八王子「スーパーナンペイ事件」実行犯を知っている可能性があると逮捕された男の裁判

文=高橋ユキ
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「GettyImages」より

 2005年(平成17年)から、主に刑事裁判を見つめ続けた傍聴ライター高橋ユキが、忘れられない事件を振り返る。今回は【結局解決していない話】。

【重大未解決殺人事件の参考人だったが……】2014年傍聴

 1995年7月に東京・八王子で発生した「スーパーナンペイ事件」。八王子のスーパー「ナンペイ大和田店」店舗2階の事務所に何者かが押し入り、女子高生を含む従業員3名を射殺したというこの強盗殺人事件は、いまも未解決となっている。

 ところが2013年11月15日、大きな動きがあった。「実行犯を知っている可能性がある」として警視庁八王子署捜査本部は、カナダ在住の中国人の男を、旅券法違反で逮捕したのである。男の名は何亮(カ・リョウ=逮捕当時43)。逮捕容疑は2002年4月に日本人名義の偽造パスポートで名古屋空港から香港へ出国したというもの。いわゆる別件逮捕である。

 何亮の名が捜査線上に浮上したのは08〜09年頃。中国において麻薬密輸罪で死刑判決を受け、2010年に処刑された男(当時67)が「昔、一緒に仕事をした何という中国人の情報屋が犯人を知っているはずだ」と供述したのだ。これを受け捜査本部は愛知県警から捜査を引き継ぎ、犯罪人引渡条約の締結されていないカナダに対し、外交ルートを通じて交渉を続け逮捕へと至った。

 何亮には前科がある。出入国管理法違反の罪で1994年4月に執行猶予判決を言い渡されていた。退去強制により中国に出国していたが、同年再び日本へ密入国。そこから再び出国する際に偽造パスポートを使ったことが、今回の旅券法違反となる。

 ナンペイ事件とは無関係の、11年前の微罪での逮捕。これを解決の糸口としたかった捜査本部の並々ならぬ気合いが見て取れる。2014年2月から東京地裁立川支部にて行われた公判では、捜査本部の前のめりな姿勢がさらに浮き彫りとなった。

 本件起訴までも何の勾留延長を繰り返し、任意でのナンペイ調べが行われていたが、起訴後に至っては同年4月まで131時間55分もナンペイ事件の取り調べに割いたことが分かっている。この対応は裁判所ものちの判決で「逮捕勾留中の調べの限界を逸脱したとの評価を受けてもそれを否定できない」と苦言を呈した。

 また『重大未解決事件の参考人の別件逮捕』という世間的にも注目された事案ながら、珍妙なやり取りが目立ったことも、この裁判の特徴だった。

 白髪まじりの坊主頭で、恰幅のよい体を左右に揺らしながら法廷に入ってくる被告人。終始不満げな表情で法廷を見回す。

 通訳人がつけられたが、初公判と第2回公判では、弁護人が「被告人は福建省の片田舎出身で通訳人の言葉が分からない」と主張し、公判が流れるなどした。しかし仕切り直して開かれた第3回公判では、それまでと同じ通訳人であるにもかかわらず、被告は通訳を理解できるという珍場面が見られた。

 のちにその“言葉が分からない”という主張が『設定』であることも明らかになる。取り調べ担当検察官が証人出廷し「被告は北京語の通訳も理解していた」と明かしたのだ。表情豊かな被告人は渋い顔をして検察官を見つめていた。

 さらに被告人は、カナダ在住時から“陰嚢部分にできものがあり、出血する”という症状に苦しんでいたとも言い出した。湿った患部から時折出血もしたそうだが、これをもって弁護側は「ズボンに血がつくほど出血したのに、長時間の取り調べを続けた」と取調べの違法性を主張。対する検察官は「患部については尋ねると『大丈夫』と言っていたし、悪そうな様子もなかった」と反論した。もはやナンペイ事件は全く関係ない。

 論告弁論の最終意見陳述では、通訳人を介し涙ながらにこう述べた。

「わたしは罪を犯しました。反省しております。しかしながら、記者や報道機関による精神的な圧力はかなり大きかったです」

 しかし複数の関係者から「パスポートの名義貸しをした男に対して『もしバレたらお前を殺す。家族のところにも行く』と脅迫をしていた」との供述もあり、表の顔と裏の顔が見え隠れする。

 9月の判決公判で裁判所は「規範意識の欠如は甚だしく、日本での生活状況はその実態が不明なものも多い。実刑も十分考えられた」としながらも懲役2年執行猶予5年の判決を下し、その翌日、何亮はカナダに送還された。裁判終結とともに、ナンペイ事件も再び膠着状態となってしまい、今も事件は解決していない。

【立川6億円強奪事件】2011〜2013年傍聴

 東日本大震災から2カ月後に起きた事件であるためか、被害金額の大きさのわりに、世間の関心は集まらなかったように記憶している。

 2011年5月12日の深夜、東京・立川市の警備会社『日月警備保障』立川営業所で男性社員(当時36)から「強盗に入られた」と110番通報があった。男性社員は仮眠中のところ、窓から侵入してきた2人組の男に粘着テープで体を縛られ、足を刃物で切られたほか鉄パイプのようなもので暴行されたうえ「金庫の金を出せ」と脅迫を受けた。侵入者らは、金庫を開け現金が入った麻袋計70袋を持ち出し逃走。強奪した金は約6億円、現金被害の強盗事件では国内最高額だった。

