離婚する夫婦に必要なサポートとは? “子どもファースト”の離婚制度を考える

文=wezzy編集部
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野沢慎司さん(撮影:編集部)

 日本では離婚の約9割が“協議離婚”である。家庭裁判所などの第三者機関が間に入らなくても、夫婦の合意があれば離婚できる。離婚の際、財産分与や慰謝料の有無、そして子どもがいる場合はその養育にかかわる諸事について、明確に取り決めておきたいところだが、当事者同士だけで冷静な話し合いができるかといえば実際は難しい。

 養育費の不払いにより生活困窮を余儀なくされるひとり親世帯は跡を絶たず、また面会交流についても、2016年に実施された厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によれば、離婚後の母子世帯のうち別居親と子どもの面会交流取り決めをしていないケースが実に70.3%にも上る。

 家族社会学を専門とする明治学院大学教授の野沢慎司さんは、「離婚という夫婦2人の問題によって、親子関係が損なわれないようにすることが重要です。両親の離婚によって子どもが大きな不利益を被る結果を日本社会が放置していないかをしっかり検討しないといけません」と訴える。

 夫婦が“元夫婦”になるとき、どのような手続きを踏めば子どもの利益を損なわずに済むのだろうか。そこには、離婚や子育てを個人や家族内の問題とせず、社会が子どもの権利を保障することが必要だ。

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野沢慎司
明治学院大学・社会学部教授。専門は家族社会学・社会的ネットワーク論。2001年の設立当初より、ステップファミリーの支援団体SAJ(ステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン)と連携して、ステップファミリーに関する共同研究や国際会議開催を行ってきた。日本離婚・再婚家族と子ども研究学会、副会長。

離婚後の子育てに関する「計画書」を提出する国もある

 離婚協議中に夫婦がいがみ合うことは世界共通だ。いがみ合わずに離婚することは難しい。だからこそ、「当事者間だけで離婚を成立させず、第三者が間に入ることが有効なのです」と、野沢さんは言う。

 国外を見渡せば、離婚に際して夫婦間の話し合いをサポートする取り組みを整備した国が増えている。事例を見てみよう。

野沢「アメリカの多くの州では、離婚後の養育計画を裁判所に提出したり、離婚後の子育てに関する教育プログラムを受講したりすることが父母に義務付けられるなど、“子どもファースト”の離婚制度になっています。夫婦が敵対的になっていても、努力して『どれくらい頻繁に、どのようなかたちで別居の親子が時間を過ごすか』『養育費を誰がどれくらい支払うか』を含めた養育計画を作って裁判所に提出し、認められないと離婚できないのです。

 日本と同じような協議離婚制度をもっていた韓国でも、2007年の民法改正後は、未成年の子どもをもつ夫婦が協議離婚を日本の家庭裁判所にあたる家庭法院に申し立てる必要があり、しかも熟慮期間の3カ月間は離婚できません。その期間中に離婚後の子どもについて協議し、面会交流を続けることの重要性など離婚と子どもに関する情報提供が両親になされ、専門家に相談する機会が与えられます。また、親権者・養育者、養育費・面会交流などについて協議した結果を協議書として家庭法院に提出しなければなりません。その後に初めて離婚が成立します。共同親権を選択するケースも増えているようです」

 いずれも、問題解決を当事者に委ねるのではなく、家庭外の専門機関や専門家が介入し、サポートやケアを提供する点が、離婚届を役所に提出するだけの日本の協議離婚制度と異なる。アメリカのニューヨーク州や韓国を含む24カ国の離婚後の子の養育に関する法制度を法務省が外務省に依頼して実施した調査の報告書が最近公表された。それによれば、日本のように離婚後に共同親権が許されない制度を持つのはインド(ただし離婚時に面会交流と養育費の取り決めが義務づけられている)とトルコだけであり、日本の離婚と子どもに関する法制度改革が世界の潮流から大きく取り残されていることが浮き彫りになった。

▼参照
法務省「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の公表について」

 離婚するためには裁判所の判断が必要であり、基本的に離婚後も共同親権となる制度をもつシンガポールでは、離婚後の家族の子どもと親に寄り添う絵本『お父さんお母さんへ ぼくをいやな気もちにさせないでください-離婚した両親への手紙』を政府が制作し、裁判所内の離婚する家族をサポートする窓口で無料配布している。この絵本は、離婚した後もけんかを続ける父母に対して、子どもがその心情を率直に書き綴った両親への手紙というスタイルを取っている。

