
東野幸治Instagramアカウントより
東野幸治が自身のYouTubeチャンネルで配信している「東野幸治の幻ラジオ」にて、これからの時代のお笑い芸人の在り方について語った。
東野幸治はまず、大炎上した岡村隆史の女性蔑視発言について、自身の過去の発言を振り返る。
<今回の岡村君の発言に比べたら、僕の(昔の)発言なんてもっとひどいですから。炎上だけじゃ済まないですし、芸能界8回ぐらい辞めていなければいけないぐらいの問題発言があります>
しかし、いま東野はそのような問題発言をしない。「アップデート」したからだ。東野の言う「アップデート」とは、どういうことなのか。
「オネエキャラ」タレントをめぐる変化
東野幸治が「時代の変化」の具体的な例としてまず挙げたのは、いわゆる「オネエキャラ」タレントに対するコメントだ。
まず、そういったタイプのタレントの呼び方自体が変わった。
かつてテレビでは「オカマ(キャラ)」という呼称を使っていたが、「オカマ」という呼び名は第三者が気軽に使うべきではないとして、「オネエキャラ」と呼び方を変えるようになった。
東野は、この変化が象徴するように「見た目は男性、心は女性」といった生き方を認めるのが当たり前の時代になり、その結果、「オネエキャラ」への接し方が根本的に変わったと語る。
具体的には、「オネエキャラ」へのツッコミの仕方が変わった。お笑いの方程式を刷新しなければいけない状況に立たされたと語る。
<昔だったら『オッサンがなに言うてんねん』とか『オッサンがなにしてんねん』とか、『オッサン』という言葉を使っていたらだいたいオチてたんですけど、いまはそのワードは言ってはいけません>
なぜなら、「オネエキャラ」に対して「オッサン」という言葉を使って笑いが成立するのは、同じ立場に立っているはるな愛のようなタレントだけだから、だ。ものまねタレントのりんごちゃんがブレイクしたときも、東野は対応に悩んだそうだ。
しかし、上の世代を代表するお笑い怪獣は違った。
<さんまさんだけです。(りんごちゃんに)『オッサンやないか』って言ったの。さんまさんもアップデートしなければいけないと思うんですけど>
明石家さんまは、2019年8月20日放送の『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)で、りんごちゃんに対して<りんごちゃんなんかは男やろ?>と詰め寄った。微妙な空気を察知して<りんごちゃんはね、そういうのないの、性別がないの>とフォローするヒロミの言葉も虚しく、さんまは<おっさんやないか、アホ、お前>と畳み掛けたのだ。
つい最近も明石家さんまは似たような事例で物議を醸したばかり。2020年4月18日放送『さんまのFNSアナウンサー全国一斉点検2020』(フジテレビ系)では、プライベートでも旅行に行くほど仲のいい佐野瑞樹アナウンサーと倉田大誠アナウンサーの旅行に密着。「上司と部下とで距離感が異常に近すぎる、おっさんずラブ状態のアナウンサー…ヤバくない!?」というコーナーで茶化した編集を施したVTRを放送し、さんまも<結婚すればいい>と発言した。性的マイノリティを「ヤバい」扱いして憚らない態度だったわけである。
「オッサンやないか」というツッコミではもう誰も笑わないことに、さんまはまだ気付いていない。
女性芸人のイジり方も変わった
テレビの「お笑い」のつくり方が変わったのは、家族観、女性芸人といった分野でも同様だ。
東野幸治は、いまは結婚した夫婦でも「子ども」に対する考え方は様々(「欲しくてもできない」「子どもはいらないと思っている」など)であることから、プライベートな部分には踏み込まないのが「アップデート」された感覚であるという。
<梅沢富美男さんはガンガン若い夫婦に『早く子ども産めよ』って、本当に失礼にずっと言ってますけど、そういう時代じゃないんですよ>
女芸人のイジり方も変わった。女芸人といえば、一昔前は「モテない」「振られてばかり」といったキャラが定番で、周囲も「ブスイジり」をするのが、お決まりの流れだった。
しかし、いつしかその流れが変化した。東野はアジアンの隅田美保が「ブスイジり」を拒否する姿を見て、<そんな武器あるのに><もったいない>と思っていたが、もうそれで笑いをつくることができる時代ではないと理解したと言う。
そこで変化の象徴として挙げたのは、自分自身に誇りをもち、他人からの嘲りで笑いをとることを良しとしないフォーリンラブのバービーだ。
<自信をもって自分を発信してる。それに多くの女性が賛同しているから、もうこうなったら強いですよね。我々なんにも言えません。その通りです>
そうした流れは自分自身のイジられ方にも影響を及ぼしていると言う。東野といえば、天然パーマの髪の毛をイジられるのが定番だったが、実はもうそのイジり方はテレビで共演する人の誰もしてこなくなったと語る。他人の見た目をイジって笑いをとる時代は、東野に言わせれば完全に終わったのだ。
そんな時代の大きな変わり目に、芸人として「笑い」をつくりだすにはどうすればいいか。東野は「自分の考えがすべて正しいと思わないようにしてる」と心構えを語った。
<えらい時代。アップデートしていかなくてはならない。自分の考えがすべて正しいと思わないようにしてるんですよ>
松本人志は「アップデート」を拒否?
ベテラン芸人は「言いたいことが言えなくなって世知辛い時代になった」といった発言をしばしばする。しかし「世知辛い時代」などといって思考停止していては、もう笑いの中心にはいられない。
そういった思考停止の典型が、2017年大晦日放送『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル!絶対に笑ってはいけないアメリカンポリス24時!』(日本テレビ系)にて、浜田雅功が顔を黒塗りにしたことが炎上した時の松本人志の対応だ。
このとき松本は、2018年1月14日放送『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、<じゃあ、今後どうすんのかなって。僕らはモノマネタレントではないので、別にもういいんですけど、この後、モノマネとかいろいろバラエティで、じゃあ、今後黒塗りはなしでいくんですね。はっきりルールブックを設けてほしい>と発言。
松本人志は本件の何が問題とされているのか考えること自体を拒否し、他人から「ルールブック」を提供されることを望んだ。
価値観や考え方は日々刷新され続けていくものであり、たとえ他人から「ルールブック」をもらったところで、それは翌日にはもう古くなってしまう。松本はそのことに気付いていないのだろうか。
たとえば、東野が言う「オネエキャラ」というワードもすでに問題視され始めており、この呼び方もあと少しすれば「オカマキャラ」と同じく、世間の多くの人が使ってはいけない言葉と認識されるようになるだろう。日々世の中の動向を観察すること、自分自身の価値観を「アップデート」することに終わりはない。
けれど、たとえしんどくても「自分で考える」ことを続けていれば、なにを言えば笑いになり、なにを言えば相手が傷ついて白けた空気になるかの線引きを、芸人が自分自身で引くことができる。ルールブックなどに頼らなくていいのだ。バービー、ぺこぱ、EXITといった芸人が今、多くの人々の支持を集めているが、彼らは「自分で考え」ているだろう。
東野は、たとえベテラン芸人でも「アップデート」の必要性に気がつくことはできるということを示している。今からでも、何も遅くはない。