新型コロナ「正しく怖がれ」が難しい理由 ウイルス専門家の見解

文=和久井香菜子
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「GettyImages」より

 安倍晋三首相は4月30日の会見で、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための外出自粛などを呼びかけた緊急事態宣言の対象期間を延長する意向を述べた。

 当初の対象期間は5月6日までとなっていたが、安倍首相は「5月7日からかつての日常に戻ることは困難と考える。ある程度の持久戦は覚悟しなければならない、そう率直に申し上げなければならない」と表明した。

 少なくとも240人以上の医療従事者が東京で感染しており、医療現場も危機的な状況と言える。これ以上の感染者増加はなんとしても避けなければならない。一般市民にできる対策としてはもっぱら「不要不急の外出自粛」だが、大規模イベントやライブ、映画館の上映などは中止になっているものの、外出を禁じられてはおらずテレビでは「ここに人が集まっている」などと嘆く報道が相変わらず続いている。

 日本の「外出自粛」策はこれで良いのか、また、終息時期の予測を立てることは可能なのか、米国国立研究機関でウイルス学を専門に研究する峰宗太郎氏に話を聞いた。

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峰 宗太郎(みねそうたろう)
医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学。ワクチンの情報、医療リテラシー、トンデモ医学等の問題をまとめている。

「ロックダウン」したのは武漢だけ

――まず、日本で引き続き「外出自粛」が必要だということについて、基本的な考え方を教えてください。

【峰】新型コロナウイルスの感染症が人から人にうつるということは、感染拡大は人との接触が原因です。基本再生産数、R0(アールゼロ/R nought)という数値がありますが、これは、1人が次に何人に感染させるかという数です。1人の保菌者が2人にうつす場合、R0は2です。3人にうつせばR0は3です。

 たとえばR0が2なら、n回目の感染サイクルで新しく出る感染者数は2のn乗、3なら3のn乗になります。R0の数値が高ければ高いほど、感染者数は倍々に増えるのです。ということは、R0の値が1より大きいと、数字を掛ければ掛けるほど、新規感染者数は大きくなるわけです。2×2=4、8、16、32、64……というふうに。だけどR0が1だった場合は、1人が1人、1人が1人、1人が1人、1人が1人だから、ずっと新規感染者数は1人です。

――感染は広がらないわけですね。

【峰】R0が1より小さいと、たとえば、1、0.5、0.25……まぁ0ですね、で終わりです。ということは、感染流行を終わらせるためにはR(実効再生産数といってこれはRで書きますね)の値を1より小さくすることが1番大事なんです。このR0は1人が何人にうつすかですよね。ということは人と人との接触をなくせば、Rの値はどんどん下がっていくんですよ。

――R0は、どうやって調べるものなんですか?

【峰】新規感染者が出たとしますね、そうしたら、その人の前日までの行動をトレースをします。誰からうつったかがわかれば、その前の段階の人が何人いるかわかるわけですよね。そうすると計算できるのです。何人が何人にうつしたかわかればいいわけですから、平均値を出して求めるんですね。

――人と人との接触をどこまでなくせば、Rの値は下がると言えるのでしょうか。

【峰】まず、外出を禁止して、人と人とが会わなければ、Rはピュンと下がるんです。ところが、このRがどうしても簡単に0にならない理由は、外出を完全に禁止するような規制はできず、完全に人の接触をなくすことができないからです。

 4月の東京の外出自粛は、ゆるーい要請でした。いわゆるキャバクラだったりとか、密室で複数人が親密な距離間になる夜のお店も開いている。ただ、クラスターを作る可能性の高い条件の揃ったお店に客として通った人が、自分の家庭に持ち込んで、別の場所に出かけていく家族にうつさなければ、一部のRが高いだけで、社会全体としてはRはぐんと下がりますよね。この数値を1未満にし続けるというのは1つの対策で、これがロックダウンの考え方なんです。

