政府主導の「女性活躍」がうまくいかないのはなぜ? 女性が職場進出した実際の理由

文=筒井淳也
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「Getty Images」より

 連載第1回目の記事では、「最初に家庭外でお金を稼いだのは女性だった:専業主婦誕生までの意外な経緯」と題し、働き方についての歴史を紐解くことを通じて、多くの人が働き方やその男女差について抱いているイメージとは異なった事実について書きました。

 日本で最初に大々的に雇用されたのは女性であったこと、女性の家庭への参入がきつい労働力を規制する法律によって促されたこと、などを述べました。今回も、少し歴史について踏み込んでいきます。

女性の社会進出は政策の結果ではない?

 女性が働くようになった「要因」には、どのようなものがあると思いますか? おそらく、すぐに思いつくものとしては、政策的な動きがあるのではないでしょうか。女性の職場進出を促す政策としては、1986年からの「男女雇用機会均等法」、1990年代に登場した一連の育児政策(育児休業法や保育拡充のためのエンゼルプラン)、そして2015年成立の「女性活躍推進法」などがあります。

 もちろんこれらの政策には、女性の社会進出を後押しする効果が、多少はあるかと思います。ただ、数字を見るとそれほど顕著な効果があったとは思えません。働く女性の割合は長期的に変動する傾向があって、1970年代の後半からは、上で登場した政策によって大きく変わったわけではありません。

 働く(厳密には「有償労働」をする)、あるいは求職活動をする女性の割合のことを「女性労働力参加率」といいますが、この数値は1970年代なかごろに底を打ったあと、再び上昇を始めます。U字型の変化をしたわけです。

 1970年代以前までは、自営業や農業で「家族従業者」として働く女性が多くいました。経済が発展するにつれて家業が縮小し、男性は会社勤めの割合が増えますが、女性は専業主婦になっていきます。この「専業主婦化」の流れが反転するのが、1970年代だった、ということです。

女性の社会進出は「副次的結果」であることが多い

 さて、この時代には何か女性の就業を後押しする政策はあったのでしょうか? 実は、ほとんどありませんでした。ではなぜこの時期から、働く女性が増えてきたのでしょうか?

 要因はいくつかありますが、ひとつは「エネルギー危機」です。日本では「オイル・ショック」と言われていますね。1973年と1979年、それぞれ第四次中東戦争とイラン革命を発端として原油価格が大幅に上昇しました。これにより、先進各国の順調な経済成長がストップし、以降は低成長期(あるいは安定成長期)に突入します。

 日本はエネルギー危機の影響から比較的早く立ち直ったのですが、それでも働き盛りの男性のリストラや昇給ペースの下落など、家庭への大きな影響がありました。さらに、前の時期から高校・大学進学率も上がってきており、大きくなった子どもの教育費の負担もありました。不足する家計を補うべく、主婦がパート労働に出始めたのが1970年代だったのです。

 ということは、女性の「活躍」の原因のひとつは「原油価格の高騰」だった、ということです。ここで注意してほしいのは、「原油価格の高騰」は要因ではありましたが、女性の職場進出のための手段ではなかった、ということです。

 「男女雇用機会均等法」は、女性の職場進出を後押しするための手段でした。しかし、「女性の職場進出を進めために原油価格が高騰した」というわけではありませんよね。パート労働に出る女性の増加は、あくまでエネルギー危機の「副次的な結果」なのです。

 実は、この世にはこのような「副次的結果」あるいは「意図せざる結果」があふれています。あまり望ましくないとされる状態、たとえば環境破壊、不景気、少子化などは、それを意図して引き起こそうとする人や組織がいたわけではないですから、たいていは副次的結果です。

 環境破壊は人々の生活を豊かで便利にするための産業化の副次的結果ですし、不景気を引き起こすデフレは、モノを買ったり投資したりするより流動性の高い現金を保有したほうがよいと考える人々の行動の結果。少子化は(日本の場合)望ましいパートナーと出会えないミスマッチなどが生じていることの副次的結果です。

 望ましくない結果が副次的結果である、ということは理解しやすいですね。ただ、そうではない結果についても副次的結果であることが多いのです。女性の職場進出もその例です。

「戦争」や「長寿化」でも働く女性は増える

 女性の職場進出を促したほかの要因の例をみてみましょう。たとえば「戦争」がそうです。戦争が生じると、働く女性が増える傾向が強くなります。なぜでしょうか?