 この事件では捜査が進むにつれ、一人また一人と、芋づる的に関係者らが逮捕されていった。情報提供者、関係者を一時的にかくまった者、犯行計画立案、など、彼らの役割は細分化されており、最終的な逮捕者は23人に及ぶ。公判も逮捕時期や役割によっておおむね別々に開かれることとなった。

 襲撃計画のきっかけは美容院での雑談だった。強盗傷害教唆などの罪に問われた元美容師のTは、くだんの警備会社の契約社員でもあった。自分の経営する美容室で、客や友人らに「営業所のトイレの窓が壊れていること、夜中は警備が手薄になることや、金庫室の暗証番号まで」話していたのだという。

「自分の経営している美容室で、話題として警備会社の警備の杜撰さを話していた」

 と、Tはあくまでも“警備会社なのに防犯意識が薄い”ことを客や友人に笑い話として話していたのだそうだ。驚くことにTがこの話を持ちネタにしたのは2006年ごろから。長年の鉄板ネタだったのだ。しかしこれが笑い話で終わればよかったが、そうはいかなかった。実は6億円強奪事件の前にも、このTの鉄板ネタを悪用した『幻の襲撃計画』が立てられていたことも公判で明らかになる。

 これは高校時代からの友人に鉄板ネタとして内部情報を漏らした際に浮上した。6億円強奪事件は、営業所の金庫室から金が奪われたが、このときの計画は『現金輸送車襲撃』だった。

 なんとその当時、警備会社の現金輸送車には、無線機や通報装置などが設置されていなかったというのである。これも話したTに友人がこう言った。

「そんなんだったら、ヤレるんじゃないの」

 そうしてTの友人が中心となり、計画が動き始めたのだが「人が集まらない」ことから、計画は白紙になる。初期メンバーは解散となったが、今回のメンバーらが再度Tに話を聞き、営業所の図面などを書かせて犯行に至った。その間、警備会社の壊れた窓が修理されることもなく、暗証番号が変更されることもなく、夜間のシフトには警備員一人だけになるという体制が続いていた。Tには懲役9年という重い判決が言い渡されている。口は禍のもとだ。

 また芋づる的に逮捕された関係者らの公判はすでに終わり事件は終結しているが、事件の全容が解明されたわけではない。盗まれた約6億円のうち3億6000万円が未だに見つかっていない。“実行犯への指示役”として強盗傷害罪などで起訴され2012年10月に公判が開かれた蓑田哲郎(逮捕当時46、判決・懲役17年)は「事件の報酬として3000万円を受け取った」とされているが、実際のところ検察側は、少なくとも1億8000万円を確保したと睨んでいたようだ。

 犯行グループが持ってきた強奪金を分配し、一部を保管したという盗品等保管や、実行犯を車で大阪まで運んだ、という犯人隠避、また2011年7月の逮捕時に潜伏先から拳銃2丁が発見されたことから銃刀法違反の罪などにも問われたS(逮捕当時37・判決懲役8年)の公判では、その潜伏生活の実態や、拳銃や金についてのいくつかの謎が浮かび上がった。

「金の分配と帯封の処分を頼まれました。運び込まれた金を数えましたが4億もなかったと思います。ニュースで6億強奪したことは知っていたので、4億しかない、とメールしましたが返答がありませんでした」

 金が運び込まれた時点ですでに2億が関係者の誰かの手により抜き取られていたと、Sは言う。最終的に強奪金を分配し、分け前1億を得たというが、他の共犯よりもはるかに多い。少なくとも1000万円を、逮捕までに使っていたが、潜伏先から6〜7回デリヘルを呼び、嬢に113万円のチップを渡すなど、多くはデリヘルに使ったようだ。

 当の実行犯である渡辺豊(逮捕当時41・判決懲役18年)の裁判員裁判では、渡辺が3000万円程度の分け前のうち、デリヘル利用14回、計66万円を使ったことが暴露された。被告人質問では「“強盗のカネ”だから、約700万円は重りをつけて海に沈めた」と語っていたが真実かどうかは定かではない。

 本事件は2012年9月にカンボジアで逮捕された“最後の関係者”西沢健司(逮捕当時44)の逮捕で真相解明かと思いきや、そうはいかなかった。警視庁は西沢を主犯格とみており、当初、強盗傷害容疑で逮捕していたが、地検が証拠不十分と判断し、盗品等保管などの罪での起訴にとどまった。西沢には執行猶予判決が下されている。これで一連の捜査は終結。消えた金の行方はわかっていない。

 またSが所持していた2丁の拳銃については、使用したと推認される射撃残渣が検出され、大量の実包とともに押収されており、それぞれ1回分、弾がなくなっていた。いつ何のために使用されたのかは不明だ。

(高橋ユキ)

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