食いしん坊YouTuberしおたんが自分の体型を「自虐ネタ」に使わない理由

文=雪代すみれ
【この記事のキーワード】

 あなたの中に「太っていること=よくないこと」という価値観はありますか?

 もしあるなら、いつ頃、どんなふうに「太っていること=よくないこと」という価値観が自分の中に定着したか覚えていますか?

 食いしん坊オペラ歌手系YouTuberのしおたんさんは、ときどきお話系動画として自分を「デブ」と自虐したくない理由や、「これからの時代は体型や肌の色など人を見た目でジャッジすることがありえない世の中になっていくと思います」などメッセージを発信しています。

 しおたんさんに動画を出した経緯や思いをお伺いしました。

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しおたん
食いしん坊オペラ歌手系YouTuber。山形県出身、東京藝術大学声楽科卒業。YouTube活動のほかボイストレーニングレッスンも行っている。花王「サクセス」CMソング。好きな食べ物はいくらとチョコミント。

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「デブ」という言葉に込められた意図

ーーまずはしおたんさんがYouTube活動を始めたきっかけを教えてください。

しおたんさん(以下、しおたん):ぽっちゃりしている人を始め、体型で悩んでいる人たちの力になりたいと思ったからです。私も最初から今のような考えを持っていたわけではなくて、昔は「太っているから目立たないようにしなくては…」と考えていたんです。でもそうする必要はなくて、私がYouTubeで自分を表現していくことによって、体型で悩んでいる人が「自分も閉じこもっていなくていいんだ」と思えるきっかけになれたらなと思って始めました。

ーー今回取材させていただきたいなと思ったきっかけは、まさにそういったメッセージのこもった「デブとぽっちゃりの違い」「自分をデブと自虐したくない理由」の動画を拝見したためでした。この動画への思いをお聞かせください。

しおたん:私は「デブ」という言葉が本当に嫌いなんです。デブという言葉には、相手を見下す意図が込められていると感じるからです。また太っている人は「デブと自虐して笑いをとらないといけない」といった空気を感じることもありますし、私のYouTubeにもそういったことを求めている視聴者さんもいます。サムネイルに「体重何キロのデブが大食いします」と入れた方が再生数が伸びるけれど、でも自分を自虐してまで、そこまで自分を落とさなくてもいいんじゃないかなって思うんです。

ーーぽっちゃりしている人の食事動画は確かに「デブが大食いします」といった自虐的要素を交えた企画が多いです。ですが、しおたんさんはいっぱい食べるという企画の中でもおいしく食べることを大切にしていて、素敵だなと思います。

しおたん:おいしく食べるようにしています!無理な大食いはせずに食べられなかったら後で食べるようにしています。私自身の活動に関しては、私のやりたいことやライフスタイルを発信しているだけであって、歌ったり食べたりメイクしたりという動画は別に太っていることとを結びつけて発信しているわけではないんです。

 デブという要素を前面に出して活動している方のことを否定するわけではないのですが、私はデブと自虐して笑いをとることは昔の価値観だと思います。これからは容姿で笑いをとるのではなくて、一人ひとりの多様性を大切にしていく時代になっていくと感じています。

ーーぽっちゃりしている人がデブと言われることにNOを示すと、「デブって言われたくないのになんで食べるんだよ」というような、心ない言葉を返す人を見かけることもあります。私自身も似たようなことを言われたことがあるのですが、どうやって言い返せばいいのかわかりませんでした……。

しおたん:少しでも相手に敬意があったら、その人の容姿を表現する時に「ぽっちゃりしている」とか「体格が立派」「ふっくらしている」とか濁した言い方にするでしょう。「デブ」というのは明らかに悪口ですし、なんでそんなこと言うのかなって思いますよね。

 そもそも、太っていることに限らず、人の容姿を品定めして言及すること自体が失礼ですよね。例えば世間的には「痩せていること=良いこと」とされていますが、褒め言葉のつもりで「痩せているね」と言ったとしても、言われた本人が痩せていることをどう捉えているかはわからないですから。

ーー世の中には、太っている人を見下したいという人が一定数はいると感じています。しおたんさんは、「デブとぽっちゃりの違い」「自分をデブと自虐したくない理由」の動画を出すのは怖くなかったですか。

しおたん:怖かったですし、最初にそういった動画を出したときは全然有名じゃなかったので炎上まではいかないものの誹謗中傷もありました。でも共感してくれる人もたくさんいて、そういうメッセージに元気をもらいました。応援してくれる人がいるから逃げずに、自分の気持ちをきちんと伝える動画を出していこうと鞭を打って、お話系動画を出し続けています。

ーー動画の中で「自虐に逃げたくない」とおっしゃっているのが印象的でした。どんな思いがありますか。

しおたん:正直、自虐した方が楽だなと感じることはあるんです。太っていることを茶化されたときに、その笑いの消費に乗ってしまえばその場の雰囲気は盛り上がりますし。でもそういう笑いはこれからの時代にはそぐわないんじゃないかなって思うんです。

 太っていることをいじられたときに「そういうことを言うのは良くないよ」と言い返すと、相手にとって期待した反応と違うので「えっ?」と驚かれたり、人によっては不機嫌になったりもするんです。その場の空気はちょっと悪くなってしまうこともあるんですけれど、太っている人をいじっていいという価値観が染み付いてしまっている人もいるので、変えていくためにはこういうやり取りの繰り返しが大切だと考えています。

