優秀な人材を採用したいなら、履歴書から「年齢・性別・写真」欄を取っ払えばいい

文=原宿なつき
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「GettyImages」より

 日本だと、履歴書に年齢と性別を記載し、写真を添付するのは「当たり前のこと」だと認識している方が多いと思います。私もかつては、当然のことだと思っていました。

 大学に入り、留学生の友人から、「アメリカでは履歴書に年齢も性別も書かないのが普通だし、写真も添付しないことが多い。だって、必要ない情報でしょ?」と言われて、「たしかに!」とショックを受けたことを覚えています。

 募集している枠にその人が適職か否か判断するために、(ほとんどの場合)年齢や性別、容姿は関係ないはずです。アメリカは多様なバックグラウンドを持った人が混在しており、人種・性別・年齢差別に敏感な国だからこそ、履歴書に不要な情報を書かせないことで差別を排除する工夫をしてきたのでしょう。

 また、「履歴書は年齢・性別・写真を必要としない」ことがデフォルト化した背景には、不平等や差別を無くすために社会的に正しいという共通認識とともに、「差別することで、優秀な人材を獲得できなければ企業にとって死活問題である」という認識があったことも想像できます。

 日本も他人事ではありません。少子化が進む今、新卒一括採用にだけ力を入れ、年齢・性別・容姿によってふるいにかけるような差別的な採用活動を続けていけば、日本の経済がさらに落ち込んでいくことは目に見えています。一刻も早く、公正な採用方法に切り替えるべきでしょう。

 今回は、ハーバード大学ケネディ行政大学院教授イネス・ボネット著『行動経済学でジェンダー格差を克服する』(NTT出版)を参考に、差別や偏見を極力排除し、優秀な人材を採用するためのヒントをご紹介していきます。

採用活動を「似た人を探す活動」で終わらせる弊害

 採用活動の目的は、「優秀な人材を得ること」だと頭ではわかっている人でも、実際の行動は異なることが珍しくありません。採用活動においては、しばしば「能力」よりも「相性」が重要視されているのです。イネスは、「人は自分と似たような人を採用したがる傾向がある」と指摘しています。

<投資銀行、法律事務所、経営コンサルティング会社の採用プロセスを調べたリヴェラ(引用者注:社会学者のローレン・リヴェラ)によれば、いずれの業種でも、候補者の評価を大きく作用するのは企業文化との相性、つまり候補者の経歴や趣味や自己呈示が既存の社員たちとどの程度似ているかだという。リヴェラが話を聞いた採用担当者の過半数は、採用面接時に最も重んじる要素として相性を挙げている。(略)白人弁護士のデニスは、「採用面接とは要するに、候補者と自分との共通点を探すことだと思う」と言い切っている。>(P.159)

 アメリカでは年齢・性別・写真を履歴書に記載させない、と前述しましたが、それだけでは完全に公平な採用はできません。履歴書に書かれた名前からアジア系やアフリカ系だと推測できる場合、アジア系・アフリカ系の名前が書かれた履歴書は白人の名前が書かれた履歴書よりも評価は下がる、という実験結果があるといいます。

 履歴書に書かれた名前が白人系でないがゆえにアメリカ社会で不利な結果になる、という不平等は、採用担当者の多くが白人であり「自分との共通点は少ない」と判断することによって引き起こされます。

 これは、採用する側にとっても、採用される側にとっても、不利益がある状態です。採用する側は自分と似た人を採用することに無意識に拘るあまり、公平に候補者の能力を判断することができていないのです。

女性は年収一千万を目指せる営業より月25万円の事務職の方がいい?

 私の友人でS子という女性がいます。S子は20代後半まで教育系の仕事についていましたが、給料が低いことなどに不満がつのり、稼ぎたい、という思いで不動産会社に転職を決意しました。しかし2年目でも実力次第で年収一千万も夢じゃない、という求人広告に惹かれて、ある大手不動産会社の営業職の採用面接に出向いたS子は、面接で驚くべき提案をされたのです。

 それは、「事務職なら採用できる。月25万円でどう?」という提案でした。S子は驚いて、即断ったとそうです。「2年目で年収一千万!」という広告に惹かれてきた人が、「月25万の事務職」を魅力的に感じるはずはありませんよね。S子は、「面接に来ていたのは私以外全員男性だった。彼らが事務職にならないか、と打診されているとは思えない。家に帰ってから、女性だから差別されたんだ、とわかって悔しかった」とのこと。

 採用担当者に女性差別をしている意識はあったのでしょうか? いえ、きっと、社内にはその条件で働いている事務職の女性が大勢いたのでしょう。採用担当者は、「不動産の営業は女性には厳しいから、高収入は見込めないけれど、安定した事務職の方が女性は喜ぶかもしれない」と思ったのかもしれません。つまり、差別しているつもりなく差別していた、ということです。

 S子はその後、別の不動産会社に就職し、頑張って働いて、希望の年収を得られるまでになりました。最初に面接を受けた不動産会社は優秀な営業部員を採用できる可能性があったのです。しかし、偏見があったために、同業他社に取られてしまいました。

 このような悲劇をなくすためには、どういった対策が講じられるでしょうか?

