病院に行きたくても「しんどすぎて、外に出られない」あなたへ 心の病気にSNSで寄り添う

文=みたらし加奈
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——LGBTQ、フェミニズム、家族・友人・同僚との人間関係etc.…悩める若者たちの心にSNSを通して寄り添う臨床心理士みたらし加奈が伝えたい、こころの話。

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 その日は、寒いなぁと思いつつ、渋谷の駅前で妹を待っていた。

 見慣れた街でぽつんと道行く人たちを見ながら待ちぼうけていると、「精神障害者(schizophrenia)です。話し相手をしてください。」という紙を持った1人の女性が目に止まった。英語でschizophrenia、和訳は「統合失調症」である。

 しばらく、遠巻きに彼女の姿を眺めていた。

 土曜の昼過ぎ、多くの人が交差する渋谷の喧騒の中、その場所だけ時間が止まっているように見えた。誰もが彼女を気にも留めず、目に入ったとしても嘲笑するかのような表情や、眉を顰める人たちばかりだった。「偏見」という言葉が頭をよぎる。

 その光景を悲劇として捉えてしまえば彼女に失礼ではあるが、この場所を包む雰囲気に「嫌な感じ」を覚えてしまった。そして思わず身体が動いていた。

 隣に座り、「寒いですね」と声を掛けた。するとハッとした表情の後、満面の笑顔で「寒いですね! 待ち合わせですか?」と、彼女に問い返された。「人を待ってます。でも時間がある。少しお話ししましょう」と声を掛けると、にこやかに対応をしてくれた。

 自分は統合失調症で、初発年齢は10代、今は慢性期だと話してくれた。統合失調症とは、思考や行動、感情がまとまりにくくなる脳の病気のひとつである。その症状は陽性症状と陰性症状に分けられ、陽性症状は主に「幻覚」や「妄想」「支離滅裂な言動」、陰性症状は「意欲低下」や「活動性の低下」「感情の平板化」が挙げられる。彼女は陽性症状と陰性症状を繰り返しながら、今は薬物療法で安定している、と話してくれた。

 私たちはそのまま、いろんなことを話した。「なんで、道端で人と話そうと思ったんですか?」と聞くと「寂しかったから」と、ご家族のことを話してくれた。日本ではまだまだ精神疾患に対する偏見が根強く残っているため、病気を発症してから家族の協力を得られないことも多々ある。

「病気になってしまってから、うまく友達も作れなくて。誰でもいいから、誰かと話したかったの。ほんの30秒でもいい、寂しさを忘れられるから」

 そのひと言は、彼女の孤独を示すのに充分すぎる言葉だった。

 精神障がい者の労働環境、自立支援の話もした。嬉しそうに、趣味で始めた習字の清書も見せてくれた。生活の中で、彼女が抱える葛藤や怒りも話してくれた。私は通りすがりの人間で、患者と医療従事者の関係ではなく、責任や損得勘定も関係ない。だからこそ、ふたりで本音をたくさん話せたのだと思う。

 「誰がいつどうなるかなんて分からない。私だって明日、統合失調症になるかもしれない」と話すと、「私が出会った方の中で、そういう考えを持つ人は初めてです」と言われた。精神疾患というと、自分と切り離されたものに感じてしまうが、そんなことはない。身体の病気と同じで、いつだって身近なところに存在している。

 彼女と過ごした時間はたった30分、すごく濃密な時間だった。自分のタイミングを押し付けることもなく、「待ち人は大丈夫か」と何度も気にかけてくれた。妹から連絡が来て「そろそろ」と言うと、「本当にありがとう」と言われた。「大丈夫、生きていればなんでもできる。お互い生きていきましょう」と伝えた。

