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男性育休が定着。働き方改革で好業績をもたらした日本ユニシスがやってきたこと

文=編集部
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宮森未来氏(日本ユニシス株式会社組織開発部ダイバーシティ推進室室長)

 日本社会において、育児休業制度を利用する男性は少ない。

 厚生労働省が発表した2018年度の雇用均等基本調査によれば、育休取得率は6.16%。2020年までに13%とする政府目標には大きな開きがある。

 取得率のみならず、期間の短さも問題だ。同調査によれば、5日未満が36.3%、7割以上が2週間未満の取得期間にとどまっている。

 では、男性の育休取得に意識的な企業はどうなのか?

 厚労省は2017年から男性育休の取得に関して模範となる企業を表彰する「イクメン企業アワード」なる賞を行っている。そのアワードのなかには、男性従業員の育児と仕事の両立を推進し、業務改善を図った企業を表彰する「両立支援部門」がある。

 2018年の両立支援部門グランプリはIT企業の日本ユニシス株式会社が受賞した(同時受賞は株式会社サカタ製作所)。

 日本ユニシスは、男性従業員の育休取得率18%、平均取得日数73日という全国平均を大きく上回る数字を達成している。

 男性従業員が育児に時間を割くことを良しとしない組織が未だ多い中、同社はどういった施策を講じてきたのか。組織開発部ダイバーシティ推進室室長の宮森未来氏に話を聞いた。

はじまりはビジネスモデル崩壊への危機感だった

──御社の男性育休取得推進はなにがきっかけで始まったのですか?

宮森未来(以下、宮森) 男性育休取得推進はダイバーシティの取組の一環ですが、そもそもダイバーシティ推進の目的は、イノベーションを起こしやすい環境・企業風土をつくるためです。弊社のダイバーシティは、これまでのビジネスモデルを変革する必要性から始まりました。

──どういうことですか?

宮森 日本ユニシスは設立が1958年で、IT企業としては老舗の部類に入ります。これまでは「お客様の要望を聞いて、そのニーズに応えたシステムをつくる」というのがオーソドックスなビジネスのスタイルでしたが、徐々にそういった仕事のやり方を続けるだけでは生き残りが難しくなりつつあります。
 GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に代表される業界の覇権を握るゲームチェンジャーが現れるなど、IT業界は激しい変動の波の渦中にあります。そこで経営層は従来のビジネスモデルから脱却し、自らイノベーションを起こし持続的に成長する企業へ、ビジネスモデルの変革を掲げました。
 そのためには旧態依然とした企業風土を変えることが必要でした。弊社は2015年度の前中期経営計画から「企業風土の改革」を重要施策として始め、長時間労働の抑制などの働き方改革、女性活躍に代表されるダイバーシティ推進を進めてきました。そのなかのひとつが、男性の育休取得推進です。

──新しいアイデアが生まれやすいように、「仕事のやり方」を変えるところから始めたわけですね。

宮森 はい、はじまりはあくまで「ビジネスモデルの変革」のための「企業風土の改革」であり、もともと男性の育休取得だけを強力にプッシュしていたわけではないんですね。
社員が各々のライフイベントに合わせて働き方を柔軟に変えることのできる改革を進めた結果、男性が育休を取りやすい環境が徐々にできてきた、といった流れなんです。
 経営課題が起点で、強力なトップコミットメントのもとスタートした風土改革でした。

──まず始めにビジネスモデルの変革という「経営課題」があり、それを解決するために働き方改革を進めたと。

宮森 IT企業というと、少し前までは「エンジニアは長時間労働が当たり前」というようないわゆるブラックなイメージがあったと思います。働き方改革を進めている企業のなかには、そうした環境の改善を目的として始めているところもあるのかもしれませんが、弊社はそこがスタートではないんです。
 また弊社では年に1回、全役員や管理職層含め広く社員が参加するダイバーシティのセミナーを開催しているのですが、その場で社長と風土改革担当の役員が登壇し、直接メッセージを発信しています。男性社員の育休についても、「男性社員も当たり前に育休を取得できるようにしていこう」とセミナーの場で呼びかけました。
 経営トップが直接そうしたメッセージを発信することは、改革の大きな後押しになっています。

管理職の意識改革は地道な作業

──とはいえ、いくら経営トップが打ち出した施策でも、現場のマネージメント層の理解を得るのは大変だったのでは?

