夫の家事時間が増えているのに妻の負担はなぜ減らないのか?

文=筒井淳也
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「GettyImages」より

新型コロナウィルスの影響で夫の家庭参加が増える

 これまでの連載では、主に「働き方」に焦点を当ててきました。たとえば第2回第3回の記事では、女性の職場進出や共働き社会化が進まない理由の1つに日本的な働き方があること、この働き方は「家のことをもっぱらやってくれる人が自分以外に家にいる人」、つまり多くの場合は妻や母親が「主婦(あるいはパート主婦)」で家にいる男性を前提としている、ということを説明しました。

 今回の記事では、家庭の中のことに注目してみましょう。いわゆる「家事分担」の問題です。日本は、先進国ではトップクラスに夫婦間の家事分担が進んでいない国です。共働きが進まない理由は、実はここにもあるのです。

 現在、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う外出自粛によって、夫婦ともに家庭で過ごす時間が平均的に増えているはずです。場合によっては、家事を分担する機会も増えるのではないでしょうか。ただし、いつも「協働」(ともに協力して作業すること)はうまくいくとは限りません。この問題について参考になることも書いていますので、ぜひ読んでみてください。

夫の家庭参加が進んでも妻の負担は減らない!?

 まず、夫婦間の家事分担の動向を見てみましょう。総務省の『社会生活基本調査』によれば、6歳の子どもを持つ夫婦の一日当たりの育児・家事関連時間は、2006年から2016年の10年間で夫の時間は60分から 83 分に増えています。しかしながら、同じ期間に妻の育児・家事関連時間も447分から454分に(少しだけですが)増えているのです。

 さらに、日本家族社会学会が行っている「全国家族調査(*注1)」によれば、特に食事の後片付けや洗濯において、共働き(ともにフルタイム勤務)の夫婦の家事頻度の合計量は、10年間で増加傾向にあることが確認されています。

*(注1)二次分析にあたり、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「全国家族調査(家族社会学会全国家族調査委員会)」の個票データの提供を受けました。NFRJ18(第4回全国家族調査)のデータは、日本家族社会学会・NFRJ18研究会(研究代表:田渕六郎)が企画・実施した調査で、本分析ではver.2.0データを利用しています。

 ここで、2つのことを確認しておきましょう。まず、日本では夫の「家庭参加」はまだ極めて低い水準であることです。これは、夫婦の働き方(労働時間や収入)が同じ場合も同様であり、不公平な点です。次に、夫の家事参加が多少なりとも進んでいるのに、全体の家事の量が減っていないのならば、夫が家庭参加をしても妻の家庭負担はあまり減っていない可能性がある、ということです。

 1つ目の問題(まだまだ残る家庭仕事の男女不均等)ももちろん大きな問題です。しかしここでは、2つ目の問題に注目してみましょう。

 どうでしょう、「ふつう」に考えれば、夫が食事の準備の回数を1回増やせば、妻がその負担から1回分解放される、と考えたくなりますよね。しかし、少なくとも数字上はそうなっていません。なぜなのでしょうか?

 「社会生活基本調査」のデータに関していえば、理由の1つはおそらく育児休業です。育児休業を取得する人の数は近年増加傾向にあります。ただ、圧倒的に多いのは女性です。「平成30年(2018年)度雇用均等基本調査」によれば、女性の育児休業取得率(*注2)は1996年には49.1%でしたが、2018年には82.2%まで上がっています。育児休業は女性にとって「当たり前」になりつつあるのです。

*(注2)調査前年度1年間に自分か配偶者が出産をした人のうち、何人が育児休業を開始したか、の割合。

 では男性はどうでしょうか。男性の育休取得も増加傾向にあります。1996年にはたったの0.12%でしたが、2018年には6.16%まで増えました。しかし女性の上昇幅が22年で33.1ポイントであるのに、男性の上昇幅は6.04ポイントにすぎません。さらに育児休業取得期間をみると、2015年度調査では女性の9割近くが6カ月以上取得しているのに対して、男性の8割以上が1カ月未満となっています。そして悲しいことに、男性の約57%が取得期間「5日未満」なのです。