――人の移動範囲をなるべく小さくして接触を減らせばよいということですね。

【峰】ただし、言葉通りの「ロックダウン」をしたのは、武漢だけです。武漢は完全に出入り禁止にして、外出したら罰金・刑罰ありです。それに比べたら、ニューヨークやロンドンがやっているのは、ゆるゆるロックダウンですよね。休業してお仕事は最小限にしようねと言っているけれども、生活必需品の買い物には行っていいし、運動のためなら散歩をしてもいいし、不要不急でなければ医療機関その他にも行っていい。そういう意味では、ロックダウンというよりは、ややきつい感じの行動制限なんですね。

 日本がしているのは、さらにゆるゆるのガバガバで、ただ単に、「頼むからあんまり外に出ないでね」と呼びかけているだけという状況です。しかしそれなのに、Rの値が日本はものすごく低い。最新の専門家会議の発表では、全国でRが0.7、東京ではRが0.5とのことですね。ちょっとずつ新規患者が出ている状態といえるかと思います。

――毎日、全国で何百人の感染者が報告されるのは、「ちょっと」なのですか?

【峰】アメリカなどは、1日の死亡者が何百人とか千人とかですから、比較すればということです。日本で感染者数が他国のように増えない理由はよくわかりません。だけど、感染抑制はうまくいっていると言えるでしょう。日本式の対策でこのままRが跳ね上がらなければ、ロックダウンまでする必要はない可能性もあります。

――日本は結核の管理に力を入れていたので、追跡調査の技術が高いと聞きました。

【峰】はい、感染症の疫学追跡調査を行うのはFETPといったプログラムをうけた実地疫学専門家などの専門家達などですが、これが、日本や韓国ですごくしっかりしています。特に日本では保健所がよく機能しています。これまでも結核や麻疹、風疹の患者が生じたときに、濃厚接触者を見つけて、二次感染者を根こそぎ見つけるということをやってきているんです。追跡に関して日本は一日の長があって、うまくいっているのだと思います。

――素人考えだと、行動を追跡できるかは患者本人の記憶次第という気がしてしまうのですが。

【峰】調査は聞き取りが基本になりますが、聞き取っただけでリンクをつなげるかどうかは、高度な経験と技術、実務能力が要ります。Aさんという患者さんが数日間で訪れた場所はたくさんあるでしょうが、その中で「問題となっているのは、あの飲食店だ、あの場所だ、あの行動だ」と見つけ出すのは、簡単ではありません。複数の関係者から話を聞かないといけないですし、Aさん本人は大して重要じゃないと思っていたところが大事だったりするわけですから、FETPなどをとった専門家は探偵のようなものなのです。

 日本のメディアでは「クラスター対策班」についても伝えているわけですが、日本のクラスター対策班は非常にうまく機能しており、彼らの活躍が、感染者数が増えていない理由のひとつと考えてもいいかもしれません。

「抗体が本当にできるのか」もわかっていない

――人によって、新型コロナ問題を捉える深刻度は全然違います。具体的にどの程度、外出を自粛することが望ましいのでしょうか。

【峰】ロックダウンと外出制限の目的は、人同士の接触を減らすということです。普段からあまり出歩かない高齢者や、流行っていない地域の子供たちは、感染リスクが少ないと言えますが、たとえば会社帰りに一杯引っかけるような習慣を今でもやめていない人たちは感染を拡大させるリスクが高いとかそういうことがありますね。

 でも、外出自粛という施策は、事態を深刻に捉えていない人たちも全部含めて、全体に呼びかけるしかありません。いろんな層の人たち、老人、子供、夜遊びする人、しない人など、これを「層」と言って捉えますけど、「層別」に対策することもできなくはないです。でも、効率が悪く難しい。外出を禁止されたとしても、気にしない人は気にせずに飲み歩きますから。

――家に閉じこもる人たちがいても、気にせず出歩く人たちも同じようにいる以上、感染拡大はいつまでも終わらないということでしょうか?

