「家族という幻想」を見直す〜大人と子どもが「一対一」の関係を築くには?

文=wezzy編集部
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野沢慎司さん(撮影:編集部)

 2018年東京都目黒区で起きた継父による虐待死事件。そして2019年9月には埼玉県さいたま市でも継父が継子を殺害する痛ましい事件が起きた。いずれも、妻の連れ子を夫である継父が殺害したとされる事件だ。

 再婚家族だから、継父だから悪いのか? 暴力的な男と再婚し、我が子を危険に晒した母親を身勝手だと責める声も大きく聞こえたが、問題の根本はそこではない。家族について研究する明治学院大学教授の野沢慎司さんは、ステップファミリーを標準的な家族と同一視し、適切な支援がなされていないことに注意を払うべきだと指摘する。

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野沢慎司
明治学院大学・社会学部教授。専門は家族社会学・社会的ネットワーク論。2001年の設立当初より、ステップファミリーの支援団体SAJ(ステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン)と連携して、ステップファミリーに関する共同研究や国際会議開催を行ってきた。日本離婚・再婚家族と子ども研究学会、副会長。

継親は実親の代わりにならなくていい

 ステップファミリーなのにいきなり本当の親子を演じようとして無理が生じるケースは多々ある。多くの再婚家族は“標準的な家族”を目指すが、それが当然視されていることが混乱を招いているという。

 前回記したように、子育て支援機関などに継親が「継子に愛情を注げているか不安になる」等と相談しても、「大丈夫、愛情は子どもに十分伝わっていますよ!」「抱きしめてあげてください」といった安易なアドバイスが送られることがある。的外れな回答で、根本的には何も解決していないまま孤立を招きやすい。ステップファミリーの独自性を理解した専門家からの支援や介入の機会があまりに少ない社会だからだ。

野沢「再婚にあたって、『今度こそ幸せな家庭を築くぞ』と希望を持つのは自然なことですが、ステップファミリーの生活が始まると、予想外の衝突や不満を経験することは珍しくありません。『一緒に暮らせば家族になれる』という期待が崩れてショックを受けるかもしれません。

 ステップファミリーは標準的な家族と異なる点が多いことを頭に入れる必要があります。当事者だけでなく世間、さらには子育て支援など家族に深く関わるはずの専門家でさえも基本的に同じだろうという思い込みに囚われやすいのです」

 そもそも継親は実親の代わりになろうとしない方がよい。子持ちの相手と再婚したからといって、自動的に「親」の役割を担当することが子どもにも大人にもストレスをもたらしやすいからだ。

野沢「多くの継親は実親の代わりを務めようとしますし、世間からもその期待を押し付けられます。けれど、死別や両親の離別を経験していても、その子には実親がいるのです。たとえ記憶の中であっても。そのポジションを押しのけて、ポンと新しい大人が入ってくること自体、子どもにとって受け入れにくいことだとしても不思議はないでしょう」

 野沢さんは多くステップファミリーの大人たちと子どもたちにインタビュー調査を重ねてきた。親の離婚後、思春期の姉妹が、同居親が交際相手を家に連れてくることに、困惑や反発を感じたケースがあったそうだ。

野沢「この姉妹は祖父母の仲介を得て同居の親にその困惑を伝えたところ、実親は交際相手を自宅に招くことは避けるようになった。親が娘たちの意向を尊重して行動することで、しばらくすると娘の気持ちも変わり、交際相手が自宅に来ることをOKしたという事例でした。その後も通い婚のような柔軟なカップル関係となり、継親も親に成ろうとはせずにゆるやかに相手の子どもたちと接したそうです」

 次第に関係が発達し、その子にとって継親は家で何か困ったことがあったら助けてくれる家族のような存在になったという。

野沢「同居する親が子どもの反応に敏感に対応して、それを尊重しつつ、新しいパートナーとの関係を作ることは重要です。そうすることで、従来の親子間の信頼感が保たれ、また継親子間の距離も徐々に縮まることがあります。あまり距離が縮まらず、少しずつ互いに慣れていくだけでも十分に良好な変化です。

 法律的な結婚、同居、継親子間の養子縁組、お父さん/お母さんと呼ばせることなどの形式にこだわり、子どもの反応を気にとめずに強引に家族を作ろうとすることは子どもたちに見えない苦痛をもたらすリスクがあります。親が柔軟に対応し、時間をかけることは子どもたちの適応を助けることになります。その際に、祖父母などの周囲の人たちが、型にはまった家族観を押しつけず、むしろ先ほどのケースのように柔軟な家族形成の助け船となれるとよいですね」

