痴漢に遭ったらどうすればいい? 被害当日〜その後の流れを弁護士が解説

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「GettyImages」より

 年間2777件――これは、2018年の迷惑防止条例違反のうち、痴漢行為として検挙された件数です(「令和元年警察白書」より)。電車内における強制わいせつとして認知された件数は266件。ただし、痴漢の被害に遭っても警察に届け出る人はたった1割程度といわれており、この数字は氷山の一角に過ぎません。

 痴漢被害者の多くが声を上げにくい理由のひとつに、「痴漢被害を訴えるのは大変そう」「どうすればいいのかわからない」ということがあるのではないでしょうか。もし、痴漢に遭ったらどのように行動すればいいのか。痴漢被害に詳しいらめーん弁護士に、詳しくお話を聞きました。

■らめーん弁護士
2006年司法試験合格。2008年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会・委員。犯罪被害者支援弁護士フォーラム(略称VSフォーラム)会員。性暴力救援センター東京(SARC東京)支援弁護士・運営委員。一般社団法人Spring法律家チーム。著書(共著)に『ケーススタディ 被害者参加制度 損害賠償命令制度』(東京法令出版)、『犯罪被害者支援実務ハンドブック』(同)

プロセスは事情聴取、供述調書の作成、被害時の再現の3つ

 前提として、痴漢は強制わいせつ罪、または都道府県の迷惑防止条例違反にあたります。たとえば、東京都の「迷惑防止条例」で、痴漢は、第5条に<公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること>と定められています。第5条には、盗撮に関する定めもあります。

 らめーん弁護士によれば、「痴漢を捕まえた後の流れは、被害のパターンによって異なります」とのこと。今回は、報告例の多い朝の通勤時間帯で痴漢に遭った場合を想定してもらいました。

痴漢加害者の駅員への引き渡しは、被害者が行う

――そもそも、痴漢の被害者が被害を訴えるためには、まず加害者を駅員さんに引き渡す必要があるんですよね。ハードルが高いなと感じます。

らめーん弁護士(以下、らめーん):そうですね。痴漢被害に遭ったのち、加害者をホームにいる駅員さんに引き渡すところまでは、被害者や、その周辺の人が行う必要があります。前提として、相手が逆上して何をするかわからないなど、被害者側が危険な目に遭いそうな場合は、まずは自分の身を守っていただきたいというのが正直なところです。声を上げるときには、可能であれば、周囲の人の助けを借りてください。また、もしその場で加害者に逃げられたとしても、常習犯であれば防犯カメラの映像から捕まえられる可能性もありますので、まずは駅員さんに相談してください。

――無事に痴漢加害者を駅員さんに引き渡したとして、その後の流れはどのようになるのでしょうか?

らめーん:駅員さんと加害者とともに鉄道警察に行き、まずは事情聴取を受けることになります。事情聴取は原則として加害者と被害者は別々に話を聴くことになっているので、もし加害者と同席させられそうになり、恐怖心や嫌悪感がある場合は「別々にしてください」と伝えてください。
 事情聴取から供述調書を作成するだけなら3~4時間で終わることもありますが、被害時の再現まで行うこともあります。

――通学中や通勤中で被害に遭った場合でも、供述調書の作成や再現は当日中に必ず行わなければならないのでしょうか。

らめーん:いえ、供述調書の作成や再現は強制ではないので、希望すれば後日でも可能です。ただし、被害後すぐに供述を取った方が、証拠としての価値は圧倒的に高くなります。たとえば、交通事故だとすぐに現場を保存しますが、満員電車は二度と同じ現場を再現することはできないので、被害者本人の供述が最も証拠として高くなるのです。なので、警察も、ヤル気のある場合ほど、被害直後に供述調書を取りたがることが多いんですね。

怒りではなく「羞恥」を証言しなければならない

――供述調書の作成時は、どんなことを聞かれるのですか?

らめーん:被害を受けたシチュエーションについて、被害者の口から警察に伝えることになります。たとえば「加害者はスーツ姿の男性サラリーマンで、真後ろにぴったりと密着され、右手で私の左側の臀部(お尻)を触り始めました」「加害者の息が、私の首の後ろ辺りに当たっていました」というふうに、なるべく具体的に話す必要があります。このときも女性警官の対応を希望することはできますが、そもそも女性の警察官の数が少なく、常駐しているわけではないという理由から、対応が難しい場合もあります。
 大切なのが、痴漢被害に遭った場所の確認です。警察は、痴漢のほとんどを、都道府県の「迷惑防止条例」に当たるか、という視点で検討します。そのため、東京都の条例と神奈川県の条例は、別物ですから、適用することができる条例がハッキリしないと、警察も、犯罪として取り扱うことができないのです。このあたりは、痴漢を、都道府県の迷惑防止条例ではなく、国の法律で統一的に犯罪として扱い、取り締まりをクリアにするよう改善していくべき問題とも思うのですが……。

――警察官の前で、被害の状況をうまく伝えられるか不安です。

らめーん:警察官が聞くべき事項は定型化されているので、警察はマニュアル通りに聞き取りをします。警察の質問に答えれば、必要な要素が出揃うようになっているので心配はありません。
 マニュアル化というと冷たい印象を持たれるかもしませんが、すばやく立件できるよう、効率化しているともいえますし、必要な事項を聞き漏らすことも防げます。

――「痴漢が恥ずかしかった」と言わなければならないと聞いたのですが納得がいきません。なぜ、私の感情を、警察が決めつけなければならないのでしょうか?

