全米でアジア系への憎悪広がる「アメリカに新型コロナウイルスを持ち込んだ奴ら」

文=堂本かおる
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「チャイナ・ウイルス」と呼び続けたトランプ

 近年のアメリカではアジア系へのヘイトはそれほど問題にならなかった。全米の人口比5%と数が少なく、かつ表舞台にあまり出たがらない傾向もあり、目立たない存在だったのだ。

 もちろんアジア系差別がないわけでは決してない。多くのアジア系が日常生活で多かれ少なかれ差別を体験している。大統領選に出馬していたアンドリュー・ヤンも、アジア系の少ない地域で育ったがゆえに受けた差別や疎外感を語っている。

 だが、19世紀後半から20世紀前半にかけて起こったアジア移民の排斥運動(黄禍論)、第二次世界大戦中の日系人収容所、1980年代の日米貿易摩擦の時期のように激しい差別が頻発していたわけではない。1982年には日米自動車紛争により中国系アメリカ人の青年が日系人と間違われ、殺害される事件さえ起きている。

 しかし、ここ数年はアジア系への差別が再び目立つようになっていた。高学歴、高収入、高地位を得るアジア系の増加に人々が気付き、苛立ちの対象となり始めていたのだ。

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全米でアジア系への憎悪広がる「アメリカに新型コロナウイルスを持ち込んだ奴ら」の画像1
全米でアジア系への憎悪広がる「アメリカに新型コロナウイルスを持ち込んだ奴ら」の画像2 ウェジー 2017.11.23

 そうした背景があったところに、新型コロナウイルスのパンデミックが起こった。ロックダウンによって大量の解雇が起こり、新たな失業者の数は推定3,400万人とも言われている。家賃を払えない人、家族に満足な食事をさせられない人が大量に出ている。長期間の幽閉生活によって積もった強いフラストレーションもある。さらにニューヨーク市などエピセンター(爆心地)では大量の死亡者が出ており、感染だけでなく、死への恐怖もある。

 こうした恐れ、怒り、恨みがアジア系への憎悪となっている。本来、人間は誰でも差別心を持っている。それを抑えるのは教育と理性だが、今、非アジア系アメリカ人にとって「この苦境を持ち込んだのはアジア人」であり、「自分は被害者だ」となっている。アジア系を差別、攻撃する大義名分 が与えられてしまったのだ。

 前述の差別事件リストでは加害者の人種を明記していないが、白人、黒人、ヒスパニックと様々だ。人種民族関係なく「被害を被ったアメリカ人」としての行動なのだ。ちなみに「黒人など差別を受けているグループは他者を差別しない」という声を稀に聞くが、それは差別に関与することなく生きてきた人々の幻想と言える。

 事態を悪化させた要因として、トランプがコロナ公式記者会見で「チャイナ・ウイルス」、国務長官のポンペイオが「武漢ウイルス」と呼び続けたこともある。アジア系差別を大統領と米国政府が公認どころか、促進したのだ。そのポンペイオは5月に入り、「新型コロナウイルスは武漢の研究所から出た」「多くの証拠がある」と発言している。

 ヘイトを受ける側が加害者の心情を慮る必要はもちろんなく、アジア系差別に情状酌量の余地は一切ない。ただし、こうしたアメリカの社会事情と差別の構造を理解しておく必要はある。

 アメリカには昔から「黒人は犯罪者」、2011年の 9.11同時多発テロ事件後は「アラブ系はテロリスト」という強固な偏見と差別がある。そこに今、「アジア系はコロナをアメリカに持ち込んだ奴ら」が新たに加わったのである。
(堂本かおる)

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