生きたまま首を切断の残虐事件 被告は「人を殺せる人間であると誇示したかった」

文=高橋ユキ
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「GettyImages」より

 筆者は2005年(平成17年)から、主に刑事裁判を見つめ続け、傍聴ライターとして稼働している。恋愛関係のもつれからの絞殺、夫婦関係悪化の末の撲殺、金目当ての拉致監禁ののちに橋から落として溺死……など、さまざまな凶悪事件の公判を多く取材してきた。その中には、何年経っても記憶から消えない事件がある。

 理由はいくつかに分類される。あまりにも悲しい、謎が解明されないまま終わった、殺害態様が凄惨すぎる、以前も傍聴した被告人による再犯……などだ。そのような『忘れられない事件』を、カテゴリごとに4回にわたって綴ってゆく。第一弾は【怖い話】。

【横浜港バラバラ殺人事件】2010年傍聴

 2009年6月24日、横浜市金沢区の岸壁で、男性の遺体の下半身部分が見つかった。翌日午後2時、釣りをしていた男性による「人体の一部が浮いている」という通報により、下半身が引き上げられた場所から10数メートル離れた東京湾海上で、新たに男性とみられる頭部や複数の手足などが発見される。

 これらの部位から、神奈川県警は少なくとも成人男性2人の遺体が切断、遺棄されたとみて捜査を開始。遺体の身元は同県大和市の会社員、高倉順一さん(36=当時)と、東京都世田谷区の麻雀店経営、水本大輔さん(28=当時)と判明し、その後死体遺棄・損壊や強盗殺人などの容疑で、関係者ら8人が逮捕され、ひとりがICPOを通じ国際手配された。

 このうち、ふたりの殺害行為を担った主犯格とされているのが、4人目の逮捕者である、横浜市出身の無職、池田容之(逮捕当時31)だ。池田は同年、福島空港と新千歳空港に大量の覚醒剤が密輸された事件において、覚醒剤取締法違反などの容疑で逮捕、起訴されていた。この取調べで、殺人への関与を自供したという。

 国際手配されている元早大生、近藤剛郎(手配当時26)らと水本さんたちは、同年3月頃から東京・歌舞伎町の麻雀店をめぐって金銭トラブルになっていた。池田は逮捕当時「店の前経営者である近藤から金などの報酬で2人の殺害を頼まれた」と供述。近藤は池田にとって、覚醒剤密輸組織の上役でもあった。

 犯行グループは遺体が発見される直前の同年6月18日~19日に千葉県船橋市のホテルで2人を監禁。池田は水本さんから2回にわたり計1340万円を奪った。19日に近藤に電話した際に「2人ともやってください」と言われ、そのまま2人を電動のこぎりなどで殺害したうえ、遺体をバラバラにし、共犯者らと同20日、横浜市の海や山梨県の富士山中に遺棄した。

「1人も2人も一緒だ」命乞いを無視し生きたまま首を

 この横浜港バラバラ殺人は、その殺害態様の残忍さが際立った。殺害を実行した池田は2人を生きたまま電動のこぎりで切断したのである。共犯者らに誘われ犯行グループに加わり、死体遺棄などの罪に問われた滋賀県在住の3人、無職宮原直樹、無職三田恭志郎、自称会社員伊吹真吾は、2010年に行われた公判で、池田について口々にこう供述している。

「池田が現場に来てから、被害者は暴力を振るわれてすごい変わり果てていた、ひたすら恐ろしかった」
「風呂を見たとき池田が体の一部を持っていた」
「池田は『1人も2人も一緒だ』『口外すると家族も危ないと思え』といったようなことを言っていた」

 また、共犯として現場に居合わせ、強盗致死罪などに問われた南部宇宙(逮捕当時27)は、池田の裁判員裁判に11月3日、証人出廷し、殺害の様子をこう振り返った。

「自分は池田が2人を次々に浴室に連れて行くのを見ていた。2人を殺しても『今死にましたから』と動揺も見せずに話し、信じられない気持ちだった。直前に『止めるやつもやるしかないな』と言っていたため、怖くて制止できなかった」

 高倉さんは池田に殺される直前、せめてもの頼みをしていた。

「せめて母親と妻に一言だけ電話させて下さい」
「電動のこぎりは殺してからにしてください」

 池田は懇願する高倉さんを無視し、生きたまま首を切断した。殺害後は南部にこう語ったという。

「人間なんて死んでしまえば人形と同じ。肉の塊ですよ」

 2010年11月4日に行われた被告人質問で池田は「被害者の命乞いを聞く気もなかったし、躊躇する気にもなれなかった」と、当時の心境を振り返った。面識もなかった2人をこれほどまでに残忍な手口で殺害した動機は、『近藤に自分が“人を殺せる人間”であることをアピールすれば、覚醒剤密輸の利権が手に入るという考えから』だった。法廷では「初対面なので怒りも憐れみもなかった」と冷淡な供述を繰り返す一方、被害者遺族の意見陳述で涙を見せ、揺れ動く心境がうかがえた。

