「フリーダム」
そもそもロックダウン解除要求者たちは、失業による経済的困窮だけを訴えていたわけではない。米国の州はそれぞれが強い独立性を持っており、仕組みだけでなく、州民の精神性も同様だ。このメンタリティは、連邦(国)だけでなく州政府にも過剰な指図はされたくないという考えにつながる。
感染に関しては、その可能性があるにしても、それを判断する自由(フリーダム)が自分にはあり、政府や州ではないということだ。ロックダウン解除要求者たちが掲げた「散髪が必要だ!」のプラカードは民主党支持者からは嘲笑されたが、このプラカードの意味は「失業して散髪に行く金もない」ではなく、「理髪店が閉鎖され、散髪の自由を取り上げられた」なのだった。
マスクを着けない女性は「自分の身体のことは自分で決める」のプラカードを掲げた。本来は中絶肯定派が使うフレーズだが、ここでは「たとえ感染しようとも、マスクを着けない自由が私にはある」を指している。
さらに、パンデミック初期にトランプは新型コロナウイルスの存在自体を認めず、「奇跡のように消える」といった発言を繰り返していた。トランプ支持者はそれを信じ、プラカードには「風邪みたいなものだ」「インフルエンザと同じだ」、果ては「コロナなんてデマだ」というものまであった。
こうした背景を極右グループ、白人至上主義グループが利用した。感染者の多さからロックダウンを解除しないミシガン州ウィトマー知事への抗議として、アサルトライフルを抱えたグループがミシガン州議事堂に押し寄せた。デモ参加者は「他者と6フィート(180cm)離れる」も、「マスクの着用」も無視し、議事堂のロビーになだれ込んだ。
4月に続き、再度、銃を抱えてミシガン州議事堂に押し寄せたロックダウン解除要求デモ参加者
Armed protesters plan to gather at the Michigan state capitol today to oppose a stay-at-home order aimed at fighting the coronavirus.
Ahead of the protest, comments were made in private Facebook groups threatening lawmakers with violence.https://t.co/q4LD3HBWYJ
— NPR (@NPR) May 14, 2020
ウィトマー州知事への脅迫もなされたが知事はガンとして譲歩せず、メディアに取り上げられ、一躍、時の人となった。のちに脅迫文をSNSに上げた男性が逮捕されているが、一連の出来事は知事が女性であることにも基づいている。女性嫌悪で知られるトランプは、自身のコロナ対策に批判的なウィトマー知事を「ミシガンの、あの女」と呼んだ。これもマチズモ(男性優位主義)な極右グループ、白人至上主義グループへの焚付けとなったことは間違いない。
国民の命と経済、そのバランス
長期のロックダウンは大量の失業と倒産を招き、失業保険の支払いも遅延している。アメリカ経済が今後どうなるのか、誰にも予測できない。一般市民にとってこれほどの恐怖はない。
だが、ウィトマー知事を含む民主党の知事の多くは州民の命を優先させた。何人かの共和党の知事たちはトランプに倣い、経済を優先させた。
経済が保てても人が死ねば意味がない。だが、人命が救われても経済が破綻すれば、人は生き延びられない。この非常に難しいバランスを見極めるのが州知事、そして大統領の仕事だ。だが、今のアメリカは二大政党に歩み寄る余地が全くなく、バランス能力に欠けてしまっている。
ロックダウン解除による第二波がおそらく起こるだろう。それでも夏にはいったん収束するかもしれない。しかし、専門家たちは新型コロナウイルスは秋冬に戻ってくると予測している。ちょうどその時期、11月に大統領選が行われる。アメリカの未来は今、あまりにも混沌とし、誰にも見通せない。
(堂本かおる)
■記事のご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。
1 2