
生き延びるためのマネー/川部紀子
ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。新型コロナウイルス感染症緊急経済対策の一環として始まった10万円の特別定額給付金。郵送申請だけでなく、マイナンバーカードによるオンライン申請も可能とあって、久方ぶりにマイナンバーカードに注目が集まりました。
オンライン申請はパソコン(+ICカードリーダライタ)を使用する方法はもちろん、IC読み取り対応のスマートフォンならスマホ1つで申請ができます。既にマイナンバーカードを持っているのであれば、利用しない手はありません。
ところが、申請受付開始日にスマートフォンで申請をしようとした筆者の友人が、「手続きできなかった」とSNSに投稿していました。友人はマイナンバーカードを持っていて、暗証番号も把握していたそうです。なぜオンライン申請ができなかったのでしょうか。マイナンバーカードによるオンライン申請のまさかの落とし穴についてお伝えしたいと思います。
専用サイトにログインしたのに「最後にエラー」
特別定額給付金のオンライン申請は「マイナポータル」というサイトから行います。
まずマイナンバーカードの「利用者証明用電子証明書」のパスワード(数字4桁)を入力してログインします。そこで、マイナンバーカードの上にスマートフォンを乗せて読み取ると、特別定額給付金の申請フォームにたどり着きます。
この手順で順調に手続きを進めていた筆者の友人ですが、振込先口座の画像を添付し申請しようとした最後の最後で、「署名用電子証明書が失効しています。市区町村の窓口で電子証明書の発行手続きを行ってください。」と赤文字の案内が出て、手続きを完了できなかったと言います。
結局友人は、スマートフォンを持っており、パスワードを入力してログインできるにもかかわらず、オンライン申請ができず区役所に出向くこととなりました。確認したところ、現在の住所に引っ越し、転入届を提出し、マイナンバーカードにも新住所を記載する変更手続きを全て行っているとのこと。何の問題もないように思えますが、「署名用電子証明書」なるものの変更(新住所での発行)がされていなかったことが判明したそうです。
この「署名用電子証明書」は、これまで確定申告を電子申請で行う「e-Tax」を利用する人以外はほとんど使う人がいないような機能で、区役所でも転入届とマイナンバーカードの変更手続きに来た人に案内するという認識がなかったようです。しかし、実は、引っ越しをして住民票のある場所が変わると失効してしまうものでした。そのため、今回の申請ができなかったのです。
マイナンバーカードが持つ2つの電子証明機能
マイナンバーカードのICチップには、2つの電子証明書が搭載されています。筆者なりの言葉で解説してみます。
①「署名用の電子証明書」
・いわば「情報送信用の本人証明」
・パスワードは英数字6~16桁(重要情報送信用パスワード)
・e-Taxやオンライン申請など、書類送付ではなく情報送信で行う場合に必要
②「利用者証明用の電子証明書」
・いわば「ログイン用の本人証明」
・パスワードは数字4桁(ログインパスワード)
・コンビニで住民票や印鑑証明書を発行する際に必要
・サイトにログインする際に必要
引っ越しをした際には①②ともに、変更等の手続きが必要になります。
転入届の手続きをする際、②の変更は、ほとんどの方が自動的に行っているようです。新しい住民票や印鑑証明書の発行もコンビニで問題なくできるため、転入届の手続きのみで事足りると誤解するのは仕方ないことです。
役所側も①の変更が自動で行われないことを知っていれば、転入届が出されたときにアナウンスをしていたはずです。おそらく、今回の特別定額給付金のオンライン申請まで、①の変更(発行)が必要だと言うことを認識していなかったということでしょう。何せ、今まで署名用の電子証明書は、税務署管轄のe-Tax(確定申告などの電子申請)くらいしか使われていなかったため、失効しても自治体としては困る場面が少なかったと考えられます。
マイナンバーカードをしっかり活用するために
この友人のエピソードをYouTubeライブで話してもらったのですが、それを見た別の友人からも全く同じ理由でオンライン申請ができなかったとの連絡がありました。しかも、その友人は夫婦で海外滞在中につき、マイナンバーカードを持っていて本当に良かったと思った矢先の出来事だったとのことで、少々お怒りでした。当面は海外にいるため役所に出向くことはできません。誰かに郵送申請を依頼することになるのでしょう。
全く別の住所地の2人に同じ現象が起こっているので、特定の市区町村が悪いとは思えません。マイナンバーカードのわかりにくさが問題と言えるのではないでしょうか。
今後マイナンバーカードには便利な機能がどんどん増えていくことが発表されています。9月からはマイナポイント事業も最大5000円相当分ものポイントが付与されるというので非常に魅力があります。マイナンバーカードの存在が無くなることは考えにくいので、上手に付き合っていくのが得策でしょう。