【町中華】並盛りを注文しても大盛りのようなご飯が盛られる「庶民の味方」なお店/立川・双葉食堂(東京)

文=昼間たかし
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「ここは、腹ペコのバラダイスなのか」

 あたりの客の食べているものをみて、そんなことを考えた。

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双葉食堂

定休日:土曜日

 立川駅から徒歩10分ほどの住宅街にある店。立地は決してよくはないはず。

 でも、訪れた昼時にはサラリーマンや作業着姿の男性たちがひっきりなしにのれんをくぐっている。みんな食べ方は自由である。タブレットを机の上において、なにか動画を眺めながらラーメンを啜っているサラリーマン。その隣には、作業着姿の男性がラーメンをつまみに瓶ビール。隣に座っている若い二人組の男性の一人は会話をしながら箸を口に運び、テーブルの上に置いたスマホでオンライン将棋をやるという器用なことをしている。

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 この店、いざ入店する時から期待させてくれる。その理由は店の前に掲げられたメインのメニューを掲げた看板だ。とにかく安い、ラーメンは400円。カツ丼は650円。少々、修正した後があるが少し前まではラーメンとカツ丼の両方を頼んでも千円札一枚ですんだということか。

 店の外観は最近になって直した風なのだが、中はなかなか渋い昭和の香り。形状はちょっと変わっていて、入口がうなぎの寝床に横から入るような形。左手奥に厨房があり、メインは4人掛けテーブル。一人用のカウンターは少ない。

 店の人は3人。厨房では老夫婦が調理に励み、 娘さんなのだろうか中年の女性が元気よく「いらっしゃいませ」と言いながら、料理を運んでいるのだ。

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 なかなか期待出来る店だと思って、メニュ ーを眺める。どれも安いが迷う。カツ丼とラーメンもいい。いやいや、こういう店は生姜焼きも美味しいに違いない。

 なにより、昼時である。この取材の後も仕事は続くから大盛りを注文してもいいんじゃなかろうか……。

 でも、いざ注文しようと思って腰が引けた。先客たちに運ばれてきている料理を見て「大盛りは危険だ」と思ったのだ。

 隣のサラリーマンが食べている五目そばはラーメン丼から具が盛り上がっている。具が多いだけではない。麺の量が多めなのだ。

 そして、反対側の隣に座っていた男性たちに運ばれてきた生姜焼きがまたすごい。巨大なさらに色の濃い肉がこれでもかと盛られているのだ。御飯の丼も「相撲部屋か」と呟きたくなる元気のよい盛りである。

 男性たちは「この店の大盛りはけっこうあるんだよ〜」と嬉しそう。五目そばを食べている方も連れと「ハムに豚肉……五目って感じだな」と喜び「このハムがいいねー」と なぜか、幾度もハムを褒めて楽しそうだ。

並盛りを頼んだのに2合近くのご飯が!

 これは、まず控えめに注文したほうがよさそうだ。改めて悩んで、注文したのはカツ丼。

 すぐに注文は厨房に伝わるが、調理する老夫婦はけっこうなマイペース。ほかのテーブルを見ていると二人で麺類を注文しても、運ばれて来るのに時間差がある様子。なるほど、じっくりと待つのがこの店を楽しむ流儀なのか……。

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 やがて運ばれてきた、カツ丼はこれまた奇妙だった。丼の上に沢庵が5枚盛られた小皿が置かれている。そして割り箸も。ほかでは見ないが、なんとも合理的な運び方だ。

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 少し遅れて、お椀に入った中華スープも運ばれて来る。まずは、レンゲでスープを一口。ぐっと味の染みこんだスープ。複雑な味ではない、町中華でよく遭遇する丼いっぱいに盛られた白い粉=化学調味料をこれでもかとぶち込んだ味だ。

 今どきは、様々な粉末だしがスーパーで売られているから、家庭でも化学調味料なんてものはあまり見かけない。たいていの飲食店では、化学調味料は手抜きのように見られるので、存在を隠したがるか、そもそも使わない。堂々と容赦なく使うのは、町中華くらいのもの。ゆえに、その味に遭遇した時に感じるのは懐かしさだ。

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 さて、期待を持って丼を開ける。想像していたとおり値段が安いだけあってトンカツは控えめだ。でも、そんなことは気にならない。なぜなら、御飯の盛りがやたらといいのである。大盛りを頼んだつもりはないのだが2合近くは入っているのではなかろうか。それが多めの汁を吸ってどんどんと膨らんでいる。これは、一心不乱に食べなくては途中でギブアップするヤツだ。

 まずは、カツを一口ほおばり御飯を口に運ぶ。ここでまた、驚く。妙に薄味なのである。

 ふと隣の客が「麺がやわいな〜」と口走っているのに気づく。調理しているのは老夫婦、自分たちが年齢を重ねると共に麺は柔らかく、味は薄めにと知らず知らずのうちに変化していったのだろう。それは、決して悪いことではない。店が経年で変化していることを存分に感じさせてくれるのだから。

 こういう時には中華料理屋には強い味方がある。テーブルに置かれたコショウだ。なぜか経年で味が薄くなった町中華では、コショウをかけると味が引き締まることが多い。ここでも、やはりそうだった。

 あとは一心不乱に食べるだけ。なんとかギブアップせずに最後まで食べきる。しかし、やっぱり予想外の大盛りは身体にちょっとキツかった。あちこちの客がちゃんと最後まで食べようと、にわかにフードファイトをしているようだった。

 会計の時に、厨房のほうにいくと想像通りの白い粉が盛られた器が目に入った。なんだ、この映画のセットみたいな町中華の要素が詰まった店は……。

 量は多いが味は薄めで、ガツンとはこない。でも、近所にあって毎日通うなら、これくらいの控えめがちょうどいいのかなと思った。

 予想外の食べ過ぎに、午後はまったく仕事にならなかった。

 ご馳走様でした。

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