疫病の時代のためのシェイクスピア~パトリック・スチュワートが読むソネットの世界

文=北村紗衣
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twitterより

 新型コロナウイルス流行の中、公演できなくなった世界各地の劇場が舞台上演の映像を配信したり、俳優が歌や朗読を配信したりする文化プロジェクトが行われています。

 今回の記事では、パトリック・スチュワートがアメリカで3月21日から行っている1日1ソネット朗読企画を紹介し、ここで読まれているシェイクスピアのソネットとはどういうものなのか簡単に説明したいと思います。

 ソネットというのは14行からなる短い詩なのですが、シェイクスピアのソネットにはジェンダーやセクシュアリティに関する興味深いポイントがたくさんあるため、背景も解説します。さらに疫病が流行している時代に読むことでどういう解釈が生まれるかも考えていきたいと思います。

なぜスチュワートがシェイクスピアのソネットを読むの?

 パトリック・スチュワートといえば、テレビでは『スタートレック』シリーズのジャン=リュック・ピカード、映画では『X-メン』シリーズのプロフェッサーXの役でおなじみのイギリスの俳優です。

 若い頃から舞台では実力派として知られており、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーなどでシェイクスピアやサミュエル・ベケットのお芝居にも出演しています。『X-メン』シリーズでマグニートー役を演じるイアン・マッケランとは親友で、2人が共演したハロルド・ピンターの不条理劇『誰もいない国』は日本でもナショナル・シアター・ライヴで上映されたので、ご覧になった方もおられるかもしれません。

 スチュワートは最初、単発の企画として3/21にソネット116番の朗読を配信し、これが好評だったことを受けて翌日から1日1ソネット企画を始めました。「1日1首のソネットは医者を遠ざける」のでこういう企画をやることにしたと言っていますが、これは「1日1個のりんごは医者を遠ざける」という、果物が健康にいいことを強調するイギリスのことわざに引っかけたものです。ロックダウンで出かけられず、お芝居にも映画にも行けないファンに向けた企画で、毎日インスタグラムツイッターフェイスブックにて #ASonnetADayというハッシュタグで配信され、人気を博しています。

 なんで1日1ソネット企画なの……?というと、まず前提として、シェイクスピアのソネットは154首もあるということがあります。

 シェイクスピアのソネット集は、全体としてゆるいつながりを持った短い詩が番号をつけて154首分、まとめられているものです。イギリスでは非常に有名で、日本の百人一首のような感覚で順番に暗記しているような人もいるくらいです。つまり、1日1首ずつ楽しめるくらいの長さで、やる気になれば154日間続けられるというわけです(そんなに劇場閉鎖が続いて欲しい人は誰もいないでしょうが)。読むほうのスチュワートにも聞くほうのファンにもあまり負担がかからない形で楽しく続けられそうな企画だというわけです。

 スチュワートはこの手の詩を読むのに適した技術をしっかり身につけている役者です。イギリスの俳優は言葉をはっきり美しく発する技術の専門家と見なされているので、お芝居に出る以外にも詩の朗読とか読み聞かせなどのイベントに出演することがあります。日本でも新型コロナウイルス流行で遊びに行けない子供たち向けに、ホリプロが俳優による昔ばなしの読み聞かせを配信しており、こうしたコンテンツには日本にも需要があることがうかがえます。

 スチュワートは一般的な台詞回しだけではなく、シェイクスピアを朗唱するための特殊な訓練を受けた俳優です。以前別の記事で詳しく説明したことがありますが、シェイクスピア劇の大部分は詩になっており、1行が10音節で弱い音節-強い音節というまとまりが5回繰り返される弱強五歩格というリズムで書かれています。これを自然に美しく読む技術を身につけるのはけっこう難しいのですが、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに出演するようなイギリスの役者はこうした韻文を読む訓練を徹底的に受けています。ソネットも同じリズムで書かれているので、スチュワートのようなシェイクスピア劇のベテランに読んでもらうにはふさわしいわけです。

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