宮森 急に「ダイバーシティ」とか「男性の育休取得を推進していきます」とか言われても、そもそも管理職の世代の人々にそういった考え方が受け入れられてないので、当然のことながら社内での戸惑いはありました。
 実際、弊社では企業風土の改革に着手する前から、育休に関する制度は法律以上のものが整っていましたが、その取得率は1桁台でした。
 この数字は、それまで弊社において男性育休は、「取得したいから」ではなく、「家庭の事情などで取得せざるを得ないために取る」といった位置づけのものだったことのあらわれだと思います。

──男性の育休取得が進まない最大の理由は、「育休を取得したことにより、仕事のやる気がないと上司に思われるのではないか」「出世や雇用の維持に影響するのではないか」という恐怖心です。ですから、制度はあっても、組織の文化がともなっていなければ無用の長物になってしまいますよね。

宮森 実際、企業風土改革を始めた当初は、「育休を取りたいけれど、正直、取りづらい」といった声も聞こえてきました。

──どうやって管理職の人たちの意識改革を成し遂げていったのですか?

宮森 そこはもう地道にやっていくしかありませんでした。具体的な施策としては、まず、管理職向けにダイバーシティ・マネジメント研修を行っています。

──どんな研修ですか?

宮森 弊社では、子どもが2歳になるまでであれば分割して育休を取得することができます。
 一例をあげると、出産直後のタイミングと、パートナーが復職するタイミングの2回に分けて取得することもできるのですが、そういった取得パターンの例すら管理職は知らなかったりするので、まずはそういった情報をインプットしてもらいます。
 あとは、男性部下から育休取得の相談があった場合や、自分の組織に育休取得者が出たときに、他のメンバーへの仕事の割り振りをどのように行うか等のロールプレイも行って、組織全体でのマネジメントに備えてもらいます。

──そうした地道な研修により、社内の理解が促進されたのですか?

宮森 少しずつですが、意識改革が進んでいるのを感じます。たとえば、管理職向け研修のアンケートに「男性の育休はどれくらいの期間が妥当だと思いますか?」という項目があります。
 改革を始めたばかりの頃は長くても「1カ月程度」といった回答が多かったのですが、最近では「1~3か月程度」、「本人の希望に応じた期間」で7割を超えます。

──しっかり効果が出ているのですね。しかし育児は育休期間が終わった後も続くものです。復職後の制度やサポート、また社内の雰囲気はどのようになっているのですか?

宮森 育休取得者が復職する際には、その後の働き方を考えるワークショップを行い、「仕事と育児の両立はどうバランスをとっていくか」「家事・育児分担は夫婦でどのように行うか」といった課題について実際にシミュレーションしています。このワークショップは、パートナーが社外の方であっても夫婦揃って参加することができます。
 パネリストとして育児中の先輩社員も参加しますので、そういったロールモデルから仕事と育児の両立について実践的な体験談を学んでもらいます。

──制度面ではどうでしょう?

宮森 テレワークや短時間勤務、フレックスタイム等の制度は整っており、うまく活用している社員が多いです。
 夫婦が共働きの場合、例えば保育園の送り迎えに合わせて週の半分はフレックス、パートナーが送り迎えの担当日は通常勤務など柔軟に制度を活用できます。

働き方改革は業績に良い影響を与えた

──制度はきちんと用意されているし、それを使うことができる企業風土もできあがってきたと。ただ、それは社員全員が使える環境にあるのですか?

宮森 そこは課題のひとつですね。なかなか難しい部署もあるのは事実です。
 たとえば、お客様のオフィスに常駐しているエンジニアですね。最近ではお客様の中にも働き方改革を実施している企業が増えており、テレワークや柔軟なローテーションを組むことができているという声もありますが、それも全部ではありません。

──課題は他にもありますか?