かつては自分のことが嫌いだったけれど

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撮影:wezzy編集部

ーー最初から今のような考えを持っていたわけではないとおっしゃっていましたが、以前はどのように考えていたのですか。

しおたん:私は山形県の中でも結構田舎の方出身で、地元自体は好きなのですが、少し目立つと、ヒソヒソと何か言われるような雰囲気がありました。「太っていると恥ずかしい」という価値観も根強くて。高校生まで山形県で暮らしていたのですが、通学電車の中で知らない男子高校生が「うわーあいつデブじゃねw」と言ってくることもありました。親に小さい頃から「太っているんだから地味で目立たないようにして、痩せる努力もしなさい」と言われて。

 そんな環境だったので、ずっと劣等感を抱えていましたし、「自分は太っているからひっそりとしていなくてはいけない」と思っていました。

ーー転機はいつ頃だったのですか。

しおたん:高校卒業後、東京藝術大学の声楽科に進学しました。藝大自体が人の多様性を自然と受け入れる雰囲気であったことと、上京していろいろな価値観の人と出会ったことで、少しずつ考え方が変わってきました。

 外国にルーツを持つ友人ができ、彼女は国籍への差別に対して発信をしていて。どうして外国にルーツを持っているというだけでそんな辛い思いをしなければならないんだろうって……。私が容姿だけでなく、多様性を受け入れない社会に違和感を覚えているのはそのことがきっかけだと思います。

ーー大学進学が大きなきっかけだったのですね。

しおたん:大学に進学してすぐに考え方が変わったわけではなく、1、2年生の頃はまだまだ悩んでいました。ずっと自分に自信がなくて。人から言われたネガティブな言葉の積み重ねで、自分に「今の時代は音楽をやっていくのにも、痩せていないと有名になれないはず」と呪いをかけてしまっていたこともあったんです。

 藝大での生活を通して、音楽をやるのに必要なのは実力であって体型は関係ないことや、太っていることがいじられやすいという意味ではなく1つの個性として武器になることもわかりました。

ーー最近ではお母さまと一緒に歌の動画も出されていましたよね。

しおたん:私がYouTubeで活動していくのを見て、親も健康面の心配しているものの、太っている=悪いことという価値観は薄れていっているみたいです。

劣等感をゼロにするのは難しくても

しおたん:私も昔に比べたら劣等感は減っているのですが、全くなくなったわけではないんです。未だに劣等感によってつい自分のことをデブと言ってしまうことがあります。

ーーどんなときに劣等感を感じるのですか?

しおたん:今でもたまに、歩いているときすれ違いざまに「デブ」と言われることはあるので、そういうときとか。あと、結局、メディアで人気の人ってほとんどがスタイルが良くて可愛くてみたいな……。

ーーネット広告とか、「痩せて可愛くなろう!」がとても露骨ですよね。

しおたん:ネット広告を始めとして、世の中の「痩せていることは美しい」というメッセージは多いですよね。YouTubeにもダイエット系の広告があって、私の「ぽっちゃりとデブの違いについて」の動画の前にダイエット広告がついていることもあります。

ーーそれは逆に、しおたんさんの動画の意味をすごく視聴者に投げかけているような…動画のメッセージ性が強くなる流れのような気もしますが、やっぱり嫌ですよね。

しおたん:YouTubeではやっぱり、誹謗中傷のコメントでも自己肯定感が削られます。一つ一つに反応はしないのですが、やはり誹謗中傷のコメントがつくと嫌な気持ちになります。「太っていること=悪」という価値観を強固に持っている人も中にはいて。そういった自分の価値観を否定された、私に攻撃された、と思い込んで、攻撃し返してくるような感覚なのだと思います。だから「太っている人を美しいと思えと言っているわけではない」など、言葉を尽くしているつもりではあるのですが。

ーー太っている人を攻撃する人の中には、「太っているという自覚があるなら、本人にデブと言ってもいいじゃないか」と考えている人もいると感じるのですが、そういった意見をしおたんさんはどのように考えますか。

しおたん:自分で自分に「デブ」と言ってしまうことと、人から「デブ」と言われることは全然違います。私自身、劣等感による自虐のほかにも、親しい友人と話していて、ついクセのように「デブ」と言ってしまうことがあって。自分でも自分に言いたくない言葉なので、気を付けなくてはいけないと思っています。

 太っていることをいじったり揶揄したりする人にも、先ほど「太っている人を美しいと思えと言っているわけではない」と言ったように、こちらの考え方を押し付けるつもりではありません。いろいろな考え方があってもいいと思っていますが、ただ、「デブ」という傷つける言葉をわざわざ人に言う必要はないですよね。

ーーこれから先、YouTube動画で発信していきたいことは。

しおたん:歌ったり食べたりオシャレを楽しんだりということを通したメッセージを伝えていきたいと思います。

 人の容姿にいちいち言及することは良くないことだという共通認識が世の中に浸透したら、わざわざ「デブとぽっちゃりの違い」「自分をデブと自虐したくない理由」という話をする必要もなくなります。最終的には体型や人種など一人ひとりの多様性が自然と受け入れられて、人として扱われることが普通になればいいなと思います。

 ただ私自身、今でも気を抜くと、自虐に逃げてテキトーなコミュニケーションをしようとしてしまうことがあるんです。劣等感はなかなか消え去りませんが、自分と闘っていくことが1つの課題ですね。

(取材・構成 雪代すみれ)

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