職業差別とコロナ禍の群衆心理~誰がセックスワーカーを殺すのか~

文=要友紀子
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「GettyImages」より

4カ月前と同じ日本と思えない

 現在、新型コロナウイルスの影響で収入が激減し生活が苦しい人々のため、政府による様々な緊急支援が行われている。その中の一つとして、幼稚園や小学校等の臨時休業で仕事を休まざるをえなくなったフリーランスの保護者向けに新たな支援金制度がある。

 この支援金制度で風俗従事者が支援対象外になっていることが発覚し、「職業差別である」と国民的な反発を招いたことは記憶に新しいだろう。

 この問題は4月2日に、セックスワーカーの活動団体SWASHが厚生労働省に提出した抗議文がきっかけでニュースになり、それを知った多くの当事者や有識者、文化人らもSNSで「厚労省は職業差別をするな」と次々に発信していった。

 抗議文提出の翌日3日には、加藤厚労大臣が記者会見で「(不支給要件を)見直すことは考えてない」との見解を示し、主要なメディア全社の報道が過熱する。政府や厚労省への市民からの抗議も増え、ついに6日、寺田学衆議院議員が国会で本件についての質問を行い、菅官房長官が「要領を含め、再検討する」と答弁。翌7日、厚労省が風俗従事者・事業者ともに支援金・助成金の支給対象とする旨公式発表した。

 この一連の出来事は、最初の報道からわずか5日で政治を動かしたことになる。

 筆者はSWASH代表として20年以上活動を続けているが、セックスワーカー/ワーク差別反対という主張を伴っての、社会問題化、当事者や人々の怒りが、ここまで高揚するのは初めての経験だ。近年、職業差別を含む様々な差別問題について、短期間で政治を動かすほど熱を帯びた現象は稀にみるものではないか。

 風俗に対する職業差別が根強いこの日本社会で、なぜ今回はこんなにも風俗に対する職業差別反対が国民的な支持を得たのかを本記事で検証したい。

4カ月前の反差別アレルギー

 本題に入る前に、これまでのセックスワーク/ワーカーに対する職業差別がどのようなものだったのかをみていきたい。

 直近のものでいえば、約4カ月前の昨年11月末、上野千鶴子氏が、「(セックスワークは)自分の肉体と精神をどぶに捨てるようなこと」と発言した対談記事を掲載した朝日メディア・かがみよかがみ編集部の炎上が記憶に新しいだろう。

 当時かがみよかがみ編集部に対し、多くのセックスワーカーや活動家、有識者らが「セックスワーク差別だ」とSNSで抗議の声を上げていた。そんな中、幻冬舎plusは、抗議の声を上げた当事者らのことを、「セックスワーカーの自意識過剰」と揶揄する内容の記事(「日本人の嫌いなアレと上野千鶴子発言~米ドラマ『SUITS/スーツ』」)をWebに掲載している。

 この記事を執筆した鈴木涼美氏は、「上野千鶴子発言がなぜ日本人の女の子の逆鱗に触れたのかの話。そこにはセックスワーカーの自意識過剰もあるし」という記述をわざわざ強調して記事紹介ツイートしている。このツイートには4月14日19時時点で315いいねがついており、その中には、かがみよかがみ編集長・伊藤あかり氏もいる。

 私は、伊藤編集長が職業差別反対を訴える当事者らに対してこのようなものの見方をしているのだろうと考え、「セックスワーカーの差別の問題は、プライドの問題ではなく、命と健康の問題です、それをわかってください」とリプライやメールをしたが、今回の加藤厚労大臣と同じく、スルーされて終わった。

 また、風テラス代表の坂爪真吾氏は、かがみよかがみ編集長の見解ツイートに、「伊藤さん、心無い人たちからの批判に負けず、頑張ってください!応援してます」と応援コメント付きで引用リツイートしていた。

 坂爪氏はその後も、セックスワーク差別批判が「ある種のエンタメ」だとか、「自分たちの結束を高める」ためのものといった内容をネットに書き綴り続け、(いつものように)職業差別反対を唱える者たちを徹底的にこき下ろす言論発信に夢中になっていた。

 支給金不支給問題での職業差別反対署名活動には坂爪氏も参加している。しかし、筆者からは、世間の風向きを確認したあとに、一足遅れて参加したようにも見えた。「職業差別反対国民的大合唱」と言っても過言ではないほどの大きな動きは、こうした「ねじれ」も可視化させたと言えるだろう。

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