コロナ死者2万人のニューヨーク内格差。数百人が亡くなったマイノリティ地区・死者0のリッチ地区

文=堂本かおる
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「マスクをつけない自由がある」 トランプと支持者が要求したロックダウン解除の画像1

GettyImagesより

 新型コロナウイルスは、本来なら人種にかかわらない厄災のはずだ。ところが前回、前々回に書いたように、アメリカでは諸々の社会背景により黒人とヒスパニックの感染率が高い。加えて「コロナは中国発」という偏見により、全米でアジア系へのヘイトクライムが起きている。

 アメリカはどんな事象にも人種問題が絡んでしまうわけだが、人種と所得は深く結び付いている。したがってコロナ禍はアメリカの著しい所得格差の炙り出しにもなってしまった。

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コロナ死者2万人のニューヨーク内格差。数百人が亡くなったマイノリティ地区・死者0のリッチ地区の画像2 ウェジー 2020.04.23

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コロナ死者2万人のニューヨーク内格差。数百人が亡くなったマイノリティ地区・死者0のリッチ地区の画像2 ウェジー 2020.05.07

コロナ死者数にみる所得格差

 米国50州の中ではニューヨーク州、中でもニューヨーク市内が感染の爆心地となった。全米のコロナ死亡者9万人のうち、ニューヨーク市の住人が2万人を占めている(5/19現在)。

 アメリカではあらゆる地域統計をジップコード(郵便番号)別に割り出す。人種民族や所得によって居住地区が分かれるため、ジップコード別のデータによって事態の傾向や対策が見えてくるからだ。

 各ジップコード区は面積と住人の数が異なるため、死者数の単純比較では実態を掴めないこともある。それでも実数(*)を通して見えるものは十分にある。

 ニューヨーク市のコロナ死者のジップコード別の分布図が発表されると、市内の所得格差をすでに知っているニューヨーク市民でさえ驚愕した。

 ニューヨーク市の中でも特に感染者の多いクイーンズ区のコロナ地区は、ラティーノを筆頭に移民が多い地区だ(地区の名称は新型コロナウイルスとは関係なく、以前よりのもの)。ここでは371人が亡くなっている。対して、旅行ガイドブックにも必ず登場するマンハッタンのグリニッチヴィレッジ/SOHO地区では7人だ。

 狭い一つの郵便番号区内で371人が死亡したということは、ほぼ全ての住人が家族・友人・同僚・近所の人などを亡くしているのではないだろうか。同地区の感染者数は4,248人にも上り、家族全員が感染したケースもある。住人は心身と経済に大打撃を受け、かつコミュニティ全体も打ちのめされたことになる。

 他方、グリニッチヴィレッジ/SOHO地区では死者7人、感染者155人。メディアは連日24時間体制で全米・州内・市内のパンデミックを伝えており、誰もがニュースを追い続けておののく日々を送った。しかし、同地区の住人が抱く杞憂は、コロナ地区の住人の「明日、死ぬのは自分かもしれない」という、真に逼迫した恐怖とは異なるものだっただろう。

 また、マンハッタンの富裕層はコロナ禍を避けるために他州に疎開している。3月と4月、ニューヨーク市の郵便局に例年の倍の郵便物転送届が出されており、うち半数がマンハッタンからの転出者によるものだった。中でも富裕地区からのものが目立つとニューヨークタイムスは伝えている。

(*)コロナ地区の死者数を人口10万人あたりに換算すると332人。グリニッチヴィレッジ/SOHO地区では人口10万人あたり29人

ロックダウン解除要求デモと、大統領選

 全米のエピセンター(爆心地)となったニューヨークの感染状況も5月に入ると落ち着き始めた。広大な州内のうち、感染者の少ない地区は15日にロックダウンが緩められたが、ニューヨーク市内の緩和は6月になるものと思われている。

 5月19日現在、全米の多くの州でロックダウンはすでに解除されているか、緩められている。解除州もソーシャル・ディスタンスなどさまざまなルールが引き続き、定められてはいるが。

 州による違いはあったものの、全米の感染ピークは4月だったと言える。ほとんどの州がロックダウンとなり、人々は家にこもり、経済は完全に停滞した。すると、ロックダウンに異議を唱える人物とグループが出現した。大統領であるトランプと、トランプ支持者たちだ。

 大統領に各州のロックダウンを命ずる権限はなく、州知事が行う。カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事(民主党)は全米で最も早い3月19日にロックダウンを宣言した。以後、初期にロックダウンを行なった州知事のほとんどが民主党だった。しかし感染は全米に広がっており、共和党の知事による州もロックダウンを余儀なくされた。

 とはいえ、共和党知事たちは経済の停滞を恐れてロックダウンを渋った。ジョージア州のケンプ知事は4月3日からのロックダウンとしたが、時期が遅れた理由として、「無症状者からも感染するとは知らなかった」と、誰も信じない言い訳を公然と行なった。

 やがてあちこちの州でトランプ支持者たちが、ロックダウン解除を要求するデモを行い始めた。中でも熾烈を極めたのがミシガン州だ。

 ミシガン州のグレッチェン・ウィトマー知事(民主党)は、3月24日に同州のロックダウンを開始した。自宅に閉じ籠るフラストレーションに加え、大量の失業を招き、ロックダウンが長引くにつれてミシガン州だけでなく、他の州からも解除を唱える声が出た。トランプ(共和党)支持者たちだ。

ミシガン州のグレッチェン・ウィトマー知事
同州のロックダウンは5月28日まで続く

 そもそも経済を何よりも優先するトランプ自身がロックダウンを嫌っており、4月半ばにロックダウン解除要求者を焚きつけるツイートを連投している。

「ミネソタ州を解放せよ!」
「ミシガン州を解放せよ!」
「ヴァージニア州を解放し、攻撃下にある、偉大なる憲法修正第2条を救え!」

 人命を守るためのロックダウンを、大統領が「解除せよ!」と訴えたのである。

 憲法修正第2条は武器の所持を保障する条項だ。ロックダウンはエッセンシャル・ビジネス(必須業務)以外を強制閉鎖させるため、州によっては銃砲店も含まれる。トランプのツイートはそれを指している。我々には銃を保持するフリーダム(自由)がある、というわけだ。

 トランプは経済維持によって自身の資産も維持し、かつ気炎を上げることで支持者を鼓舞し、11月に迫った大統領選を乗り切ろうとしているのである。

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