らめーん:たとえば東京都では、痴漢には迷惑防止条例の<何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない>という定義を当てはめるため、「痴漢被害で恥ずかしいという感情を持った」ということを調書に書かなくては立件できないんです。そのため、警察は被害者に対して「恥ずかしかったんだよね?」と聞いて、調書に必要な言葉を誘導します。つまり、被害者はたとえ羞恥ではなく怒りや気持ち悪さだけを感じていたとしても「痴漢されて恥ずかしかった気持ちもあった」ということにしなければ、条例違反にならないんですね。これは、被害者感情を無視しかねない大きな問題だと思います。

被害時の再現をする必要がある

らめーん:警察による聞き取りが終わったら、最後に内容の読み聞かせをし、「以上の通りで間違いありません」と署名捺印をします。大体の場合はハンコを持っていないので拇印になりますね。

――供述調書のあとに行う、被害時の再現では、どんなことを行うのですか?

らめーん:再現は、警察署内の運動部屋のようなところに移動して、被害者が人形を相手に、具体的にどこをどのように加害者に触られたのかを説明します。
 このときに対応する警察官は、加害者と背格好が似ている必要があるため、加害者が男性であれば男性警官の対応になります。被害者の心的ダメージが大きい場合や、その日の痴漢被害が多すぎてスペースが空いていないという場合は、被害当日には行わない場合もあります。

――当日は長くても事情聴取と供述調書の作成、被害時の再現まで、ということですね。すべて当日中に行うとすると、どのくらい時間がかかるのでしょうか。

らめーん:被害の場所や状況によって異なりますが、6時間以上かかるケースもあります。当日中に立件に必要な行程をすべて済ませるとしたら、丸一日潰れる覚悟はしておいた方がいいかも知れません。

もし示談を拒否したかったら

――被害当日の流れはわかりました。その後は、どのような対応になるのでしょうか。

らめーん:後日、被害者が何回ほど警察に呼ばれるかは、加害者が自白したか否認したかによっても異なります。たとえば、加害者が初犯で自白したとなると、略式起訴で罰金刑で終わりになります。交通違反と同じですね。この場合、公判は開かれないことが多く、被害者が証人として裁判所に呼ばれることはありません。しかし、加害者が重要な部分を否認していたり、常習性が高いなど悪質な場合は、起訴されて法廷が開かれることもあります。
 絶対にこうなります、とお伝えできないのは、起訴の裁量が検察にあるからなんです。ただし、だいたいの加害者は、前科がつくことを恐れて示談にし、不起訴に持ち込みたがることが多いです。前科があったり執行猶予中だったりすると、示談をしても起訴されるケースもありますが、基本的には、被害者が示談金を受け取ったら不起訴になります。

――示談交渉に応じる際には、被害者の方も弁護士を立てる必要はあるのでしょうか。

らめーん:必ずしもその必要はありません。ただし、交渉するには、自分の氏名や連絡先を加害者の弁護人に教えることになります。それに抵抗があるという方は、自分に弁護士をつければ間に入ってやり取りをすることができるので、本人の負担は圧倒的に軽くなるでしょう。弁護士に相談する場合のタイミングは、被害に遭った当日で構いません。その後、相手側の示談に応じるか、その先に進むかは被害者次第です。
 ただし、正直な話をしますと、痴漢は初犯だと略式起訴での罰金刑で30万円程度で済みますから、示談金も同程度の傾向です。手間や精神的な負担を考えると、民事裁判を起こしても大きなメリットがあるものではないんです。

――弁護士に相談するとなると、費用が心配な方も多いと思います。

らめーん:日本弁護士連合会(日弁連)の委託制度を利用してください。日弁連の委託援助制度「犯罪被害者法律援助」は、基本的に被害者の資力が300万円以下の場合に利用ができ、弁護士費用の着手金分が援助されます。被害者は、原則として着手金を返す必要はないので、持ち出しがありません。
 ただし、日弁連の制度の財源は税金ではなく弁護士の会費なので、いつ枯渇するかわからないという懸念があります。また、使える犯罪も内規によって決まっているので、現状は痴漢や盗撮=性犯罪として利用することができるのですが、いつ「迷惑防止条例違反には適用しない」となりかねないという恐れもあります。起訴前の段階で、犯罪被害者に公費で弁護士費用を援助する制度がないのが、最大の問題です。

――ネットで「痴漢 弁護士」と検索すると、加害者の冤罪の弁護を謳う事務所ばかりで、被害者支援をしている弁護士を見つけるのは難しく感じます。

らめーん:そもそも、被害者支援をやっている弁護士の数は少ないんです。その理由のひとつに、被害者支援をしてもお金にならないということがあります。痴漢の被害者は10~30代の若年層が多いので、先ほど紹介した日弁連の委託制度を利用される方が多いんですね。すると、弁護士にとって着手金は13万2千円。一方で、(加害者弁護の)私選弁護士であれば着手金の相場は30万円と消費税です。率直に言って、被害者側の擁護はお金にはならないのです。

――痴漢被害者の力になってくれる弁護士を見つけるのは難しいのでしょうか?

らめーん:ネットで痴漢被害者の弁護士を探すと、被害者支援の実績がないにも関わらず、SEO対策はバッチリで上位に検索表示されているような事務所も少なくありません。ですからそうした弁護士事務所ではなく、まずは各都道府県に設置されている、性犯罪・性暴力被害者の相談窓口「ワンストップ支援センター」に電話して相談することをおすすめします。ワンストップ支援センターには連携している弁護士がおり、性犯罪被害者の相談も受けつけています。

――「ワンストップ支援センター」はレイプ被害のようなものでないと相談に乗ってもらえないものだと思っていました。痴漢被害も相談できるんですね。

らめーん:痴漢は、れっきとした性暴力です。もし困っている場合は、ぜひ相談してみてください。

◆全国の「性暴力被害者ワンストップ支援センター」一覧

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