こんまりとパンデミックは私たちをいかに家に閉じ込めるか

文=Lisbon22
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『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)

キンポウゲが旬なので、水に浸して切り(こうすると長持ちするのです)、家じゅうの花瓶にいけました。お家で過ごす時間が長くなった今だからこそ、これはときめきをもたらしてくれます。

 NYT紙とのやりとりで、こんまりこと近藤麻理恵は #stayhome での暮らしをこんな風に語った。

 今や世界的な片づけコンサルタントになったこんまりについて、きっとあなたもよく知っているだろう。残すものを「ときめく」かどうかの基準で選ぶ、という「こんまりメソッド」で名を馳せたこんまりは、2015年にはTIME誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた、「お家で過ごす」ことにかけてのカリスマだ。

 断捨離ブームから数年、彼女の影響力は強まり続けている。

 彼女の書いた『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)は30カ国以上に翻訳される世界的ベストセラーとなり、彼女に認可された片付けコンサルタントは全世界で400人を超え、“konmari” はレイオフを示す動詞として使われることすらある。

 彼女自身、昨年1月からNetflixで「Konmari~人生がときめく片づけの魔法~」というメイクオーバー番組を公開し、11月には自身のウェブサイトに音叉や水晶などの商品を取り扱うオンラインショップも開設した(ことで、「要するにものを捨てて空いたスペースに自分の商品を置けってこと?」とちょっとした騒動を招いた。これについてはまた後で)。

 今年に入り、ロックダウンで各種イベントがキャンセルされてからも、LAの自宅から仕事を続ける彼女は、今月10日より『人生がときめく片づけの魔法』をLINEノベルで無料配信するなど、精力的に活動を行っている。私たちの多くが、予期せぬ形で「お家で過ごす」ことを余儀なくされる今、彼女のプレゼンスはますます大きなものになるだろう。

 けれどもちろん、「お家で過ごす」ことの意味は社会階層によって違う。

 誰かにとってそれはソファで優雅にくつろぎながらミニチュアダックスフントをなでることだったとしても、誰かにとっては収入がなくなり家賃や光熱費の支払いが困難となり文字通り明日生きられるかの不安を抱えることだし、別の誰かにとってはオンライン・ワークの増大によって仕事と仕事以外の境がますますなくなることかもしれない(「リモートワークにより家で働く社畜は『家畜』だ」という趣旨のツイートは数万件RTされた)。

 BBCは4月8日の番組で新型コロナウィルスの被害は平等ではなく、低所得者ほどリスクが高いと報道したけれど、同じように「お家で過ごす」ことの持つ意味も平等ではきっとない。

 だからここで、こんまりの言う「ときめいた」お家での過ごし方について、もう一度考えてみようと思う。この記事の前半では彼女のオンラインショップ騒動を足掛かりに、彼女の掲げる「ときめき」と新自由主義の関係、特にこんまり哲学における女性のジェンダー役割に目を向けてみたい。後半では、Netflixのメイクオーバー番組「Konmari」を細かく見ながら、私たちが「お家で過ごす」ことを余儀なくされる今、彼女の哲学が持つかもしれない危険性について考えていくつもりだ。

こんまりと「ハッピー」な新自由主義

 冒頭にも書いたように、こんまりは昨年11月に自身のウェブサイトに音叉や水晶、食器などのグッズを取り扱うオンラインショップを開設し、ちょっとした騒動を招いた。ものを捨てることで人生をときめかせる、という彼女の哲学と一見矛盾したこうした展開は、けれど実のところそれほどおかしなものでもない。

 というのは、ミニマリズムを掲げるこんまりメソッドは消費主義のアンチテーゼなどではなく、むしろ私たち個人個人が「ハッピーである」ようにセルフマネジメントすることを求める、新自由主義の精神と切り離せない関係にあるからだ。

 言うまでもないことだけど、こんまり哲学の最大のポイントは、片づけを「ときめき」と、つまり「ハッピーさ」と結びつけたところにある。

 「人は誰でも、完璧な片づけを一度でも体験すると、人生がときめくような感覚を覚えます。そして、『片づけたあと』に人生がドラマチックに変化していくのを実感します」と始まる『人生がときめく片づけの魔法』は、なにかの雑誌広告のように、人生の変化を喜ぶお客様の声を紹介し、彼女の魔法を保証する。いわく、「子どもの頃からの夢に気づき、会社を辞めて、なんと起業しちゃいました」「自分にとって何が必要で何が必要でないかわかるようになって、その結果、ダンナと別れ、スッキリしました」「なぜか3キロやせました」……。

 ときめくものだけを身近に置くことで、あなたの人生もときめいたものになる。

 こうしたこんまり哲学は、現代の資本主義が私たちに行う、「いつもハッピーでいられるように自分をコントロールしなさい」という呼びかけとひどく良く似ている。現代社会において、ハッピーであることは、いわば私たち一人一人が果たさなければいけない義務なのだ。

 2014年、世界金融フォーラム年次総会(ダボス会議)が、ダライ・ラマの通訳としても知られる「世界で一番ハッピーな人」こと仏教僧マチウ・リカールをスピーチに招いたのは象徴的だ。

 各国の首脳やビジネスリーダーがリカールの教えを求めたのは、その数年前からの「マインドフルネス」や「ウェルネス」といったリラクゼーション技術のブーム、つまりポジティヴ心理学、認知行動療法、仏教、スピリチュアリズムなどをごちゃ混ぜにした「ポジティヴな心身」への着目の証だと言っていいだろう。リカールに倣った瞑想は翌年以降もダボス会議での慣習になった。

 ウェルネスは一大産業となり、2018年の時点で4兆ドルを超える規模にまで拡大した巨大市場に成長した(The Global Wellness Institute (GWI) 調べ)。そしてウェルネス産業にとって、今私たちを取り巻く新型コロナウィルスのパンデミックは言ってみれば危機ではなく商機なのだ。自宅待機を強いられ、心身に不安を抱える今だからこそ「良く生きる」ためのセルフケアが大事なのだ、とうたうウェルネス産業は、とりわけモデルやライフスタイル・アドバイザーのInstagramといったオンライン部門を中心に、ここ数週間かつてないほどの熱気を帯びている

 片づけを通したときめいた人生をうたい、片づけのカリスマとしてセルフ・ブランディングするこんまりは、そもそもの始めからこうした「ハッピー」な現代の資本主義を代表する存在だ。彼女は言う。

モノを捨てつづけることで、判断の責任を人にゆだねなくなるのです。つまり、トラブルが起きたときも、「あのとき、あの人がこういったから……」というふうに原因を外に求めなくなる、ということ。すべては自分の判断で、大事なのは今自分がどう行動するべきか、というふうに考えられるようになります。

 そう、こんまりメソッドが約束する自己実現は、トラブルの責任を他者や社会ではなく自分自身に求める、新自由主義的な自己責任論のそれなのだ。

 だから水晶などのスピリチュアルな商品を扱う彼女のオンラインショップは、彼女の哲学と矛盾しないどころか、「片づけで空いたスペースに自分の商品を置け」ということですらない(や、まあそういう側面もあるとは思うけど)。片づけによるときめきと自己実現をうたうこんまり哲学は、「常にハッピーな心身でいること」を自らに課し、自分の人生に起きたトラブルを他の誰でもなく自己責任として引き受ける、新自由主義の精神そのものなのだから。

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