思考ではなく「行動デザイン」を変える。一枚のカーテンで採用が変わる!

 イネスは、「女性差別・年齢差別・容姿差別はダメ!」といった教育を社内で行い、人々の思考を変えようとすることは「目指さない方がいい」と断言します。そもそも、当人が差別しているという意識がないのですから、「思考を変える」というアプローチには限界があります。

 では、何を変える必要があるかというと、「行動デザイン」です。公平な採用を促す「行動デザイン」を作るうえで、参考になる事例を紹介します。

 1970年代後半、アメリカの5大オーケストラの女性演奏家の割合はわずか5%でした。オーケストラの演奏において、人種・民族・性別などは関係ないはずであり、採用する側も、自分が性別によるバイアスを持っているという認識はありませんでした。「能力だけを判断した結果、大幅に男性が多かった」と思われていたのです。

 事態が変わったのは、「ブラインド・オーディション」(カーテンで候補者を見えないようにして、音だけ聴かせる)を実施した後でした。一枚のカーテンを導入するだけで、女性演奏家が次の段階に進む確率は1.5倍に増え、最終的に採用される割合も飛躍的に増えたのです。

 オーケストラの採用担当者に、「採用において、女性を差別するのは倫理的によくないですよね」といくら教育しても、こういった結果は導きだせなかったでしょう。思考を変えようとするよりも「行動デザイン」を変える方が、公正な結果になりやすい、というよい例です。

日本に女性を差別する“余裕”はある?

 日本も「女性の活躍」を掲げるようになってはいますが、なぜ家父長制に固執しているように見える(個人の意見です)現政権が、女性を家庭の外で働かせようなどと主張し始めたのでしょうか。

 日本はジェンダーギャップ指数からもわかるように、政治や経済の面で男女差が激しい国であり、男女の経済格差は放置されています。それでも「女性も社会で働いてほしい」と言わざるを得なくなったのは、「どうやら、女性を労働市場から締め出す余裕はなさそうだ」ということなのでしょう。

 1992年にノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・ベッカーは、「差別への嗜好」と言う言葉を使い、「多くの社会では、差別的な嗜好のままに行動することでコストを払っているが、競争にさらされたとき、差別解消が後押しされる可能性がある」ことを指摘しています。イネスによると、この点は実証研究によっても裏付けされているそうです。

<激しい競争にさらされている企業は、競争から守られている企業に比べて女性を多く採用することがわかっているのだ。多くの企業は、女性をーー高い資質をもっているけれど、望まれていない人材をーー差別できる余裕があるとき、差別を行う>(P.54)

 前述の不動産会社が、「性別に関わらず優秀な人を見抜いて採用したい」ではなく「男性の中から優秀な人を選びたい」と(無意識かもしれませんが)選別していたのも、ある意味、余裕をぶっこいていた態度だと言えるでしょう。

 差別できる余裕はない、差別をなくして公正な採用活動をしたいのであれば、「そのためにはどういった行動デザインが有効か」を考える必要があるでしょう。『行動経済学でジェンダー格差を克服する』には、様々な実験や行動デザインの例が記載されているので、利益と公正さを追求したい経営者、採用担当者、ダイバーシティー推進担当者、求人広告を作る人、などに特におすすめできます。

(ただし、イネスは、「競争だけに頼って、嗜好に基づく差別は解消しようとしても成功しない」とし、法律などによって、すべての人に等しい権利を認めることも重要だ、とも指摘しています)

結論。公正さを追求できる行動デザインを導入しよう

 オーケストラが一枚のカーテンを導入したことで、無意識のバイアスを排除して優秀な人材を採用できたように、採用プロセスを改善することは難しくはありません。

 そのひとつの方法として、「履歴書に年齢・性別・国籍・写真などの記載・添付を義務付けないこと」が挙げられます。「わが社は採用時において、年齢や性別、国籍、容姿による差別はしません。よって、これらのことを履歴書に書く必要はありません」と明言することで、企業のイメージアップにもなり、優秀な人材を惹きつけやすくなるでしょう。

 「意識向上を目指すダイバーシティー教育」の成果を首を長くして待つよりも(※1)、「バイアスを排除する行動デザイン」を検討した方が、公平な採用・評価に早く結びつくのではないでしょうか。

※1 意識向上を目指すダイバーシティー教育に効果はある?
バイアスを認識して取り除くことは容易ではない。<ダイバーシティ研修は、社員にみずからバイアスを認識させるだけで終われば、人々の考え方を変えられない可能性が高い。ましてや、行動を返させることはきわめて難しい>(P.64)ダイバーシティー教育の有用性については詳しく知りたい方は『行動経済学でジェンダー格差を克服する』二章をご覧ください。

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