母子の絆を過度に重視する「母乳神話」のルーツはどこにある?

文=山田ノジル
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「Getty Images」より

 育児中に遭遇する理想論には「手作り信仰」やら「三歳児神話」やら、いろいろなものがありますが、「母乳神話」もそのひとつ。母乳でこそ、子どもは健康に育つ。何が何でも母乳でなくてはならぬ。母乳が一番。母乳で育てないと大変なことになる……という呪いをふりまく、育児界の大きな沼のひとつでしょう。これに苦しめられたというお母さん方は、たくさんいるようです。

 当連載でも過去に「母乳で育った子どもは目の輝きが違う」なる珍説はどこから来ているかや、「あなたの母乳は冷たくてまずいから、赤ちゃんが飲まない」と言われた体験談などをご紹介してきましたが、今回は近代における母乳推進派の著書から「母乳教」の源流をたどっていこうと思います。

▼参考記事:
珍説で粉ミルク育児を断罪する「いきすぎた母乳神話」は誰が作っている?

母乳でなければ心が形成されない説

 今回注目したいのは、1984年に発行された『母乳は愛のメッセージ』(山陽新聞社)※現在は絶版。著者は、新生児・未熟児医療の権威である故・山内逸郎(やまのうち いつろう)医師です。山内医師は母乳育児推進にも力を注いだことから、助産師の間で有名な存在だったよう。昭和世代によく知られているのは、1975年に鹿児島に誕生した五つ子の命を救い、後に主治医となった出来事でしょうか。低体重児で生まれた五つ子の育児を「ぜひ母乳で」と指導し、4番目の妙子ちゃんの危篤も母乳の力を信じることで乗り越えられたと、同書で語られていました。

 さらに山内医師は「採血でなく、肌に光をあてることで新生児黄疸を測定できる機械の開発」を指導したなど、偉業はほかにもたくさん。私は五つ子とほぼ同世代なのでリアルタイムにそのご活躍を見聞きしていませんが、経歴だけ見ていても、日本の赤ちゃんにはかり知れない恩恵を授けてくれた伝説の名医であることがわかります。……なのですが、同書は相当に強烈。何が何でも絶対母乳。母乳でなければ親失格ぅ! と言わんばかりの、メッセージがびっしりだったので。

 山内医師がこう語った時代背景や感想は後に回し、まずは衝撃的だった部分を抜粋させていただきましょう。

 同書は母乳育児の方法をレクチャーするほか、母乳における免疫(特に初乳)や消化などの「機能面」と、絆といった「精神面」の2点を主に解説しています。前者は、母乳は母体の回復を助ける働きがあることや、初乳には免疫に重要な意味があるという、現在も謳われているメリットですので、いま読んで驚くようなものではありません。

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