東京オリンピック中止は避けられない。一刻も早い「中止宣言」を

文=本間龍
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Getty Imagesより

東京オリンピックは、もはや壇ノ浦の様相

 3月24日に延期を発表して以来、東京五輪の命運はまるで冬の日の落日のように、急速に尽きようとしている。5月22日にIOCのバッハ会長は英BBCのインタビューで「21年に開催出来なければ五輪は中止」と発言。IOCが既に中止も視野に入れていることが全世界に発信されたことは、特に衝撃を与えた。

 それだけでも反響は大きかったが、さらに調整委員長のコーツ氏が「今年10月頃に開催の可否判断をする」と語ったことを豪紙が伝え、一気に中止が現実味を帯びてきた。なぜなら、現在も全世界で新型コロナ肺炎の患者は増加しており、終息の見込みは全く立っていないからだ。また、安倍首相と組織委が一縷の望みを託すワクチン開発が開催に間に合わないことも明らかであり、10月までの数カ月で状況が好転する可能性は、ほぼ無い。

 延期発表まで、国内のテレビではスポンサー企業のCMが溢れ、あらゆるメディアで五輪翼賛報道が溢れていたことは、読者諸兄もまだご記憶だろう。まさに五輪こそは正義であり、五輪のためなら国民生活を多少犠牲にしても仕方がないとする空気が、この国を覆っていた。

 だが、あれから僅か2カ月あまりで情勢は激変し、あれよあれよという間に、延期どころか、もはや中止の瀬戸際に立たされている。何よりも、大多数の国民が補償の無い自粛要請に不満と不安を持ち、「こんな状況で五輪に無駄金を使えるか」「五輪に使うカネがあるなら補償や医療に回せ」と考えている。つまり、五輪開催はもう国民の支持を完全に失っているのだ。これはまるで、栄耀栄華を誇った平家が栄光の座を転がり落ち、短期間で断末魔の壇ノ浦に追い詰められたかのようである。

中止による損失の表面化を恐れる政府と組織委

 上記のいずれの発言も、日本の組織委側は直接聞いていないとして否定しているが、開催決定権を握るIOC最高幹部の発言であり、もはや撤収に向けての流れは定まった感がある。だが、中止になってもIOCは費用の大半を保険で賄えるのに対し、インバウンド効果を狙って巨額の投資をしてきた日本側とは、損失のレベルが全く異なる。つまり、立場の決定的な違いが発言内容の乖離を生んでいるのだ。

 経済効果の分析で著名な関西大学の宮本勝浩名誉教授は、五輪延期の追加経費を4225億円、延期による経済損失は6408億円、そして中止した場合の経済損失は4兆5151億円と試算している。 組織委は未だに延期の必要経費すら発表していないが、延期と中止の損失額の差はとんでもなく巨大であり、損失の表面化を恐れて現実的な判断が出来ない日本側を尻目に、IOCは極めてリアリスティックな判断を下せる。彼らは現下の世界情勢を冷静に分析し、既に来年の五輪開催は不可能と予測して、撤収準備に入ったと考えるべきである。

問題はコロナだけではない

 そして現在、中止の要因としてコロナ禍ばかりが語られているが、実は、解決されていない重大な問題がもう一つ存在する。それは、五輪開催中の酷暑対策である。東京の酷暑に対応する根本的解決策はなく、昨年の段階でも、観客席に雪を降らせるとか、編み笠のような帽子を被らせるとか、朝顔を並べる等の珍妙な案しか出ていなかった。そこに、酷暑下でコロナ対策のためのマスク着用という、全く想定していなかった事態が発生する。

 最近、熱中症の新たな危険性として、夏期におけるマスク着用問題がメディアでも報じられている。コロナ対策にマスクは欠かせないが、暑さを我慢しながらのマスク着用は、熱中症のリスクを高めてしまうというものだ。だからもし7月に五輪を開催すると、酷暑の下で、観客やボランティアにマスクを着用させるかどうかという問題が発生するのである。

