「母親がカレーを食べると母乳がバイ菌だらけ」…今も実践される西原式育児法とは

文=山田ノジル
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「GettyImages」より

 15年ほど前、取材の待ち時間に男性スタッフと雑談していると、こんなことを言い出しました。

「子どもは2歳くらいまで、母乳だけでいいと思ってるんだよね~」

 たしかその男性はまもなく結婚を控えていて、お相手は妊娠中だったような記憶があります。そのとき自分は独身。育児法どころか妊娠出産の基本情報すらほとんど知らなかったので、「そうなんですね~」と適当な相づちを返してました。ああ、今なら盛大にのけぞったでしょう。いやいやいやいや……。正気かよ?

 しかもそれがいいと語る本人は、母乳を出すわけでもなく、ましてや食事制限される本人でもなし。音信不通となった今は実践したのかどうかたしかめる術はありませんが、あれはもしかしたら「西原式育児」のことだったのかも。

 西原式育児とは、元・東大病院口腔科の医師である西原克成氏が独自に考案した育児法のこと。知人男性の口からも出た「離乳食を遅らせる」という点が最大の特徴でしょう。科学的根拠のない育児情報の中でも「母乳神話」は有名どころですが、同じ母乳ネタでも西原式育児はこれとはまた少し異なる異界です。西原式育児では場合によっては粉ミルクでもOKとし、離乳食を遅らせる目的が「アレルギー予防や鼻呼吸を身に着けさせるため」なのです。今回は、この物件をご紹介していきましょう。

 そもそも口腔科の医師が、なぜ育児法? それはたくさんの患者と接したり、生命の進化を研究するライフワークの中で「今の子育てがいかに間違っているか」を実感したからとのことです。しょっぱなから余談になりますが、西原医師と面識があるという私の知人は、初対面の挨拶をした直後「Oリングテスト」をされたそう。つまり、メインストリーム外のものがお好きなのですねぇという印象です。

早い離乳食は脳をダメにする!?

 手元にある『西原博士のかしこい赤ちゃんの育て方』(アート医研)には、「まったく新しいタイプの育児書」とありますが、初版は2001年と約20年前。そこから育児情報もどんどん更新されていますから、今から見れば、すでに「ひと昔前の変わった提案」でしょう。

 ところが今でも、神田うのが実践していたなどでちょこちょこ話題に上ったり、SNSでは「#西原式育児」なるタグを大量に見つけることも難しくありません。Instagramでは、こんなタグたちと一緒に並んでいます。

「#グルテンフリー」「#ミキ」「#感謝しかない」「#腸内細菌」「#自然治癒力」「#自然派ママ」「#ふんどし育児」「#量子力学」etc.

 この手の話題に敏感な方はきっと、何かを察したでしょう。いわゆる「ていねいな暮らし」とも大変親和性が高そうですね(ついでに「冷えとり健康法」とも相性ばっちりです)。

 西原医師はこう力説しています。

吸てつをおろそかにしたり、省略して離乳食を与えるととんでもないことになります。今の日本の育児法は文明圏では最悪で、6つ誤りがあります。呼吸法、食べること、寝方がでたらめなのです
※新生児期の、母乳を飲むための原始反射。口に入ってきたものを強く吸う。

戦争に敗れる前までの日本の育児法が世界で最もすぐれていたのです。6つの過ちで、今の子は育つとともに顔と背骨がつぶれて、一生アレルギーマーチを友としてよらよら(原文ママ)の老年期を迎えています

自分の子の顔と背骨を親の不注意でつぶさないでください。早い時期に与える離乳食で脳を駄目にしないでください。子育てを自然のスタイルに戻せば、こぶりでピカピカの賢い子が育つのです

 「こぶりでピカピカ」ってどういう意味!? と、さっそく困惑の声が上がりそうなので先に説明しておきますと、この育児法を厳密に実践すると平均的な体格より小さめになると思われ、その不安をぬぐうため、こう表現しているのかな~という感じです。裏を返せば「体格がよくても、中身はどうだか?」という不安を植えつける呪いにもなりそう。