 要するに、育児休業中に家庭の負担を背負っているのはほとんど女性なのです。だとすれば、育児休業制度が浸透するにつれて、特に小さな子どものいる家庭では家事分担の公平化が進むはずがないですね。

 もちろん他の理由もあるはずです。「男性が家庭の仕事を担当しても女性の負担があまり減っていない」ことは、育児休業の取得率の上昇だけでは説明できません。

 データからは直接推測することができないのですが、ひとつ考えられる理由は「男性の家事・育児があまり『戦力』になっていない」可能性です。

家庭の仕事は複合的で複雑

 職場の仕事については容易に想像できると思いますが、ひとつのタスクというのは、通常はいくつかの作業が複合的に組み合わさっているものです。家庭の仕事も、複合的かつ複雑な作業を含むことがあります。

 たとえば、食料や日用品の買い物を例にとってみましょう。職場でも、在庫があるのに余計な調達をしたり(特に消費期限があるようなもの)、そもそも不要なものを買ってしまったりしたら怒られますよね。家庭でも同じです。冷蔵庫の中身を確認せずに生鮮食品を買ってしまったり、収納の空き具合を把握せずにかさばるもの(トイレットペーパーなど)を買いすぎてしまえば、「仕事ができない人」だと思われてしまいます。特に生鮮品は、家族の消費見込み(子どもが修学旅行で留守にするなど)を考慮して買い足さなければなりません。

 ところが、いわゆる男家事というのは、こういった見えにくい作業をスキップしてしまいます。「今晩の食事の準備」を担当することになったから、冷蔵庫の中身を見ずに献立を考え、必要な食材を仕事終わりに購入する、といったやり方です。しかし「できる家事」というのは、まず冷蔵庫やパントリーにある食材を確認して、そちらの消費を優先しつつ、不足している食材を購入する、という段取りになるはずです。そうしないと食材が腐って無駄になってしまったり、パントリーが余計な保存食材でいっぱいになって他の必要な保存に支障がでたりするかもしれません。

 食事の準備も、後片付けも、掃除も洗濯も、実はかなり複雑な作業を含んでいるのですが、家事に慣れておらず、かつ長期的に担当したことがない多くの男性には、この“見えない仕事”の部分が理解できないのです。

 考えてみてください。日常的な作業に必要な用具を管理したり、職場全体の環境を整えたりするのは会社の総務部ですよね。総務部で働いている人は、ちゃんと給料をもらって、体系的に仕事をこなしているはずです。

 人数は少ないですが、ほぼ同じ仕事が家庭でも必要になります。「食事の準備」「掃除」「洗濯」のように、わかりやすい単位で仕事があるように見えるのは錯覚に過ぎません。NFRJ18のデータによれば、男性の半数以上が食事の後片付けを「週1回以上」行っています。これでも多いとはいえないのですが、「衣服の収納に置く防虫剤を自分の管理と判断で購入して設置した」男性は、もっと少ないのではないでしょうか。逆に多くの女性は、こういった「総務部的」な仕事を無数にこなしているのです。

 どうでしょうか。見えにくい作業を含めてトータルに家事を負担することができてはじめて、パートナーの重荷を減らすことができるのです。これができていないために、男性が家事を「手伝った」としても、女性の負担が思ったほどに減っていない、という可能性があるのです。

家事にも訓練が必要

 もちろん上記の説明は1つの仮説です。他の説明も十分に考えられます。ただ、これまで家のことを負担してこなかった多くの男性が、家事や育児という仕事の複雑さをちゃんと理解していないということは確かでしょう。

 女性(妻)の職場参加と、男性(夫)の家庭参加は同時進行する必要があります。このことはこれまでもいろんなところで強調されてきた論点です。他方で、職場の仕事と家庭の仕事には、一定の共通点があるということも理解してほしいところです。家事や育児が「誰にでもできる」かどうかはここでは重要ではありません。誰にでもできるものだとしても、きちんとできるようになるまでは一定の訓練が必要なのです。これはどんな仕事でも同じことでしょう。

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