
「Getty Images」より
前々回の記事で書いたように、筆者は2月の半ばに日本に短期間の里帰りをした。その時期、日本では新型コロナウイルス感染がすでに広がっており、マスクの品切れが大きな関心事だった。だが、当時のアメリカの空気は「アジアは大変だな」であり、自国を憂える気配はまだなかった。
アメリカに戻ったのは2月22日。「米国政府が日本からの入国を禁止したらどうしよう」と心配したが、なにごともなく帰国でき、胸を撫で下ろした。ところが3月に入ってすぐにニューヨーク初の感染者が発覚し、以後、事態は急転直下となった。
この記事を書いている3月22日の夜を最後に、非常事態宣言下のニューヨーク市では食料品店や薬局など「必須業種」以外の店舗はすべて閉鎖となった。普段は観光客で賑わうタイムズスクエアも、ニューヨーカーで混み合う地下鉄駅も、とっくにゴーストタウンの様相となっている。
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2月の後半、日本に一時帰国をした。折しもコロナ・ウィルス騒動の渦中ではあったが、帰国の理由は長期入院中の母を見舞い、かつ担当医と面談すること、父の七回…
※以下は3月22日時点の内容です。事態は刻々と変化していること、コロナ対策の規制は州や行政区によって異なることをご了承ください
アメリカの今
アメリカに戻ってからちょうど1カ月となった。この間に起きたアメリカの事態の変動は凄まじく、今では日々の生活をどうサヴァイバルするかに懸命になっている有様だ。
3月22日時点で全米の感染者数は32,722(死者416)。
州別ではニューヨーク州が最多の15,168(114)と、全米の総感染者数の半数近くを占めている。続くニュージャージー州、ワシントン州、カリフォルニア州はいずれも2,000人以下であり、ニューヨーク州の突出ぶりがわかる。
ニューヨーク州内ではニューヨーク市が感染者数8,115と、州全体の過半数となっている。市長自らがニューヨーク市を「アメリカにおける新型コロナウイルスの “震源地” 」と呼んだ所以だ。
ニューヨーク~ロックダウン
連邦だけでなく、ニューヨーク市とニューヨーク州もそれぞれに非常事態宣言を出しているが、市と州は完全なロックダウン(都市封鎖)を意図的に避けている。理由は人の多さ、貧困家庭の多さ、なるべく経済を停滞させたくない、の3つだと思われる。
当初、市長は「公立校の一斉休校は行わない」とした。Pre-K(3~4歳児幼稚園)から高校まで合わせて110万人もの生徒がいる。共働き、ひとり親の家庭が多いが、少なくとも小学生までは鍵っ子など子供を一人にしておくことが禁じられている。家庭内でのケガや火事といった事故が起こり得るため、児童擁護の観点からだ。
つまり一斉休校になると多くの親が仕事に出られなくなるが、時給制や低賃金で働き、1日たりとも欠勤できない低所得者が多く、一斉休校は大変な混乱を引き起こすことになる。
加えて食事の問題があった。公立校は全ての生徒に朝食と昼食を無料で出している。学童保育に参加する子供にはおやつ、または夕食も無料で供される。これらの給食のみがまともな食事である貧困家庭の子供が少なからずいる。
ホームレスの子供も非常に多い。現時点で2万人を超える子供が家族ホームレス・シェルターに暮らしている。さらに、それをはるかに上回る人数が自宅を持たず、親族や友人知人の家に身を寄せている。家族ホームレスシェルターは1家族1部屋だ。親族の家に間借りのケースも似た事態となる。休校になると大人と子供が1日中、1部屋にすし詰めで暮らすことになる。親と子の双方にとって精神衛生に良くないことは明白だ。今はまだ表面化していないが、DV家庭の様子が心配される。
無人のタイムズスクエア 3月22日 午後9時前
Hanunted streets. An empty Times Square during social distancing. pic.twitter.com/5yWdusMrO7
— Drift (@DrifterShoots) March 23, 2020
「自宅に留まれ」
非常事態宣言下、米国は市民への自粛の要請ではなく、禁止令を出す。
ニューヨークは観光都市でもある。しかし感染者数が凄まじい勢いで増え、市や州は完全ロックダウンは避けながらもブロードウェイ劇場、コンサート会場、スポーツ・アリーナ、映画館などを次々と閉鎖する行政令を出さざるを得なかった。
当初、レストランは「座席数の半分以下の客しか入れてはならない」とする条令を出した。レストランは遵守したが、夜になるとバーは飲み客で混み合った。その結果、レストラン、カフェ、バーなどは「テイクアウトとデリバリーのみ」で、店内での飲食は禁止となった。
全米の他の都市や州でも内容に多少の違いはあれど、ロックダウンがなされていった。かつ政府がヨーロッパからの入国禁止令を出し、カナダとの国境を封鎖した。飛行機の乗客も激減し、航空会社は便数を減らしていった。
当然、他州からの観光客、外国からの観光客が消え、街が閑散とし始めた。
多くの企業がリモートワークを始め、通勤者の姿も消えた。
自ずと買い物客も大きく減少したため、ナイキ、GAP、メイシーズ(デパート)、セフォラ(コスメ)など全米チェーン店が自主的にクローズを始めた。規模の大きな店ほど営業コストが高く、大々的な赤字となる前に閉店を決めたのだ。
そうこうしている間にも感染者数はさらなる勢いで増え続け、市長もついに3月16日からの一斉休校を決断した。
やがて「必須業種以外の閉鎖」令が出された。以後、スーパー(食料品店)、ドラッグストア、銀行など、それが無くては市民の生活が成り立たない業種のみが営業を続ける。
市民には家に留まるよう勧告が出されているが、完全な外出禁止令ではない。必須業種店舗への買い物、散歩やジョギングといったエキササイズや犬の散歩などは「他者と接触しないように行う」となっている。「他者とは常に6フィート(約1.8メートル)の距離を保つ」アドバイスも出ている。
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