 おこがましいのも無責任なのも分かっている。でも、それが私の精一杯の、本当の本当の気持ちだった。

 「うん! すごく元気をもらえた。生きていけます」と、彼女は笑顔で答えてくれた。「少しでもいろんな人に伝わるように」と一緒に写真を撮り、握手をして解散した。

 帰宅後、私は自身のSNSを使ってがむしゃらに文字を打った。彼女と私の気持ちを、想いを、誰かに伝えなければならない気がした。そして、文章の最後にこう綴った。

「少しでいい、少しでいいから自分の住む世界以外のことに目を向けてほしい。大きくなくていい、変えようとすることが絶対的に正しいわけではない。毎日のニュースについて話したり、そんなことでいい。私たちは戦わなければならない。戦う敵は、理不尽なことすべてだ。肌の色でも、外見への批判でも、性差でも、親の圧力でも、自分を嫌う人でも、政府への怒りでもなんだっていい。出る杭が打たれる時代は終焉しなければいけない」

 ありがたいことに、この投稿には300件近いコメントがつき、フォロワーは20倍以上に増えた。でもそれ以上に嬉しかったのは、彼女と同じような「孤独」を抱える人たちからのメッセージがたくさん届いたことだ。その中には「死」を匂わせる文章も含まれていた。「孤独」は、緩やかに全身に回る毒のように、その人の心を蝕んでいく。受け取ったメッセージを読み返しながら、危機感を覚えざるを得なかった。

SNSで活動するために必要だったもうひとりの私

 今、日本の15〜39歳の一番の死因は自殺である。これは先進国の中で、日本と韓国だけだ。こう話すと語弊があるかもしれないが、つい頑張りすぎてしまう日本人は、自分の首を絞めながら、他人の首をも絞めている可能性がある。食べ物も緑も豊かなこの国で、少子化が起こり、若者の死因の1位が自殺であることについて、私たちはもっと真剣に向き合うべきなのだ。

 現代の日本では、心の病を抱えている人の多くが医療機関を受診できていないという現状がある。家を出て病院に行くまでの道のり、そして待ち時間を含めて、通院にはある程度の体力と気力がいる。医療機関を利用していない理由には精神科やカウンセリングへの抵抗感も挙げられるが、「しんどすぎて、外に出られない」人だって多くいるはずなのだ。

 街ですれ違うだけの相手と簡単に繋がれることはSNSの利点でもあり、携帯を起動してアプリを開くだけなら、そこまで負担になりにくい。私はSNSを使って「外に出られない人」に何かしらのアプローチができないかを考えた。

 私が従事する「臨床心理士」というのは非常に特殊な仕事で、基本的には狭いコミュニティの中で業務を行なっていくことが多い。目の前の相手と信頼関係を築いていくことが主になるため、どうしても社会に精神疾患の現状を訴えていくことは難しい。

 考え抜いた結果が、Instagramでのフィード投稿だった。

 私は女性で、自分の人生に傷付いたり立ち直ったりしながら生きてきた、そんな「普通」の人間だ。あえてカテゴライズするならば、臨床心理士で、女性のパートナーがいるというだけ。でももしかしたら、その「ありのままの姿」で発信することが、時に誰かの心の拠り所になり得るかもしれない。だからこそ、私の知っていることを、学んできたことを、問題として捉えていることを、とにかく伝え続けようと思ったのだ。

 こうして、「みたらし加奈」は誕生した。これから綴っていくこの連載を通して、現代社会における“他人事”にはできない「心の病気」について、少しでもお伝えできたら幸いである。

 

【統合失調症について私たちができること】

★陽性症状が活発な方は、妄想・幻覚症状がみられます。妄想や幻覚症状について「あり得ない」と笑ったり非難をするのはやめましょう。

★統合失調症には、「自分自身が病気であるという自覚が乏しい」という特色があります。例え症状が見られたとしても、最初から「病気だよ」と断定してしまうのはトラブルに繋がりやすくなります。「もしかしたらあなたの悩みを解決できるかもしれないから、まずは専門機関に一緒に行ってみようか?」など、本人の気持ちに寄り添った提案をしてみましょう。

★統合失調症は、早期介入が鍵だと言われています。早く治療できれば、病態も良くなりやすいのです。反対に、そのまま放っておいてしまうと重症化してしまう確率が高くなります。少しでも「おかしいな」と感じる場合は、お近くの精神科を受診してみてください。また身近に似たような症状の方がいる間合いにも、上記のことを心がけて受診を促してみてください。

 

(記事編集:千吉良美樹)

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