現金給付「留学生は上位3割のみ」にみる差別と不平等・不公正の再生産

文=ケイン樹里安
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GettyImagesより

 あまりにも直球の差別を目の当たりにした時に批判の声をあげるのは、意外と難しい。自分の聞き間違いかと疑ったり、面食らってしまうからだ。怒りをきちんと表明することが「きちんとしたこと」として周囲から適切に評価されないのではないかと不安に思ってしまうからかもしれない。はたまた、「差別じゃなくて区別だ」といった、差別の正当化に利用されやすい言葉の連なりを目撃することに、慣れすぎてしまっているのかもしれない。いずれにしても、文科省の「説明」には本当に驚かされた。

「現金給付、留学生は上位3割限定 文科省、成績で日本人学生と差5/20(水) 20:08配信
文科省は「いずれ母国に帰る留学生が多い中、日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定めた」と説明。対象者の審査は各大学などが行うため、同省が示した要件を満たさない学生らでも給付対象になる可能性はあるとしている。(共同通信)」

 僕は複数の大学と専門学校で社会学やメディア論などを教えている非常勤講師だ。オンライン講義の実施が決まってから大慌てで、マイクや備品を購入し、Youtuberの足元にもおよばないような簡素な講義動画を必死に撮影し続けている毎日だ。先ほどのニュースを知った夜も、僕はオンライン講義の準備を始めた。深夜2時。パソコンを起動してからも、しばらく何もすることができなかった。とはいえ、深くため息をついてから、撮影を開始した。でも、どんな顔をして動画を撮ればいいのか、録画を始めてからも、わからなかった。

 自分の講義を受けている学生たちを含めて、大学で学んでいる学生たちはみんな「日本に将来貢献するような有為な人材」かどうか、という判断基準で、勝手に切り分けられようとしている。僕の講義を受けている留学生は「3割」の側なのだろうか。それとも……。

 真っ先に思ったのは、2つのことだ。まずは、「日本に将来貢献するような有為な人材に限る」と述べることで、「日本人」の学生と共に学ぶ留学生のうち、その7割に向かって、「そうではない」というレッテルを将来にわたって貼り続けることを、教育に携わる文科省が宣言してしまったのだ。

 その息苦しさと怒りを、どう表明したらいのだろうと思う。ひとまず、ただちに立ち上がったオンライン署名にサインした。「オンライン署名にサインするだけで何かをした気になることはよくない」という声もよく聞くが、何かせずにこのまま過ごすことはできなかった。

「教える側」が「共犯」になる

 数値目標を決めておいて、各大学ごとの判断に「任せる」ことで、消極的にであれ、文科省の差別的方針に「加担」させる。非常勤講師を含めたあらゆる「教える側」は、差別的な選別に加担する「共犯」にほかならない。時として、人種主義や差別や多様性をテーマに講義をすることもある人物が、(前年の)成績評価によって、結果的に「3割」と「7割」の留学生の境界線を決める手続きの「共犯」となる。同時に、「日本人学生」は「日本に将来貢献するような有為な人材」だという条件付きでのみ給付金がもたらされる存在なのだ、という文科省のメッセージを届ける「共犯」となってしまうわけだ。しかもその「日本人学生」も、以下の①~⑥を満たさなければ支給対象者に含まれない。

 さらに、こうした基準に合致するかどうかの「審査」や支給にかかる時間こそが、生活を困窮させるネガティブな推進力になりかねない。

 なぜ、大学の成績評価が、コロナの感染拡大リスクのなかで「支援なしにさらに困窮する人々」をあぶりだす手続きにならなければならないのだろうか。そんな仕事がしたくて、大学で講義を受け持っているわけではない。成績の序列が、「困窮してもよい人々」と「困窮させてはならない人々」の生活と生命にかかわるものではあってはならない。

 ところで、「いずれ母国に帰る留学生」が務めるバイト先に、人生において一回もお世話にならずに生活してきた人々はどれほどいるのだろうか。「日本社会への貢献」というと大きく聞こえるが、文科省に努める人々を含めて、「わたしたち」は、「貢献する人物」を切り分ける立場などにはいないのではないか。多かれ少なかれ、わたしたちは「貢献」をすでに受け、むしろ負い目すらもっているにもかかわらず、「将来の貢献」を言い訳にして、彼らを切り分けようとしているだけではないのか。

 留学生を取り巻く状況や日本の移民政策(と呼ばれない外国人政策)のありかたとの連続性から、文科省への批判はなされ始めている。そのうえで、さらにこの問題について語るには、現在、大学生の置かれている状況について概観しておく必要がある。

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