アレルギーになるという脅し

 一般的な育児法を「でたらめ」「最悪」とこきおろす西原医師。では何が正解なのか? 同書や西原式育児のHPでは、こんなポイントが主張されていました。

・離乳食は1歳半~2歳を過ぎてから
 腸の機能が大人に近づくのは2歳ころ。「5か月を目安に」という一般的な離乳食開始の時期は早すぎる。赤ちゃんの腸は消化能力が未熟で、食べたタンパク質を小さな分子に分解できないまま吸収してしまい、体がそれに反応し抗体を作り出してしまう。年々アトピーの子どもが増えているが、それがその証拠! 本来、2歳半までの乳歯は、お乳を吸うための歯である。もし子どもが食べ物を食べたがったら、「病気になるから2歳半になるまでお乳だけにしようね」と諭すべし。アメリカでも「心ある」小児科医は「最低でも1年は母乳で育てること」を指導している。

・「おしゃぶり」を活用する
 口呼吸は万病のもと。口呼吸は喃語くらいのタイミングで始まるので、それを阻止して鼻呼吸を身につけるためにも、3~5歳くらいまでおしゃぶりを使うべし。おしゃぶりをくわえていると、赤ちゃんは舌を盛んに動かすので、顎の筋肉も同時に動き顎も歯列も発達する。脳は筋肉を動かすシステムなので、おしゃぶりを吸う吸てつ運動で血行が良くなり脳も急激に発達。子どもの才能を伸ばすためにも、おしゃぶり必須! おしゃぶりを嫌がる子には「おしゃぶりを使わないと病気になるんだよ」とよく諭す。説得のため、父母も一緒に使う。

・ハイハイを十分にさせ、いろんなものを舌でなめさせる
 ハイハイは、首まわりなど大切な器官の発達に大変重要。また、いろいろなものをなめることは、いろいろな菌に触れて健康になる大切なプロセスである。

・眠るときは仰向け寝で
 横向きや俯せの場合、下側の鼻が詰まるため口呼吸になるので、鼻呼吸にするため仰向け寝にする。

・温かく育てる
 免疫にかかわる腸を冷やすなど言語道断! 常に体温以上の飲み物を与える。母乳を与える、母親側も食生活に気を付けるべし。母親の体に入りこんだ抗原性のタンパク質は、へその緒を通って赤ちゃんの体に流れこんだり、母乳に混ざる。するといくら離乳食に気を付けても、アトピーは防ぎきれない。紙おむつは冷えるので、赤ちゃんは不機嫌になる。顔や手や足が冷たいだけでも、おむつや靴下のゴムがきついだけでも、赤ちゃんは緑便や便秘になり、同時に低体温になる。理想は、耳の鼓膜温度で37℃から37.5℃。

「伝統」に固執する

 「仰向け寝」や「ハイハイ」「舌でなめることが大事」などは理解できますが、そのほかは……。

 まず、アトピーについてはたしかにこの時代「食物アレルギーがあると、アトピー性皮膚炎を発症する」と考えられていましたが、最近では湿疹などでバリア機能が低下している皮膚から食物が入り込むことによって、食物アレルギーが発症する確率のほうが高いとなっているようです。

 食物アレルギーも、特定の食品は食べ始める時期が早すぎても遅すぎてもアトピー発症率が高くなるということがわかっているよう。西原式育児の誕生から約20年たった今、「あんなに苦労して実践したのに……」と膝から崩れ落ちているお母さま方がいらっしゃらないことを祈ります。

 「鼻呼吸」は大切だと思いますが、そのために母乳だけを与えつづけ、大きくなってもおしゃぶりってどうなんでしょ。栄養不足や多様な体験が奪われるなど、その他のデメリットが上回るのでは~。医学の知識がまったくない、素人の意見ですけど。

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