【峰】その可能性もあります。つまり、そういうところで蔓延してしまって、少しずつ家庭や関係のない集団にウイルスを持ち帰る人がいるんですね。別の層、たとえば飲み歩く人という層から、学校に通う子どもたちの層などに流行りだしてしまうと、そこで感染が爆発したりしてどんどんじわじわ漏れだすような感じで、周りに、社会全体のいろいろな層に感染が広がることはあり得ますよね。

――たぶんあり得ない話ですが、個人個人がほぼほぼ正しい情報を持っていて、そのうえで適切な行動をしたら、武漢のロックダウンのような大きな施策は必要ないということでしょうか?

【峰】まあ、理想的な世界ではその通りです。

――とはいえ、私たちが衣食住足りた生活を送れるのは物流や小売店や医療、銀行や清掃、製造、役場など様々な業種の方々が通常以上にお仕事してくれているからですよね。またそれ以外の業種でも通勤して働かざるを得ない人たちはいます。ニューヨークの地下鉄でクラスターが発生したというニュースがありましたが、日本の満員電車は大丈夫でしょうか。

【峰】自分自身がアメリカで暮らしていて思うのですが、日本の満員電車とニューヨークの地下鉄は状況が全然違います。日本の満員電車で、ぺちゃぺちゃ喋っている乗客はそうそう見かけませんでしたが、こちらではそれが普通で、携帯電話片手に延々と話していることもよく見ます。なおかつ、ニューヨークを襲っている新型コロナは、社会的な格差を如実に表しています。罹患しているのは清掃員とか警備員などの、いわゆるエッセンシャルワーカーが多いように思われるのです。リモートワークができるような職種の人々は、自家用車を使い地下鉄で移動もしませんし、家にこもることもできるので感染を防げますが、エッセンシャルワーカーはそういうわけにはいきません。

――ホリエモンチャンネルの動画で先生は「流行のピークを抑えていくと感染者は爆発的には増えない代わりに、ダラダラ長続きして、いつ終息するかわからない」ということをおっしゃっていましたが、今の段階で、予測を立てられますか?

【峰】全く予測はできないです。これに関しては、ワクチンができないと、人間はウイルスの感染を予防して攻略する手段を持たないのです。ですからワクチンがいかに早くできるかは重要ですね。しかしそれ以外の要素に関してはわかりません。ハーバード大学の研究者たちが「ワクチンが早期に完成しないならばコロナ禍は2022年まで続く」と予測した論文を出しましたが、それも妥当かなと思います。

――ワクチンの接種数が増えればその病気は流行らないのと一緒で、一定数の市民が罹患しないと流行は終わらないとも言われます。

【峰】集団免疫ですね。その考え方だと、6割から7割の人が感染して抗体を持てば、流行は止まるとも言われています。でも新型コロナに関しては「抗体が本当にできるのか」も「抗体がどのぐらい長続きするのか」も、そもそも「抗体ができてもそれがしっかりとして免疫を獲得したことになるか」もまだわからないんです。もしインフルエンザのように1シーズンで切れてしまう抗体だったら、次の冬までにまた全員リセットになってしまいますよね。

 ということで、有効なワクチンができるまではとにかく、感染が爆発し始めたらまた自粛して、自粛で抑え込めたらまた緩めて、をクラスター対策と合わせて繰り返すしかないでしょうね。

――長続きすると、もっと重症化させるウイルスが出てきそうで怖いです。

【峰】ウイルスというのは基本的に、広がっていくうちに変異して毒性が落ち、軽い症状のものが主体になっていくことが多いのですね。もし今後、新型コロナウイルスも変異して毒性が落ちれば、「たまに重症化する普通の風邪」のように認識されていくかもしれませんね。現段階では未知のウイルスですが、様々な角度から解明されていくことによって、人々がそれほどひどくは恐れなくなり、「感染したときは、感染したときだよね」と肝が据わるようになるかもしれませんし、そのころには、ワクチンや特効薬ができているかもしれません。