 ステップファミリーには、子どもの成長に関わる大人が増えるという大きなメリットもある。

野沢「ステップファミリーは、困難を経験しやすい、劣った家族であるかのようなイメージが一人歩きしがちですが、それは間違いです。家族関係についての考え方を変えれば、ステップファミリーは他のタイプの家族にはない強みを持つこともできるからです。

 別居親やその親(子どもの祖父母)とも絶縁せず良好な関係を保ちつつ、継親からも支援が受けられれば、子どもにとって“関わる大人”が増えて多様な関係に支えられるという利点があります。これは大きなメリットです。

 再婚で『今日からこの人が新しいお父さん(お母さん)』と子どもに一方的に通告し、実親である別居親の存在をタブー視し、関係を強引に絶ってしまうようなことになると、子どもが困惑してしまうのは当然です。子どもの成長を思うのであれば、離婚後でも親子の交流を続けることが大切です。たとえ夫婦仲が険悪になり離婚したとしても、父母が努力して一定の協力関係を維持することでステップファミリーのメリットも生まれるのです」

 離婚後の面会交流や親権の問題については、後ほど詳述する(第三回)。ここではその前に、ステップファミリーが良好な関係を築くためにどうすればいいのか、紹介しておきたい。

「家族みんなで」ではなく、「一対一」の関係を築くこと

 継親や実親の側は、子どもにどのような態度で接することがよい効果を生むのか。野沢さんが編集に携わった書籍『ステップファミリーのきほんをまなぶ 離婚・再婚と子どもたち』(金剛出版)に、具体的な事例が複数ある。

 まず、ステップファミリーの子どもたちの気持ちには、共通するいくつかのストレス要素がある。子どもに関わる大人たちは、その事実を無視してはいけない。

・実親同子の口論やお互いへの悪口を聞かされること(電話でも、家庭内でも)

・元の家族に戻りたいと思うこと、それが叶わないことだと我慢すること

・もっと実親に甘えたい、話したいのに、新しい家族にその時間を奪われたと感じること

・自分が要らない子だと感じること

・実親(継親)が、自分よりも継子(実子)を優先すること

・自分は気持ちの準備ができていないのに実親が継親との結婚や同居を決めてしまったこと

・継親を「お父さん/お母さん」「パパ/ママ」と呼ぶように言われたこと

・離れて暮らす実親と会えなくなったこと

・継親が親のように振る舞い、厳しく叱られること

・問題があると自分のせいだと非難されること

・継親との関係で自分が苦しんでいるときに実親が継親側に立ってしまって自分の味方になってくれないこと

・新しい家族がうまくいくために、自分が我慢しなければいけないと思うこと

(『ステップファミリーのきほんをまなぶ 離婚・再婚と子どもたち』(金剛出版)10章、緒倉珠巳「ステップファミリーの子どもたち」より)

 こうした気持ちがあることを踏まえて、大人と子どもが「一対一」の関係を築くことを野沢さんは勧める。初期のステップファミリーでは、家族揃っての行事よりも、「一対一」の関係を充実させ、特に失われやすい実親子だけの時間や機会を補うよう意識することが大切だ。

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注)SAJ・野沢慎司編『ステップファミリーのきほんをまなぶ 離婚・再婚と子どもたち』(金剛出版)73ページ掲載の図を執筆者の緒倉珠巳氏が微修正したもの。

 

 本稿の最後に、この点についてヒントを提供するひとつの事例を同書から紹介させてもらいたい。母の再婚で継父と同居している12歳の少年と継父(そして母)との関係性について考えるためのマンガ教材だ。

 以下、SAJ・野沢慎司編『ステップファミリーのきほんをまなぶ 離婚・再婚と子どもたち』(金剛出版)掲載の教材(マンガ)の一部(106-116ページ)を転載する。

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 さて、継父はどのような態度を取るのか。まずはパターン1だ。

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 次はパターン2、継父が強硬な態度に出て、余計にこじれてしまうケースだ。

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 最後はパターン3。どのような話し合いで解決できるのか。

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 次回は、離婚した元夫婦が子どもの面会交流をどのように取り決めればいいのか、子どもにとって良い施策について、法整備も含め検討していきたい。

※第三回の更新は5月6日を予定しています。

(取材:宮西瀬名)

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