新型コロナウイルス:ニューヨーク「死と隣り合わせ」の現実〜ロックダウンが収束への道

文=堂本かおる
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「GettyImages」より

 4月7日、日本政府も7都府県に限ってだが、ようやく緊急事態宣言を発令した。 遅きに失するとならないことを祈るばかりだ。ニューヨークでは、経済の停滞、低所得層の子供の生活を憂慮し、学校閉鎖を含むロックダウンが遅れた。これが想像を絶するパンデミックを引き起こした。

 この原稿を書いている4月8日の時点で、ニューヨーク市の新型コロナウイルスによる死者は4,000人と、全米の死者13,000人の30%を占めている。ニューヨーカーにとってコロナはもはや「感染が怖い」ではなく、「死」に直結したウイルスなのだ。

 私は今日、必要があり、郵便局に出向いた。郵便局と銀行は食料品店、薬局などとともに必須業務に指定されており、通常どおりに営業している。ただし郵便配達の頻度は下がっている。感染する配達員が増えているのだ。

 郵便局内の床には6フィート(180cm)ごとに黄色い足跡のステッカーが貼られている。スーパーマーケットであれ、歩道であれ、とにかく他者と6フィートの距離を取ることが徹底通達されており、市民の間にすでに定着している。

 顔なじみの女性局員が「元気?」と声を掛けてくれた。「元気。あなたは?」と聞き返すと「元気よ」。最後は「Be safe.」「あなたもね」と交わし、郵便局を後にした。

 今は自宅にいても救急車のサイレンがひっきりなしに聞こえてくる。ニューヨークの救急車だけでは足らず、他州から救急車と救命士が支援に駆けつけてくれているのだ。サイレンを聞くたびに、中に重症者が乗っているのだろうと思う。

 郵便局を出たところに高齢者専用のアパートメントがある。その前に救急車が回転灯を点けたまま停まっていた。

 そこから少し歩くと、公立の大きな病院がある。入口前の歩道はかなり広いのだが、そこにチョークで何やらぎっしりと書かれていた。新型コロナウイルスで亡くなった医療従事者たちの名前だった。

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R.I.P. ビブ・ザイディ 
R.I.P. キム・キング=スミス 
R.I.P. リ・ファン
R.I.P. ムハマッド・モハマディ
R.I.P. スティーヴン・シュワーツ
R.I.P. リサ・エドワルド
R.I.P. キオウス・ケリー
……
……
……

 患者を救うために自らを犠牲とした人々だ。中の一人、キオウス・ケリーは防護服が足らず、黒いゴミ袋を着て職務に当たっていた看護師マネージャーだ。

*R.I.P.= Rest in peace(安らかに眠れ)

医療崩壊・院内感染

 この病院に私と夫の共通の友人(52歳の男性)が入院している。お見舞いには当然行けず、以下は本人から電話で聞いた経過。まさに医療崩壊の犠牲者である。

3月10日:4〜5日続いた胃のあたりの痛みに堪え兼ね、病院に。そのまま入院
3月11日:糖尿病由来のバクテリアによる化膿と診断され、緊急手術・成功
3月12日:ニューヨーク市・非常事態宣言
3月半ば:病院はコロナ患者で手一杯となり、緊急以外の手術を停止。友人の予定されていた予後の手術も延期
3月22日:ニューヨーク州・ロックダウン
3月24日:予後の手術1回目・成功
3月26日:予後の手術2回目・成功
3月30日:38.2度の発熱
3月31日:コロナ検査を受ける。この日、ニューヨーク市のコロナ死者数1日で258人
4月3日:陽性の結果が出、一般病棟から隔離病棟の個室へ。一般病棟では他の患者との相部屋だった

 入院と発熱の時期を考えると、院内感染の確率が高いと言える。

 普段はとても明るく、人を笑わせることの好きな友人が、電話では人が変わったように落ち込んでいた。コロナ感染の発覚以前に、すでに予後の手術を延期されて長期入院となっていたわけだが、コロナ禍ゆえに誰も見舞いに来れず、痛みだけでなく孤独にも耐えなければならなかった。看護師に予定を聞こうにも皆バタバタと走り回っており、満足な答えは得られなかった。ようやく予後の手術を終え、これで退院かと思った瞬間にコロナ感染が発覚した。

 持病と年齢にもかかわらず、幸いにもコロナは “軽症” であることから、今は医師から退院を迫られていると言う。信じられない。3度の手術とコロナ感染で体力は弱り切っている。歩くのも難儀な今、友人は自宅に戻るのが怖いと言う。

 「大丈夫、私たちが食料品とか、要るものを買い物して家のドアの前に置きに行くから」と言うと、友人は、なんと泣き始めた。「ありがとう……だけどボクは感染している。皆に恐れられる」

 大の男が、いつもはあれほど陽気な人が、泣いたのだ。

 友人も私もあえて口にしなかったのは、友人に持病があること、50代であることだ。果たしてこのまま “軽症” で終わるのだろうか。

ロックダウンの遅れ+トランプ

 ニューヨークのパンデミックは、人口過密都市でありながらロックダウンが遅れた結果だ。ウイルスは人を介して感染する。人が動き、他者との接触が増えるほど感染者は増える。感染者が増えるほど死者も増す。だが、医師や看護師を含む必須業務従事者は患者を救うため、社会の土台を回すために働かねばならない。大都市ほどその人数も増え、感染も拡大する。

 つまり、一般人にできる唯一の貢献策は「家にいる」ことなのだ。パンデミック社会はこのギリギリのバランスを綱渡りしなければならない。そのバランスをデータに基づき、日々必死に模索しているのが、アメリカでは大統領ではなく、各地の州知事や市長だ。今、ニューヨークではアンドリュー・クオモ州知事、ビル・デブラジオ市長による、文字どおり命をかけた闘いが続いている。

 一方、大統領のトランプはパンデミック拡大に貢献しているとさえ言える。

 トランプはニューヨーク州からの人工呼吸器の要請に「なぜそんなに大量にいるのだ」と言った。人が死んでいるから必要なのだ。

 トランプの義理の息子(イヴァンカの夫)で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナーは、本業は不動産業者であり、政治も伝染病も素人だ。そのクシュナーが政府のコロナ記者会見に現れ、人工呼吸器やPPE(医療従事者のマスクや防護服など)の連邦備蓄を「我々のもの」と言い切った。PPEの不足は医療従事者を殺し続けているにもかかわらず。

 市のスローガン「Stay home」を守らないニューヨーク市民も、感染を広げている当事者だ。自宅に何日もこもることに耐えられず、天気の良い週末には大量の人が街やビーチに出てしまう。

 そうこうしている間にも感染者が出、救急車が走り回り、病院の外に停められた遺体安置所代わりの冷蔵トレイラーに遺体が運び込まれている。市行政は、もし必要であればブロンクス沖合のハート島を当座の埋葬地にすることも考えていると言う。
(堂本かおる)

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