――ウイルスは突然変異を繰り返してどんどん毒性が強くなっていくのかと思っていました。

【峰】逆なんです。毒性が強くなると、ウイルスは宿主である人を殺してしまいますよね。患者を重症化させやすいウイルスは、広く拡散することができないので、終息します。しかし毒性が徐々に弱くなっていって、なんとなくダラダラ続くやつほど、見つかりにくいですし蔓延するんですね。

――そういう意味では、新型コロナは蔓延しやすい性質のウイルスですね。

【峰】そうです。おっしゃるとおりです。

――でも新型コロナのパンデミックは100年前に流行したスペイン風邪とよく比較されますが……。

【峰】いいえ、スペイン風邪は致死率が30%だったと言われますから、凶悪です。新型コロナは現時点では致死率2%ほどまでと考えられていますね。スペイン風邪のころはまだ医療技術も発達していなかったですし、ワクチンもありませんでした。戦争をしていたこともありますし、最初のピークで医療従事者の多くが亡くなったこともあり、医療的な対処ができなかったことも第二波などが大きく長引いた要因ともいわれていますね。

ほとんどが「軽症」でも、症状はつらい

――新型コロナも致死率は高くないとしても、なにしろ解明されていないウイルスですから不安は大きいです。後遺症、たとえば失った味覚が戻らなかったり、肺の機能が回復しなかったりなどの説(あくまでネットの噂話レベルですが)を信じて怯えている人もいると思います。

【峰】まず味覚障害ですが、味覚と嗅覚のセンサーが一時的に麻痺することは感冒後味覚障害と言って風邪やインフルエンザでも生じます。大体の人は回復するので、今のところ心配しなくていいでしょう。もちろんメカニズムはまだわかっていないことも多いですけどね。

 それから肺の障害については、かなり重症になってしまったら、ダメージが多少残って古傷みたいになることはあるとは思います。ですがそれは、肺が完全に壊れて「生きるか死ぬか」の状態になった場合でしょう。普通、肺炎というのは、後遺症なく綺麗に治るものが多いのだということを知っておいてほしいと思います。

 また、新型コロナは軽症の患者も多いです。

――ですが、医師の言う「軽症」と、患者の体感的な「軽症」は異なりますよね。

【峰】そうですね。「重症ではない」ものはすべて「軽症」です。では「重症」の定義はというと、日本では人工呼吸器を使うか、ICUに入室するか。だから「軽症」の幅は広くて、熱が出てヘロヘロで、もう目開けるのも精一杯で寝込んでいても、軽症です。病院に入院しているけれど、気管支挿管されなくて、なんとか酸素投与で自分でハーハー息ができていたら、それも軽症とされます。

――新型コロナは8割が軽症と言われますが、かかったらつらい可能性はあるのですよね。

【峰】おっしゃるとおりですね。

――しかし「正しく怖がれ」とよく言われますが、その「正しさ」がよくわからないです。

【峰】わからないですよね。たくさんの情報を集めなければいけないのですが、医療従事者でも、正しく捉えるのが難しいウイルス、感染症ではあるんです。だから何をもって「正しく」というのかは、難しいですね。

――今のところ、感染拡大防止のためには「外出自粛」以外の選択肢はないんでしょうか?

【峰】ないです。できることは、とにかく外出を避ける、人とのコンタクトを減らす、手洗いを徹底するなどの個人個人の予防を徹底するということですね。ウイルスの付着したモノを触った手で、目や鼻や口を触ってしまうことがいけないので、手洗いはよくしてください。ソーシャルディスタンスについては、コロナは飛沫と接触が感染源なので、他人の飛沫が飛ばないくらいには距離を取りましょうということです。

日本はPCR検査をもっとすべきなのか? 新型コロナの不安についてウイルス研究者に聞いた

 新型コロナウイルスにより、志村けんさんに続き、岡江久美子さんが命を落とした。連日、新型コロナに関するニュースが飛び交う。いつまで外出自粛を続ければ状況…

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