 ひとつの理由は、戦争で前線に駆り出されるのがどういった人たちなのかを考えればわかるでしょう。若くて体力のある男性ですね。戦争では、多くの働き盛りの男性が兵役に出てしまいます。

 他方で、国内での生産活動は止めるわけにはいきません。戦争のための兵器や備品の生産量も増大します。そのため労働力が不足しますが、これを女性が穴埋めするわけです。たとえば1941年の「労務緊急対策要綱」では、政府は「満十六年以上二十五年未満」の女性に国民登録制度を適用し、工場労働などに徴用しました。

 兵役に行った男性の補充としての女性労働という現象は、太平洋戦争時の日本やアメリカで典型的に見られましたが、戦争後に、戦争が原因で女性が労働力化した例もあります。

 スウェーデンのケースが良く知られています。第二次世界大戦で主戦場にならなかったスウェーデンで、イギリスやフランス、そしてドイツなど、戦場になった国に対して復興のための資材を輸出するための労働力が必要になったのです。この需要を満たすために、スウェーデンでは大量の女性が生産活動に動員されました。

 ちょっと話がそれますが、日本は他の先進国と比べて移民の数がずっと少なかったことも、「意図せざる結果」で説明できます。第二世界大戦後、各国は高い経済成長を経験し、労働力不足に直面しました。そこで、大量の(男性)移民を外国から連れてきたのです。

 ところが、高度経済成長期(1950年代なかばから1970年ころまで)の日本では、外国からの労働移民がほとんどありませんでした。これは、ちょうど団塊の世代(1947〜1949年生まれの世代)が中学や高校を卒業した時期が1960年代であり、この人たちが旺盛な労働需要を満たしたからです。

 どうでしょうか。こういった説明において、結果(働く女性の割合が増えること、移民があまり増えなかったこと)は、誰かがそうしようとしてこうなった、というような事柄ではないことがよくわかったと思います。これらは副次的結果なのです。

 さらに女性の労働力参加を増やした別の要因に注目してみましょう。長寿化がそれにあたります。長生きする人が増えると、なぜ女性の労働力が増えるのでしょうか? それは、介護や医療の労働力需要が増えるためです。これらの分野では、女性が活躍する場面がたくさんあります。

 次に少子化があります。「少子化と女性労働力」といえば、しばしば「女性が家庭の外で働くようになったから少子化が進行したのではないか」という声が聞かれますね。これはある程度当てはまりますが、現在では必ずしもそうではないケースが多く見られます。

 ただ、ここで注目してほしいのが、「少子化が女性の職場参加を増やした」という方向性です。これはどういうことでしょうか。

 実は、これも少し頭を働かせてみればわかると思います。以前はしばしばあったのですが、20歳前後に第一子を出産し、そこから2〜5年間隔で数人の子どもを持つとすれば、長ければ末子を育て上げる年齢が50歳になることもありえます。以前は女性の寿命もそれほど長くなかったので、子どもをたくさんもうける女性は、大人時代のほとんどを出産と子育てに費やすことがあり得たわけです。

 他方で、合計特殊出生率が2前後で推移していた1970〜80年代にかけてみられたのですが、25歳で第一子を出産して、27歳で末子を産み終えれば、35歳くらいである程度子どもが手を離れていきます。ここで多くの女性がパート労働者として職場進出していきました。さらに長寿化によって、35〜65歳の30年間、家の外で働こうと思えば働くことができる期間が生まれます。

日本で女性の職場参加を阻んだのは「独特な働き方」の副次的結果

 こう言われてみれば、長寿化や出生率の低下が女性の職場進出を促すというのは、当たり前の話ですね。しかし、これらの関係はあまり知られていません。なぜかといえば、「女性の活躍」は、政治家や企業のリーダー層が指導力を持って進めるべき事柄だ、という考え方が強いからです。

 もちろんリーダー層の政策や経営方針も重要です。しかし長期的に見た場合、女性の職場進出はほとんどが「副次的結果」として説明できるのです。

 連載の二回目「どうして日本でフルタイム共働きは浸透しないのか〜世界でも珍しい「働き方」の国」で説明しましたが、女性の職場参加を阻んだ大きな要因は日本における独特の働き方の発達にありました。日本的働き方と女性の職場参加の低調さとの関係は、もちろん副次的なものです。

 副次的結果として、意外なことが意外な結果を引き起こす。このことをきちんと認識しない限り、表面的なところだけ政策で変えようとしても、無駄になってしまうことが多いのです。

 「女性活躍」に限らず、私たちはこういった気づかれにくい関係をきちんと認識するように努力する必要があるのです。

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