<ぼくにいやされたいなんて思わないでください>

<ぼくは、カウンセラーじゃないし、味方でもないし、賞品でもないです。そういうのが必要なら、ぼくのような子どもじゃなく、おとなの人にたのんでください>

<ぼくがいるときは、相手の悪口を言わないでください。そのときのこと考えただけで、心の中がぐるぐるうずまきになります>

<お願いです。ぼくの前でケンカをしないでください。どっちが正しくてどっちがまちがいかなんて、ぼくにはどうでもいいことなんです>

<2人が別れてからずっと、ぼくはぐらぐらで、へとへとなんです>

※この絵本は、シンガポール政府の許諾を得て野沢さんが日本語訳し、そのPDF版を「日本離婚・再婚家族と子ども研究学会」の下記サイトに公開している。無料ダウンロードして閲覧できる。

学会発行の書籍など

親は誰に相談すればいい?

 子どもを守るためにはまず、離婚で傷ついた大人たちが「どこ」「誰」に頼ればいいのかを周知することも大切だろう。カウンセラーや弁護士、行政の専門窓口など、頼れる先はある。離婚はとても大変で、心を病み、疲弊する。自分ひとりで耐えなくていい。必要なのは適切な支援を受けることなのだ。

 日本でも、兵庫県明石市は離婚した父母に対して先進的な取り組みをしている。明石市は、養育費を支払う義務がありながら正当な理由なく不払いを続けている元夫や妻に対して、悪質なケースには過料を科す新条例を制定、2021年4月の施行を目指している。全国初の試みだ。

 明石市の担当者はwezzyの取材に対し、<養育費はあくまで子どもが健やかに成長する上で必要なお金><行政は養育費不払いの対応をひとり親の方のみに負わすのではなく、「子どもの生活支援」として積極的に関わっていく必要があるというのが出発点>と話した。

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離婚する夫婦に必要なサポートとは? 子どもファーストの離婚制度を考えるの画像3 ウェジー 2019.10.12

 明石市では、離婚や別居の際の子どもの心理を専門的な立場からレクチャーするグループワーク『FAITプログラム』も実施し、また様々な面会交流支援も行っている。別居親子の交流に役立つ『こどもと親の交流ノート(養育手帳)』や子どもの気持ちを親に気づかせるための冊子『親の離婚とこどもの気持ち』を配布している。また、離婚届の配布時や相談時には、養育費や面会交流などについて記載された『こどもの養育に関する合意書』『こども養育プラン』『合意書・養育プラン作成の手引き』を配布する。

▼参照
明石市:離婚後のこども養育支援 ~養育費や面会交流について~

野沢「こういった取り組みは先進的で高く評価されるべきです。が、自治体レベルでは限界があり、地域格差も生まれます。国が法制度などを改革し、親の離婚後の子どもの権利を保障するのが望ましいと思います。

 海外では養育費不払いの親に厳しい罰則を設けるケースもあります。スウェーデンなどで実施されている国が養育費を立て替えて国が取り立てを代行する制度を明石市が先取りしているわけですが、国レベルでの多様な支援制度の実施に向けた刺激となることを期待します。

 こうした取り組みは、離婚後も父母の両方が親として子どもの養育への義務を持ち続ける点では変わりがないという原理に基づく制度整備であるとの理解が広まることが大事です」

 日本にはステップファミリーにかかわる制度の課題が多くあり、一つ一つ整理し、対処していく必要がある。

野沢「これまで日本社会は、親の離婚・再婚を経験した子どもの視点に立って、法制度などを根底から再検討してきませんでした。親が離婚したらひとり親家族になり、そのひとり親が再婚したら『新しいお父さん/お母さん』ができて普通の家族のようになる、とい『常識』を疑わずに今に至りました。婚姻関係にある男女だけを子どもの両親とみなす家族像に縛られてきたと言えます。

 しかし、子どもたちだけでなく、子どもの幸せを願う大人たちのためにも、両親の結婚・離婚・再婚とは関係なく、子どもが両親との関係を保ち、それに加えて継親を持つことがあるという新たな家族像を組み込んだ制度改革が求められています。

 ステップファミリーに関する研究も少しずつ進展しました。研究成果に基づいて、当事者や支援者向けの一般書などで情報を発信し、相談窓口となってきたSAJのような支援団体もあります。さらに、多領域の家族研究者や家族支援専門家によって日本離婚・再婚家族と子ども研究学会という、このテーマに特化した新しい学会も最近設立されました。日本社会におけるステップファミリーへの感受性も徐々に変化していると感じます」

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離婚する夫婦に必要なサポートとは? 子どもファーストの離婚制度を考えるの画像3 ウェジー 2019.12.22

(取材:宮西瀬名)

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