こんまりの魔法から解放されて「幸せ」を考える

文=Lisbon22
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 今月23日、東京都は「STAY HOME週間」のポータルサイトを開設し、キャンペーンの一環としてこんまりこと近藤麻理恵が「片づけの魔法」を伝授する動画を公開する予定だと発表した

 「STAY HOME週間」のサイトには「ウチで楽しもう」という文字が踊る。私たちの多くが家で過ごすことを余儀なくされる今、こんまりの説く「ときめいた」、すなわち「幸せな」家での過ごし方はこれまで以上に関心の的となるだろう。

 けれど「こんまりとパンデミックは私たちをいかに家に閉じ込めるか」という記事でも書いたように、私たち一人一人に「常にハッピーな心身でいるようにセルフマネジメントすること」を求める彼女の哲学は、トラブルを自己責任として引き受ける新自由主義の精神と、「家事を楽しんで行う美しい女」という伝統的なジェンダー役割を混ぜ合わせることで成り立っている。

 言い換えると、彼女のいう「ときめき」あるいは幸せは、極めて限定された種類の、さらに言えば強いジェンダー的色合いを帯びたものだ。

 フェミニズムやクィア・スタディーズは、ポジティヴ心理学やウェルネス産業など近年の学問・経済が寄せる「幸せ」への関心を前にこんな風に問いかける。彼らが「幸せ」を口にするとき、「家族」のようなある特定の生き方だけを「幸せ」とするような伝統的な考え方を繰り返しているんじゃないだろうか。何があなたを幸せにするのか、という問いは、そもそも「幸せ」を定義するのは誰か・何か、という問いを自明の理としてしまっていないだろうか、と(例えばSara Ahmed, The Promise of Happiness (2010, Duke UP) など)。

 今回の記事では、彼女が提示する「ときめく」暮らしがきわめて伝統的な「よい家族」の枠組みと折り重なっている、ということを確認したい。書籍『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)は独立・転職や心身のデトックスなど「家族」に限定されない「ハッピーさ」の形に時折言及しはするものの、Netflix版『Konmari』シリーズはほとんど完全に彼女の魔法がいかに「幸せな家族」をもたらすか、という筋書きに貫かれている。

 以下では、Netflix版『Konmari』シリーズを2つのエピソードに着目して振り返りながら、今私たちを取り巻く環境の中で、こうした「家族」を幸福の中心に置くこんまりの哲学をどう考えるべきか問い直してみたい。

散らかった家=不幸せな家族から片づいた家=幸福な家族へ

 山積みになった洋服。涙声で「シンプルに暮らしたいのだけど、どうしたらいいのかわからない」と訴える女性。崩れる収納物。そこに笑顔で飛び込み、「I love mess」と告げる小柄な救世主。

 昨年1月よりNetflixで公開された「Konmari~人生がときめく片づけの魔法~」は、書籍『人生が片づく片づけの魔法』のメソッドでもって実際に顧客の家を片づけ、人生そのものも変えてしまうという、いわゆるメイクオーバー式のリアリティ番組だ。

 1stシーズンに登場する8組の顧客のうち一人暮らしなのは、夫に先立たれ、第二の人生を歩むために収納品と心の整理をする女性1人。残りの7組はすべて結婚したカップルだ(うち異性の夫婦は5組で、ゲイカップルとレズビアンカップルが1組ずついることは注目に値すると思う。これについてはまた後で)。「家族」の喪失を乗り越えて前に進むこの女性を含めて、「Konmari」はくたびれた不幸せな家族から「ときめいた」暮らしを営む幸せな家族への変貌、というフォーマットを崩さない。

 1つ目のエピソード「幼児と一緒にお片付け」は「散らかった家=不幸せな家族から片づいた家=幸福な家族へ」という物語の縮図になっている。登場するのはLA郊外に住む白人のフレンド一家。小さな子供二人を抱えるフレンド夫妻は、共働きの仕事や子育てに追われて常に時間がなく、家の中は山積みの洋服や子供のおもちゃ、食器類などによるカオス状態だ。そうした一家を訪れたこんまりは、片づけの魔法を伝授すべく、まずは彼女のトレードマークでもある、跪いての「お家へのあいさつ」を始める――。

 エピソードがドラマ的な盛り上がりを見せるのは、この直後、こんまりと共に瞑想する妻レイチェルの目に浮かぶ涙によってだ。「なんでこんなに感傷的になっているのかわからないんだけど……シンプルに暮らしたいんだけど、解決策がないの」と吐露する彼女の姿は、続くシーンでの夫マットとの小さな諍いと合わせて、「散らかった家」と「バラバラな家族」は同じものなのだ、と視聴者に訴える。そしていかにこんまりの魔法によって、そうした不幸せな家=家族が変身するのかを。

 かくしてその後のシークエンスでは、実用的な片づけメソッドと実際の家のメイクオーバーに挿入される形で、初めは言い合いを繰り返していた二人が徐々に心の平安と相手への思いやりを取り戻し、仲のいい夫婦としてのあり方を取り戻すのかを描き出す。エピソードは、今度はうれし涙を浮かべながら、「麻理恵は私の人生を変えてくれた。メンタリティさえもね。あなたのおかげで家を楽しめるようになった。あなたのおかげで変われたわ」と告げるレイチェルの言葉で幕を閉じる。

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