 ということは、暑さ対策すらまともに出来ていなかった組織委が、同時並行でコロナ対策もやらなければならない。猛暑下でマスク着用を義務化すれば、熱中症の危険性は格段に増すだろう。だが、巨大イベントで人々が密集する「三密状態」でマスクを外せば、今度はコロナの危険性が高まる。つまり、アスリート、観客、ボランティアにとって、暑さとコロナによる危険が複合化する可能性が極めて高くなるということだ。

 東京五輪開催のためには「猛暑」と「コロナ」の二正面作戦を強いられることになった。これにさらに「延期作業」も加えれば三正面だが、歴史上どんな強国であっても、二正面作戦、三正面作戦に勝利した国など存在しない。ましてや日本の無能な政府と、無責任な組織委のコンビがこの難題に勝利できるはずがないのは、これまでの対応からして自明である。東京五輪は猛暑とコロナのダブルパンチで沈むのだ。

中止宣言はいつなのか

 以上により、もはや東京五輪の中止は決定的である。では、正式な中止宣言はいつになるのか。コーツ委員長は開催判断を10月としたが、私はもう少し早い時期の8月末頃を予想している。というのは、組織委に出向している各地の自治体職員(市・区役所等)の処遇があるからだ。

 4月時点で3500名だった組織委は、現在全員が自宅待機もしくはテレワークになっている。そのため既に、全国自治体からの数百人の出向者には、元の職場への期限付き帰任指示が出ている。自治体はどこもコロナ対応業務に追われていて、一人でも人手が欲しい状況だからだ。逆に言えば、周辺自治体との延期作業はこの間ストップしていることになる。

 この帰任指示の期限がとりあえず夏まで、つまり8月末とされており、その頃には、各自治体から帰任を解除するのか否かの問い合わせが組織委に集中する。つまり組織委は、8月末までには各自治体に方針を表明しなければならず、そこが一つの山場になると予想される。あくまで五輪延期作業を続行するなら、出向者を組織委に戻して作業をしなければならないが、その頃果たしてそんな余裕がある自治体が存在するだろうか。

一刻も早く中止宣言し、損害を最小限にすべき

 現在、組織委内でさえ、開催はもはや不可能と考える人が多いと聞く。だが上層部は最高月額200万円という高額報酬をもらっているから、中止などとは口が裂けても言いたくない。また、スポンサーである大手メディアも、海外報道を伝えるだけで、開催不可能という予測は自社では絶対に報じない。だが、もはや来夏の五輪開催は奇跡でも起きない限り不可能であり、その奇跡を懇願するだけなら、怪しい宗教かオカルトの類いと同じである。つまり、何の科学的根拠も展望も無いままに、五輪開催を熱望するだけの組織委やメディアは、既にオカルト化しているのだ。

 そして、こうしている間にも組織委の人件費は毎月20億円以上、組織委が入る事務所や各地の施設賃貸料も、毎月数億円単位でかさんでいくが、その追加費用の殆どは、税金で補填される。もし来年の3月頃まで引っ張って中止にすれば、巨額の税金が無駄になるのに、誰もが責任を問われるのを恐れて放置している。

 前述した宮本教授による、中止した場合の損失額4兆5千億円はとてつもない巨額で、政府や組織委がなんとかそれを避けたいと考えるのは理解できる。しかし現実的に考えれば開催は不可能なのだから、それならば一刻も早く中止に舵を切り、敗戦処理に全力をあげ、少しでも損失を減らす努力を始めるべきなのだ。

 私は数年前から、この五輪はまるでインパール作戦だと指摘してきたが、今まさにそうなるか否かの岐路に立っている。インパール作戦は、上層部の保身から撤退命令を出すべき時に出さず、損害を悲劇的に巨大化させた。その轍を踏んではならない。

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