紗倉まなが「70歳男性」に自分を投影した理由 「○○らしさ」の押し付けへの疑問

文=wezzy編集部
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撮影:いわなびとん

 AV女優・作家の紗倉まなが3作目となる小説『春、死なん』(講談社)を出版した。

 おさめられた二作品『春、死なん』と『ははばなれ』は、どちらも老舗文芸誌「群像」(講談社)に掲載された純文学作品だ。

 表題作『春、死なん』は、主人公の1人称で物語が進んでいくのだが、その主人公は「70歳の男性」という、彼女とは180度違う人物像。なぜ紗倉まなは「70歳の男性」を主人公にして小説を書こうと思ったのか。インタビューで炙り出されたのは、彼女の「家族観」と「人生観」だった。

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紗倉まな
1993年、千葉県生まれ。2012年にAVデビュー。2016年に発表されたデビュー作『最低。』(KADOKAWA/メディアファクトリー)は瀬々敬久監督で映画化された。他の著作に、小説『凹凸』(KADOKAWA)、エッセイ『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、『働くおっぱい』(KADOKAWA)、スタイルブック『MANA』(サイゾー)がある。

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──『春、死なん』の主人公・富雄は、妻に先立たれた70歳の男性です。どうして富雄を主人公にした物語を書こうと思われたのですか?

紗倉まな(以下、紗倉) AVのリリースイベントをやっていると、富雄と同じくらいの年代の方も多く来てくださるので、もともと、遠い存在とはあまり思っていなかったんです。
 『春、死なん』を書く過程で、富雄がどういう生活を送っているかを想像しながら、自分の将来を重ね合わせる部分もあって。
 富雄は私と離れている人物のように捉えられますが、実は、自分のことを投影している部分が多くて、すごく書きやすかったですね。

──70歳の男性と紗倉さんの共通点とは?

紗倉 いま私が感じている寂しさや孤独は、たとえ年齢を重ねたとしても残るものだと思うんです。
 小説の中で眼科医に軽く扱われて悔しい思いをするシーンがあるんですが、あれは私の実体験でもあります。
 以前、眼科で詳しい説明をしてもらえず「若いからすぐに治るよ」と適当に言われて点眼薬を処方され不安になったことがあったんです。年をとった時、もしも同じ症状で病院に行ったら、今度は「年齢が年齢だから、多少のことは仕方がないよ」なんて言われてあしらわれるのかなと思って。
 いま自分の身の回りで起きていることと、将来年をとってから起きることは、変わらないことや重なる部分も多いんだろうなと感じていたんです。

──なるほど。

紗倉 いままで書いてきた『最低。』や『凹凸』は主人公が若い女性だったので、「あれは自分のことを書いたんでしょ?」とよく言われたのですが、年齢や職業だったりキャラクター性などが著者と少しでも近いと感じると、やはり読者からはそう思われてしまうんだなぁと。
 そういう意味でいうと富雄は、自分の要素を取り入れて書いたとしても気づかれないという利点もあって、思い切って書くことができましたね。【完成いつでもOK】紗倉まなが「70歳男性」に自分を投影した理由 「○○らしさ」の押し付けへの疑問の画像4

「○○らしさ」の押し付けに抗う

──富雄は家の中にアダルト雑誌を大量に買い込んでおり、性的な欲求が枯れ果てた「老人らしさ」を拒否する人物として描かれます。

紗倉 「○○らしさ」という枠組みに対する価値観については、書いているときには強く意識していませんでしたが、自然と行き着いたテーマでした。
 もともと、「男らしさ」とか「女らしさ」といったように、「○○らしさ」を強要されることはが嫌だなと感じていて。

──『春、死なん』におさめられているもうひとつの短編『ははばなれ』も、「“母親らしさ”からの解放」が描かれています。

紗倉 私自身は結婚も出産もしたことはないのですが、「女性が家事育児をするのは当たり前」「母になったら、自身の“女性”の部分を優先しない」みたいなステレオタイプな価値観を自分が押し付けられたらすごく窮屈だろうなと思います。
 「○○らしさ」という枠組みへの違和感が自分にとってのテーマだったんだと、『春、死なん』と『ははばなれ』の2作を書き終わった後、振り返ってみて改めて感じました。

──紗倉さん自身も「○○らしさ」の押し付けに苦しんでいるのですか?

