新型コロナにかかった子どもたち…感染者の家族が恐れていることとは

文=玉居子泰子
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GettyImagesより

 感染ルート不明のまま、自分を除く家族全員(妻、小学生の娘、幼稚園児の息子)が新型コロナウィルス陽性となった西村涼太さん(仮名)。西村さん自身も自宅待機を余儀なくされ、入院中の家族を心配する毎日が続いている。

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新型コロナにかかった子どもたち…感染者の家族が恐れていることとはの画像3 ウェジー 2020.05.23

 幸い、妻も子どもたちも軽症で体調は安定しているが、まだ陰性にはならず退院はできない。一家全員が揃うまでは時間がかかりそうだ。そんななか、西村さんの胸中にはまた別の不安が浮かび上がっているという。

「近所の人に知られたくない」

 現在、西村さんの妻と二人の姉弟が入院しているのは、新型コロナウィルス感染者の受け入れを公表している病院ではない。

 最初に陽性反応が出た妻が入院したのは、保健所から指定された病院だったが、その後、より小さな病院に転院することになった。体調が安定したと同時に、2人の子どもたちにも陽性反応が出て入院することになったからだ。

「二人の子どもたちの入院が決まって、全員が同室入院できる病院を保健所と妻の入院先とで探してくれました。子どもたちも妻も特に症状がないからかもしれません。ホームページを見ると、入院先の病院はコロナ患者を受けて入れていることを公表していないようでした。他にも同じように軽傷患者を受け入れている病院や施設は全国にあるのでしょうね」

 大都市では医療崩壊が起きている、と報道されている。現在、医療機関で働く人たちの献身的な仕事にはただただ感謝するが、多忙を極め、入院中の患者の心のケアまでは行き届かないのではないか、と筆者は素人考えで思っていた。だが西村さんの話を聞くと、病院関係者も保健所の担当者も激務の中で、患者に精一杯寄り添おうとしてくれているようだ。

「陽性と分かった時には泣いていた妻でしたが、入院中は電話で心理士の方からカウンセリングを受けられて随分落ち着いたようです。また看護師さんたちからも、悩んでいることはないかといつも声をかけてもらっていると聞きました」

 今、西村さん夫婦が恐れていることは、体調の悪化はもとより、感染したことが周囲の人に知られてしまうことだと言う。

「妻は特に、子どもたちのことが知られることをとても怖がっています。陽性だったことは、子どもたちの学校や、妻の親しい友人など少しでも感染前の時期に接触があった人たちには伝えています。でもご近所の人には話せていません。いつも賑やかなうちが急に静かになっていることや子どもたちの姿を全く見かけないことで、不審に思っている人もいるかもしれませんが……」

コロナ陰性になっても、不安なこと

 世間には、営業を続ける小売店や「不要・不急」と見なされる移動をする人を見つけて、激しくバッシングする“自粛警察”なる人々も登場している。著名人が感染したことで、行動履歴がかなりプライベートなところまで公開され、本人や家族が「謝罪」をするシーンも幾度か目にした。

 命があっという間に奪われるかもしれない病気に罹って、もっとも苦しいのは本人のはずだが、感染したとわかった人を責めたり追い詰めたりする行為も生まれているのは事実だ。

 そんななか5月5日に、愛知県が感染者の氏名や入院先など495件分の情報を県のウェブサイトに誤掲載するという事故が起きた。県はすぐに謝罪し情報は削除されたが、こうしたミスが「感染者探し」につながる可能性はある。

「本当に、人ごとじゃないですよ。うちもそうですが、いくら気をつけて過ごしていても、いつ感染してもおかしくないのが新型コロナウィルスなんだと思います。誰がなっても仕方がない、誰の身にも起こりうることなのに、感染していない人は感染した人を奇異なものを見るような目で見ると。情報を扱う行政はこうしたミスが致命的な問題につながると言うことをわかってほしいですね。 

 僕らが特に恐れているのは、娘の感染が近所に伝わり、学校が再開した後、あらぬ差別を受けるかもしれないということです。幸い、学校側は理解があって、頻繁に連絡を取り合って相談に乗ってくれています。子どもたちの間にいじめなどが起こらないよう、事前に徹底的に防いでいくと言ってくれています」

 これまでも、たとえば大震災が起きたとき、子どもは「地震ごっこ」などをして、恐怖や喪失体験を遊びに投影し昇華しようとすることがあったという。今、友だちにも会えず家の中で窮屈な思いをしている子どもたちが、学校再開後に「コロナごっこ」をしないとは限らない。

「もしそんな遊びが目の前で始まったら、うちの子たちはどう反応するんでしょうね。同じように笑って遊ぶのか、それとも落ち着かない気持ちになるのか。今、想像してもわからないけれど、そんなことを考えたりもします」

回復した人たちが安心して社会に戻れるか

 実はこのインタビューを行う直前、長女は二日連続の陰性反応が出て、無事退院することができた。妻も一度陰性になったが、幼稚園児の長男に陽性反応が続いているため、二度目の検査を受けず、長男の回復を待っている状態だ。

「二度連続で陰性になれば退院できるのですが、幼い長男だけが入院継続をして、家族の面会も受けられないのは過酷すぎるという病院の判断で、妻は長男が一度陰性になったらもう一度検査をするということになりました。長女は家に戻り喜んでいますが、やはり寂しさもあるでしょうね。普段は甘えん坊なのに、泣き言を言わず頑張ってくれているのが、逆に気を張っているんだろうなあと感じています」

 西村さん自身、仕事に復帰した後のことが心配だ。このままうまくいき、家族全員が退院できても、その先2週間は自宅隔離生活を家族で過ごさなくてはいけない。その上で復職することになってはいるが、その後も安心して以前と同じように働けるかは疑問が残る。

「もちろん僕も周りに迷惑をかけたくないから、完全に大丈夫とわかってから職場復帰したいです。でも陰性を確かめるために再度PCR検査を受けることはできません。家族が全員退院して2週間以上たって僕に何の症状も出ていなければいい、ということになってはいますが、確実に大丈夫かどうかは誰にもわからないからです」

 西村さん一家が、4人一緒に過ごせる日ももうすぐだろう。それでもすぐに安心はできない。それがこのウィルスの厄介なところだ。

 あまりにも不確かなことが多いこのウィルスと、私たちは今後も自分たちが思うよりもずっと長い期間、付き合っていかなくてはいけないのだろう。緊急事態宣言が解除されても、休校措置が終わっても、「前と同じ生活」を安心して営めるというわけじゃない。誰かが私たちの安全を保証してくれることはない。

 だからこそ、私たちは人とどうつながっていくのか、自分が恐怖を抱えながらもどういう態度をとって周りと支え合えるのか、子どもたちにどんな未来を見せたいかを、考えていかなくてはいけない。

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