと置く。それから「お決まりになりましたらどうぞ」と、また引っ込むのだ。

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 メニューを見ると街中華らしい良心的な価格帯。ラーメンは530円。チャーハンは680円。

 財布を気にせずに通えるまずまずの価格だ。 気になったのは「ウルフみそ」。「特製みそラーメン」という説明のついたそれば800円。 ラーメン半チャーハンが800円なので、かなり強気の価格に見える。

 どちらにしようか迷って、ラーメン半チャーハンを選ぶ。厨房の店主はさっと動き出す。 男子のほうも厨房にはいり、すぐに作業を始める。ずっと子供に手伝いをさせているのだろうか、なんとも言い難い絶妙なフォーメーションだ。

 そんな店に、自分のほかに客は一人だけ。ジャージ姿でコップに入ったチューハイを飲みながらラーメンをすする中年男性。ラーメンを啜っているのだが、その手は何度も止まる。客席から見えやすい位置に設置されたテレビで流れているバラエティが気になるのか。

 芸能人がクイズに挑戦する番組の、これはというシーンになると手が止まり、またラーメンを啜るのを再開する。自分が入ってくる前からラーメンを啜っていたはずなのだが、筆者に料理が運ばれてきてからも。それどころか、筆者が食べ終わってからも、まだ啜っていた。あれは無限にラーメンが出てくる器かなんかだったのか……。

 ほかに客がいなかったこともあるだろうが、料理が出てくるのは早かった。まずラーメン。続いてチャーハン。男子は狭いカウンター席で客の食べやすいベストな位置に器を置く。

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 ラーメンは街中華のスタンダード系醬油ラーメン。こちらは特筆すべきことはない安心の味。一方、目を見張ったのはチャーハンである。よい加減に焦げ目のついた米。そこには、 多くの具が見え隠れしている。チャーシューの切れ端がふんだんに入っているだけではない。ハムの切れ端まで入っているのだ。

 そんな肉多めに、出汁の利いた旨みを含んだ米。レンゲにすくって一口運べば、ガツンと美味さが染みる。ちょっと濃いめの味がラーメンとの相性抜群だ。

 こうなると止まらない。ラーメンをすすり、チャーハンを口に運ぶ。当然、次第に器からは麺も米も消えていく。それが寂しくてたまらない。街中華探訪らしく周囲の様子を観察するのも忘れて、食べるしかなかった。それは幸せな一時だった。

 会計を頼むと、男子が「800円になります」と「ありがとうございました」と、これまた滑舌のいい声。店は鄙びてはいるが、このまま次世代へと受け継がれていく風に見えた。

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 満足しながらも、気になったのは味噌ラーメン。さりげなくサービス抜群の具の多さを魅せてくる店。そんな奥ゆかしい店が強きで売り出すメニューはどんな味なのか。やっぱり選択を間違ったのか。

 ご馳走様でした。

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