新型コロナ非常事態宣言:人のいなくなったニューヨークで起きていること

文=堂本かおる
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問題を広げる所得格差

 市長、州知事は市民、州民の命を新型コロナウイルスから守り、かつ生活を持続させるためにフル活動している。

 ニューヨーク市では一斉休校となった代わりに、子供への食事の完全無料配布を開始した。学校など指定の場所へ行けば、朝・昼・夜の三食をまとめて受け取れる。公立校の生徒に限らず、18歳以下であれば誰でも受け取れる。身分証明は不要だ。

 これは以前より夏休みなど長期の休みに行なっているプログラムであるため、スムーズに開始できた模様だ。

 行き詰まっているのがリモートスタディ(自宅学習)だ。3月23日より教師と生徒がネットを使って授業を行うこととなったが、ここでも低所得家庭の問題があった。多くの家庭がPCやタブレット、およびWi-Fi環境を持っておらず、市の教育庁は30万台のiPadを無料貸与するとした。

 おそらく最新モデルではなく中古や型落ちであると思われるが、それでも30万台ものiPadを一週間で調達できるはずもなく、かつ並行して教師への緊急トレーニングも行われている。だが、教師にも感染者は出ているはずだ。23日から予定されているリモートスタディの先行きはまだ曖昧なままだ。

 市長、州知事ともに疲れとフラストレーションが溜まっていることは明らかだ。ビル・デブラジオ市長は定例のコロナ記者会見でトランプが「大統領としてできることをしていない」と激昂した。アンドリュー・クオモ州知事はコロナ対策についてCNNに出演した際、番組ホストのジャーナリストが実弟のクリス・クオモであったことから、会話がコロナとは全く関係のない兄弟喧嘩となってしまった。

 そもそも市長と州知事が以前より犬猿の仲でもある。州知事が市長の発言や政策を知事の権限でひっくり返すこともしている。同時に、2人それぞれにトランプの無策、無能さを批判している。それでもクオモ州知事が優れたリーダーシップを発揮していることから、SNSでは「クオモを大統領に!」という声が上がっている。

トランプ「コロナなんて奇跡のように消える」

 トランプは当初に連発していた「コロナなんて奇跡のように消える」「民主党のホラだ」の類の無責任極まりない発言を減らし、今では連日、記者会見を開いている。ただし、新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼び続け、記者から非難されると「チャイナから来たからだ」と完全に開き直る次第だ。先日は記者に「恐怖を感じている国民になんと言いたいか」と問われ、「お前は悪いジャーナリストだ!」「センセーショナルに煽っている!」と激昂した。

 トランプはウイルスが自国民を殺していること、自分の発言によってアジア系への差別事件が起きていることなど眼中にない。すでに航空業界、小売業界などで大量のレイオフが始まっており、このままでは失業率が20%にハネ上がるという意見も出ている。トランプは、ただただアメリカ経済の破綻を恐れているのだ。トランプ個人の不動産業に直結するからだ。もちろん11月に迫った大統領選への影響も憂慮している。

 トランプ自身は経済を保つ具体策を発案できるはずもないが、共和党議員が作っている。全ての納税者に1,200ドルを支給する案が出ているが、納税額による減額があり、低所得者は半額とされている。まさに「上納しない者は見捨てる」政策である。

 民主党側の救済法案とは全く相容れない内容であり、法案は紛糾している。

ニューヨークを支えるニューヨーカー

 ニューヨークの病床はすでに不足しており、州知事は大学や大型コンヴェンション・センターを緊急の患者収容施設にすることを検討中だ。1,000室を持つ海軍の病院船もやって来る。

 医療従事者も不足しており、市長は引退済みの医師や看護師、すでに資格を持っている医大生、看護学校生を募っている。

医療従事者を募るポスター。戦時下の徴兵ポスターのリメイク 市長室の公式ツイッター

 医療現場ではマスクや医療衣が不足している。トランプはマスク購入に連邦支出は行わず、メーカーに無償提供を働き掛け、同時に各行政の首長や病院のトップに自らメーカーに圧力をかけるよう促した。現場の第一線で感染者と対応し続ける医師や看護師を守る気が大統領にはないのである。

 州知事はツイッターにて一般市民へのマスク製作と納品を訴えた。無料ではなく、商品代金は州が支払うとしている。即座に縫製工場主などが「大量に縫える」とリプライしている。3Dプリンターによる立体マスクが可能という応答もあった。

 ニューヨーク市は米国の他のどの都市よりも公営の地下鉄とバスへの依存度が高い、非・車社会だ。地下鉄はニューヨークのシンボルとすら言える。その地下鉄が今ではすっかりガラガラで運賃収入が激減し、交通局はすでに連邦への支援を要請している。だが、自身が感染するリスクを冒して働き続ける医療従事者、警官、消防、救急隊員、そして必須事業就労者などのために平日ダイヤでの運行を続けている。

 今日の記者会見で州知事は、「州民の4~8割が感染」し、「ロックダウンは4~6カ月、もしくは9カ月続く」可能性を語った。

 今、我々一般市民にできることは、引き篭もり生活によるイライラを極力抑え、出来る限り「家に留まること」のみ、なのである。

(堂本かおる)

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