紗倉 私の場合は「AV女優らしく振る舞え」と言われたことはありましたね。
 一方的に価値をつけられてしまうのは仕方がないことですが、基本的に自分の体のすべてを見せている職業なので、ほかの人だったら絶対に指摘されない、つまりは見えない部分までも評価されてしまうんですよね。「劣化した」「老化した」といわれる範囲も、顔だけでなく陰部であったり乳首であったり…どうしても広くなります。
 私達も人間なので、キツい言葉を伴った消費のされ方をされている時は当然落ち込みます。そういった声に対して、意思をもって応戦すれば「黙って脱げ」と言われるし、メディアに出て発言をしたり本を書いたりすると「意識が高すぎるAV女優はいらない」と言われてしまう。理想を叶えられずに申し訳ないと思う反面、自分の発言や行動の自由を、他者に与えてもらう構図になっているのもおかしな話だな、ともやもやしたり……。押しつけに苦しむとまではいかないけれど、「やりにくいなぁ」と感じることは多いです。

──紗倉さんは27歳。「結婚」「出産」といったプライベートな人生の選択肢に関して周囲からやいのやいの言われるタイミングでもあると思います。多くの人が「○○らしさ」とか「こうあるべき」という押し付けに苦しんでいるのではないでしょうか。

紗倉 25歳を過ぎた頃から急に「アラサー」と言われて、いやでも年齢を意識させられてしまう。こちらは「単なる数字」だと思っていてもそうやってひとくくりにして傾向を示すのは短絡的だなぁと感じます。

──周囲のおせっかいな意見を気にしない方法はあるんですかね?

紗倉 自分だけの指標みたいなものをしっかりとつくることができたら、そういうものに左右されなくて済むのだろうとは思います。

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依存しない家族関係が理想

──『春、死なん』と『ははばなれ』の執筆を通して「家族」というものについてどのように考えるようになりましたか?

紗倉 私自身、結婚をし家庭を持つということに対して憧れを抱く時と、結婚しないでひとりで生きていきたいと思う時との波があって。将来への理想や希望は、自身のコンディションによって揺らぐ程度のものだと最近気が付いたので、家族についての答えを生み出すもっと手前の段階でくすぶっているような感じです。

──そうなんですね。

紗倉 私の育った家庭は「各々が自立して生きていこうぜ」という雰囲気だったので、「恋人」というよりも「パートナー」になれるような立ち位置の人がいたらいいなと思います。
 そんなこと考えたり、「いやいや、辿り着けるの何億年先だよ」と自分につっこんでみたり(笑)。自分の結婚に関しては、あまりにもこだわりがなさすぎて遠い話です。でも、どうなんでしょうね。ある日突然気まぐれで結婚して、気まぐれで離婚しちゃうかもしれない。

──お互いが依存しない関係っていいですよね。

紗倉 「二人でしかできないこと」がある人生はすごく豊かだと思うんですけど、自分ひとりでできることを増やすということも大事にしていきたいです。

──富雄は、家事能力という面だけでなく、精神的にも自立していない男性でした。

紗倉 自分ひとりでできることを増やしておかないと、富雄のように妻に先立たれた後、寂しい生活を送ることになってしまいますよね。
 富雄はひとりではできないことが多くて、その苛立ちを自分自身にぶつけて傷ついてしまっている。それはあまりにも悲しすぎる。精神的自立と経済的自立、そして生活面での自立。この三軸は、誰かに頼っている段階だと、どれくらい頼っているのかも気づけなかったりするのかもしれないです。

──最後に、これから先、書いてみたい小説のテーマはありますか?

紗倉 書きたいと思っているテーマはいくつかあります。あくまでいまは頭の中で考えている段階ですけど…。
 私は家族について考えるのが好きで、これまでは「家族」をテーマにした内容が多かったのですが、自分の中である程度気持ちを消化できたので、今後はもう少し範囲を広げたり、視点を変えた題材にチャレンジしていきたいです。

(取材、構成:編集部)

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