宮森 会社全体で働き方改革の推進度を見ると、確実に進んできていると思います。ここ数年、力を入れて取り組んできたことが浸透しつつある。ただ、それがすべての部署に行き渡っているかというと、やはりどうしても差はあります。
 全社でのアンケート調査をすると「男性で育休をとった人は周りにいない」「うちの部署では働き方改革もダイバーシティ推進もまだまだ進んでいない」「テレワークはしずらい雰囲気がある」という意見が聞こえてくることもあって。
 「働き方改革の波から置いて行かれている」という思いをしている社員が、いなくなるようにしたい。そこはマネジメント層の意識改革をはじめ、引き続き地道にやっていくしかないと思います。

──まだ改善すべきところはたくさんあるということですね。

宮森 弊社としては男性の育休取得について具体的な数値目標は掲げていませんが、それでも、育休取得率はもう少し上げたいですね。平均取得日数の73日というのは、比較的長めだと思っていますが、取得率18%というのは、決して高い数字ではないと思っています。

──取得日数に関しては、2018年度雇用均等基本調査によれば、2週間未満が7割越えというのが現状です。

宮森 最近は男性の育休を義務化する議論も起きていますが、男性が育休を取得することの本質は、働き方を見直し、仕事と家庭を両立させた働き方、自分とパートナーのキャリアを夫婦で考えることにあると思います。その作業に2週間で足りるのか。
 「男性も育休をとるのが当たり前」という意識を浸透させるという点では、まず数を増やすことから、という意見もあるかも知れませんが、育休の本質を捉えていないのであれば、たとえ義務化したところで、あまり意味がないと思うのです。

──数値目標を敢えて掲げない理由はあるのですか?

宮森 数値目標を掲げることが有効な場合もあると思います。ただ男性の育休取得については、1~2週間の期間で取得率を上げることよりも、本質的な働き方改革の意識を持つことを優先したいと考えています。またこうした経験は、マネジメントにも確実に活かされると思います。「イクメン」から将来の「イクボス」が生まれることを期待しています。
 弊社にはグループ会社も含めると約8000人の社員がおります。そのひとりひとりが、各々のライフスタイルを持っている。
 私たちは、柔軟な働き方を選択できる制度を用意し、その制度を本当に使いたい社員が使いやすい企業風土を整えることが役割だと思っています。

──なるほど。

宮森 「ダイバーシティ」というのは、国籍、性別、性的指向、障がいの有無など、まずは目に見える属性の違いを受け容れるといった文脈で語られることの多い言葉だと思いますが、私どもの目指す「ダイバーシティ」という言葉は、もう少し広い意味合いがあります。
 社員ひとりひとりがそれぞれ違う属性、ライフスタイル、価値観をもち、その、「個人単位での多様性」=イントラパーソナル・ダイバーシティと呼んでいますが、これを高めることが、他者の多様性を受け容れ、活かすことに繋がるというものです。
 各々が自分自身の多様性を高め、相手の多様性を尊重し、お互いに活かす。こうした多様な「個」が集まることで、イノベーションが生まれやすく、環境変化にも柔軟に対応できる持続可能な組織をつくることができるのだと思います。取り組みを継続することで、このような意識が浸透しつつあり、確実に業績にも良い影響を与えています。

──目標通り、ビジネスにプラスの影響をおよぼしていると。

宮森 業績は4期連続で増収増益を実現しており、直近の2020年3月期第3四半期でも、売上高、営業利益ともに前年同期に比べてアップしています。働き方改革により生産性も上がり、新規ビジネスも結果を出しはじめています。
 こうしてビジネスでも結果が出たことで、社員も企業風土の改革に、より意味を見出してくれるのではないでしょうか。
 「働き方改革をやったけれど、業績が下がってボーナスも減った」では続けるモチベーションも下がってしまいますが、変わる努力をすれば利益にもつながることが分かり始めてきたわけですから。
 ただ、先ほどお話したとおり課題はあり、弊社の風土改革もまだまだ道半ばです。現状では良い方向に転がり始めているので、さらに広がりをもったものに進めていけたらと思っています。

(取材、構成:編集部)

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