働き方改革の一環として、「フリーランス」が推し進められている。日本では今後さらなる人口減少や産業構造の変化が想定されているためだ。退職した人や育児中の女性を労働市場に戻すことを中心に、働き方の柔軟性をもって労働人口を増やしていこうとする狙いがある。
フリーランスとは、企業に雇用されることなく、発注を受けて個人で働く人を指す。一例として、エンジニア、税理士などの士業系、デザイナー、フォトグラファー、ライター、トラックドライバー、大工などの職業である。
労使関係に束縛されない「フリーランス」は比較的新しい言葉であるという印象があるかもしれない。しかし、もともと中世のイングランドで生まれたものである。スコットランドの作家であるサー・ウォルター・スコットの1819年に出版された『アイヴァンホー』にも登場する(参考:freelancer)。
フリーランスは、直訳すると『自由な槍』だ。当時の槍騎兵は、どこかに所属しているわけではなかった。戦いのたびに、報酬や戦いの意味合いに納得できる君主を選んで働いていたという。
その後フリーランスは、無所属の政治家を示す時期を経て現在の意味で使われるようになったが、スキルとサービスを提供する人という意味では変わらない。
現在イギリスで最もフリーランスが集まる場所はバーミンガムのあるミッドランド地方で、人気の職種は順に美容師、教師・家庭教師、移動美容院、犬の散歩、宅配便である。ロンドンの人気の職種は、順に会計士、教師・家庭教師、プロジェクトマネージャー、ケータリング、グラフィックデザイナーなどとなっている。(参考:Simply Business)。
日本とイギリスのフリーランス人口
2019年7月、内閣府は初めて日本のフリーランスの人数を推計。アンケートを元にしたもので、人を雇っておらず実店舗がない自営業、内職、一人社長といった就業形態で農林漁業従事者以外をフリーランスと見ている。この調査によれば、本業フリーランスは228万人程度で、日本の全就業者に対して3.4%に相応する。
人口が6643万人と日本の半分ほどのイギリスでは、フリーランスが200万人(全就業者の6%)、そこに起業家や請負を加えたくくりである自営業者は500万人(全就業者の15%)と推定している。
イギリスでは自営業者全体がこの10年で35%増えているのだが、そこにはどういった理由があるのだろうか。
イギリスにおいてフリーランスが選ばれる理由
イギリスの自営業者の4割は、50歳以上だ。この10年でシニア世代のフリーランスが58.5%増となった結果だ。
そこには4人に1人が失業による転身だったという背景があるが、2011年には8.1%の失業率を記録したので無理もない。しかしそれにより、イギリスのフリーランスの半分近くが高い技術を持つマネージャー、ディレクター、専門職、技術職で構成される結果となった。(参考:ipse独立した専門家と自営業者の協会)
昨年10月から12月にかけて、イギリスのGDPは前の期に比べてゼロ成長だったものの、失業率は1975年初頭以来最低レベルの3.8%を記録している。
それでもフリーランスが増えているのは、シニア世代のフリーランスの81%が満足していることに関係している。
失業でなくポジティブな理由でフリーランスを選んだ人も多く、フレキシブルな仕事(89%)、オーバーワークをコントロール(89%)、時間の自由(84%)、場所の自由(83%)を謳歌している。
子どもがいる母親も、高い技術を持つフリーランスとして活躍している。自由度の高さもあり、2008年から10年で2倍に増えている。
経済的なメリットも後押ししている。自営業者の半分以上が年間7万ポンド以上(約997万円)を稼ぐからだ。日本のフリーランスで年収500万円以上の収入がある人は1割~1.5割程度という現実と比べると、層の違いがわかるだろう。
イギリスの雇用された労働者の職種別の平均年収を見てみよう。受付が1万7,141ポンド(約244万円)、教師3万8,473ポンド(約547万円)、プロジェクトマネージャー4万9,038ポンド(約698万円)である(参考:findcourse.co.uk)。
自営業の場合は経費がかかっているという違いはあるが、雇用者で7万ポンド以上では、法律専門家7万4,701ポンド(約1,062万円)、パイロット・フライトエンジニア7万8,570ポンド(約1,117万円)クラスになる。雇用ではないので、雇用者と同じ仕事をしても高い収入となる。
一方、イギリスの20代のフリーランスの満足度は6割だ。
イギリス統計局が2019年に発表した調査では、イギリスの学生は自営業者を高収入で家族との時間をもつことができる働き方と好意的にイメージしていて、16歳から21歳の5人に1人(22%)が、将来的にフリーランスを含めた自営業者になる可能性が高いと回答している(参考:Office for National Statistics)。
そのためか、卒業後に自営業を始める人も22歳から30歳までの10人に1人(9%)いるが、シニア世代に比べ経験とスキルが浅い自営業者は、会社に勤める同年代の人々よりも年間平均で約3800ポンド(約54万円)収入が少なく、長時間労働を余儀なくされているという現実がある。
イギリスのフリーランスを取り巻く環境
イギリスでフリーランスが多く活躍しているのには、受け皿があることも関係している。
企業は、繁忙期のみ、また専門知識が必要なときのみ、フリーランスを利用するものだが、企業の64%がフリーランスに依存しているという調査がある。
GoogleやASOSなどの大手企業では、イギリス拠点のスタッフの約半分がフリーランスで構成されているという(参考:Forbes)。
このように、無駄に社員を確保せずにフリーランスをうまく活用する、自社の正社員だけに固執せず優秀な人材を集めるという構造は、日本よりも進んでいる印象だ。
イギリスと日本のフリーランス保護
フリーランスは仕事の選択、時間の使い方、仕事場の選択(常駐の場合もある)などの自由があるものの、リスクは自分で負うことになる。会社員であれば、最低賃金、労働時間、有給休暇、失業、病気や事故に遭った場合の収入などの保障があり、労働者として守られているが、それがないのが日本のフリーランスだ。
イギリスでも同様で、仕事を休めば収入は減るし、個人で年金を設定する必要がある。不動産を借りる際も、住宅ローンの審査も、雇用者に比べて難しいのも変わらない。所得税は累進課税で、雇用されている労働者と自営業者でレートに差はなく優遇されているわけではない。
もうひとつ、フリーランス特有の悩みに、支払いの遅れと未払いの問題がある。イギリスでも問題になっていて、政府はスモールビジネスコミッショナーの組織を2016年に立ち上げた。イギリスのフリーランス支援組織ipseによると、まだ満足に機能しているとは言い難いようだが、今後うまくまわるようになれば、安心して仕事に取り組めるようになるだろう。
日本政府は、起業やフリーランスを希望する高齢者への業務委託を“企業の努力義務”とすることを閣議決定したところであり、フリーランスが企業との取引で不利な立場にならないように法整備する方向に向かっている。
このようにいずれの国でもフリーランス保護に向けて動き始めているが、フリーランスとして働く側から見ると改悪としか思えない制度変更がある。
日本ではフリーランスの間でインボイス制度の導入が騒がれているが、イギリスではIR35問題がある。偽装雇用による納税回避を防ぐ法律IR35を厳格化することによって、自営業者が被用者とみなされて社会保険料などの税額が上がるといったものだ。
フリーランスを取り巻く環境は一進一退だ。
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