 池田は陳述を聞いた翌日、弁護士との接見で号泣したという。犯行当時、取調べにおいて「2人に悪いことをした。遺族が納得できる刑であれば、殺されても仕方ない」と供述していたが、この日、被害者遺族の生の声を聞いたことで、自らの犯した罪に初めて気付いたのだろうか。「遺族の悲しみは想像以上に深いものだと感じた。諦めの気持ちで死刑を受けてはいけない」のちの被告人質問ではこう語っている。

 同16日の判決で横浜地裁は池田に求刑通りの死刑を言い渡す。裁判員裁判開始から1年6カ月、全国初の死刑判決であった。この言い渡し後の説諭で朝山芳史裁判長は「重大な結論ですから、裁判所としては控訴することをすすめます」と異例の“控訴勧告”を行っている。池田が法廷で見せた反省と、犯行態様の陰惨さの狭間で、評議において意見が分かれたのかもしれない。池田は一度は控訴したが2011年6月16日、これを取り下げ、確定している。だが一連の事件の首謀者、近藤はいまも逃亡中だ。

【人肉キムチ鍋事件】2013年傍聴

 男性を殺害してその遺体を解体、遺棄するなどして逮捕、起訴された男、金倉隆(47=公判当時)の裁判員裁判が2013年6月からさいたま地裁で開かれ、同年7月5日、懲役22年の判決が言い渡された。

 殺害されたのは埼玉県川越市に住む浄化槽点検管理業当間清司さん(59=当時)。元妻の父親で、金倉の勤め先の社長だった。金倉は「いらなくなったプリンターを息子さんにあげる」と当間さんを自宅に呼び出し、両手が塞がった状態の当間さんに対して後ろからハンマーで殴りつけ、殺害した。のち浴室で遺体を解体してその胴体を車に乗せ、実母が住む長野県の実家の庭先に埋めたという。他の部位は細かく砕くなどして側溝や山林などに遺棄した。

 公判では、本人の口から“歪んだ自意識”とそれによる“異様な犯行手口”が赤裸々に語られることとなった。

 被告人質問で遺体の処理について問われ、金倉はよどみなくハキハキと答えている。

金倉「足の肉、赤みの部分は、キムチの素、寄せ鍋の素を入れて食べる事にしました」
弁護人「それはなぜ?」
金倉「征服感からです! とにかく、社会悪の人間、食ってやろうと一心不乱でした」
弁護人「思いとどまるとかは?」
金倉「全くなかったです!」

 金倉はまた当間さんを殺害した際「マンセー」とつぶやいたともいう。こうした行動には彼なりの理由があった。

金倉「自分の意識の元に、自らを同一化……自分は朝鮮人だと。母親の名前と同じ地名の場所があり、そこで自分は朝鮮民族だと。……それは妄想でしたが」
弁護人「あなた朝鮮語読めるんですか?」
金倉「読めませんっ。カタコトぐらいです。新聞を取ったりして、親近感は感じていました。日本国内においては嫌悪感を持たれていて、そこに同一化してる自分がいました」

 自分をコリアンルーツだと思い込み、これらの行動に至ったようだ。だがなぜそこまでの恨みを当間さんに抱いていたのか? 肝心の動機についてはこうだ。

「仕事を手伝うようになって、仕事ぶりを見ていたんですが、その中で清司さんが悪事を働きまして。不法投棄とかを……。また過去に暴力も振るっていたと聞いて、もう自分自身でも、5月くらいには殺しちゃえと。内部告発をしたんですが、それを告げた時、胸ぐらを掴まれて『なんでウチの会社をいじめるんだ』と。そういった事が……。私自身の、正そう、という、正義じゃないですけど、それに対して暴力で対抗してきた、それに対して殺意を……」

 長々と述べていたが、これといった衝撃的な出来事があったわけではないようだ。のちに言い渡された判決では、“会社を思うままに動かすため”という目論見があった事も指摘されていたが、その通りだろう。

 さらに、当間さんの暴力について嫌悪感を示す発言をしている金倉本人も、浮気や暴力が原因となって離婚しているだけでなく、引き取った娘にも暴力をふるったため、施設に引き取られているのである。他人のことを断罪できる立場ではない。

 金倉は殺人などに加え、勤め先同僚宅にスプレーで『死』と落書きするなどの建造物損壊、当間さんの家族の車のフロントガラスを叩き割るなどの器物損壊(6件)の他、娘が暮らす施設の職員に対して湯のみ茶碗を投げつけ暴言を吐くといった脅迫や暴行罪などでも起訴されている。

 この施設職員は調書で「金倉は面会の時『朝鮮総連の新年会に娘と行きたい』と言ったりするなど関係をアピールしていました。金倉が朝鮮総連のことに詳しいのは本当に所属していたからだと思っていました。以前、金倉は別の職員を『お前の家族のことは調べがついている』と脅していました。私は、朝鮮総連は国際的なレベルで実力を行使する強大な組織だと思っていたので本当に恐ろしく思っていました」と語っており、ここでも金倉が自らの偽のルーツを吹聴していたことが伺える。いずれも取り返しのつかない犯行だが、根底にあったのは金倉の思い込みだった。

(高橋ユキ)

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