全米でデモと略奪「黒人に正義を!」〜ジョージ・フロイド殺害事件

文=堂本かおる
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写真:ロイター/アフロ

 黒人男性ジョージ・フロイドが警官に殺害された事件への抗議デモが全米各地で続いている。

 まずは以下の映像を観て欲しい。

 映画監督スパイク・リーによるものだ。冒頭で「歴史は繰り返すものなのか?」というテロップが出る。

 最初に写る、薄いグレーのTシャツの男性の名はエリック・ガーナー。場所はニューヨークのスタテン島。路上で違法なタバコのバラ売りをしていたとして警官に止められた。警官に羽交い締めにされ、「I can’t breathe. 息ができない」を繰り返しながら息絶えた。2014年の事件だ。

 続く、ピザ屋から人々が溢れ出るシーンは、スパイク・リー監督の『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)の1シーンだ。ラジオ・ラヒーム(ビル・ナン)がピザ屋に大音量のラジカセを持ち込んだことから店主と揉め、駆け付けた警官に首を絞められて死に、やがて暴動となる。

 次の、警官が男性の首を膝で押さえ付けている映像が、今回のデモの発端となったジョージ・フロイド事件である。

 警官はフロイドの首を8分46秒にわたって押さえ付け、殺害した。その様子は通行人の17歳の少女によって撮影されている。ビデオには意識を失う前のフロイドと警官のやり取りが収められている。

フロイド:(うめき声)
警官:どうして欲しいってんだ。
フロイド:息が出来ない。どうか、首の膝を…..
警官:そうか、立ち上がれよ、パトカーに乗れよ。
フロイド:します。ああー!(叫び声)
警官:起き上がれ。
フロイド:動けない。
警官:起き上がれ。
フロイド:ママ! ママ!
警官:立ち上がれ、パトカーに乗れ。

 フロイドは「息ができない  I can’t breathe.」を5分間に16回も繰り返しすが、警官は眉ひとつ動かさない。救急救命士が到着し、脈を取るとすでになかったと言う。それでも警官は首から膝を退けず、救命士に告げられ、ようやく立ち上がった。

断末魔の叫び声

ジョージ・フロイド氏が亡くなった場所に描かれた追悼の壁画

 ジョージ・フロイド事件が起こったのは5月25日、ミネソタ州ミネアポリスだ。フロイドが食料品店でタバコを買う際に偽札(*)を使ったとして店主が通報し、駆け付けた警官によって殺害されたのだ。

 翌日にはビデオがSNS上に出回った。衝撃は計り知れなかった。

 黒人への警察暴力はアメリカでは珍しいことではない。過去にも無数の黒人が殺害されている。多くは射殺であり、その瞬間を捉えた痛ましくも恐ろしい映像はこれまでにもあった。映像が広まり、抗議デモが起こったことも幾度もある。しかし、なぜ今回はこれほどの、国全体を揺るがす規模のデモとなったのか。

 人が断末魔の叫び声を上げながら、ゆっくりと絞め殺されていく様子など、誰も見たことがなかったからだ。しかも警官は、まるでごく当たり前の、取るに足らない事でもしているかのような表情だ。この白人警官が、自分の足下でもがき苦しむ黒人を人間と看做していないことは明らかだった。

 まともな精神の持ち主なら正視に耐えないこの映像が、過去400年間にわたって繰り返されてきたリンチと殺害に耐えに耐えてきた黒人たちの怒りを解き放ったのだ。

*フロイドが実際に偽札を使ったのか、使ったとして故意か偶然かは未詳

デモと略奪

 事件の翌日、ミネアポリスの警察署長はフロイドを殺害した警官デレク・ショウヴィンおよび共にフロイドを地面に押さえ付けるなどし、かつショウヴィンの行為を止めなかった3人の警官(うち2人はアジア系)を解雇した。ショウヴィンは過去に17回、トウ・サオは8回、容疑者への過剰行為などで苦情を受けている。ショウヴィンは容疑者への発砲もしている。

 警官による黒人殺害事件では異例のスピード処置だった。だが、その日のうちにミネアポリスで警察暴力への抗議デモが起こった。

 2012年に当時17歳の黒人少年トレイヴォン・マーティンが自警団を自称する男に射殺された事件を発端に、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」ムーヴメントが起きた。BLMは翌2014年に当時18歳のマイケル・ブラウンが警官に射殺され、抗議デモが大規模な暴動となった事件でさらに大きく広がった。

 マイケル・ブラウンが殺害されるわずか一ヶ月前に殺されたエリック・ガーナーが繰り返した「I can’t breathe」は、 警察暴力にアンチを唱えるシュプレヒ・コールとなった。

 あれから6年が経ち、またも黒人男性が「I can’t breathe」を繰り返しながら殺されたのだ。

 デモ参加者は拳を振り上げ、「Black Lives Matter!」「I can’t breathe!」と声を上げながら行進した。

 続く27日、28日、抗議デモは全米の都市に広がっていく。

 昼間の平和的なデモが警官隊との衝突となり、商店の略奪が起こった。やがて徐々に、抗議者ではない白人による破壊行為が見られるようになり、事態は混迷を極めていく。

 29日、主犯のショウヴィンが第3級殺人罪などで起訴された。

 同日、全米の混乱に沈黙を決め込んでいたトランプが、ミネアポリス市長を「とても弱い、極左」と非難し、「市長の手に負えないなら自分が州兵隊を送り込む」とツイートする。さらにデモ参加者を「サグ(ゴロツキ)」と呼び、「略奪が始まるなら射撃が始まる」とツイートする。武力鎮圧の予告である。

 29日、30日、31日も、昼間は平和な抗議デモ、夜には店舗の略奪が続き、各都市が夜間外出禁止令を発した。昼間のデモであっても警官隊との激しい衝突も起こったが、同時にデモ隊と共に歩いたり、路上で直接の対話をする警官や警察署長、後にはフロイドへの敬意として地面に膝を着く警察署長の姿も報じられた。

 あの映像を見て、警官の、いや、人間のなすべきことではないと知り、デモ参加者を人間してみることの出来る警官たちだ。

「銃を構えろ」

 デモ隊がホワイトハウスに迫ると地下の避難壕に隠れていたトランプは、6月1日にようやく事態についての公式声明を発した。予想を上回る、空恐ろしい内容だった。

 「暴動、略奪、破壊、放火を終わらせるため、米軍を動員する」と言い、「憲法修正第2条を含む、法を遵守するアメリカ国民の権利を守るためにも」と付け加えた。

 憲法修正第2条は銃の所持を保障する条項だが、これはトランプからトランプ支持の 右翼への「デモ参加者(黒人)からの自衛のために銃を構えろ」を意味する暗号だ。

 トランプは黒人への警察暴力の解消も、事態の平和的解決も眼中にない。恐ろしく単純なマッチョ思想により、武力で国を制圧し、11月の大統領選で再選を果たそうとしているのである。

疲弊しきっているアメリカ

 同日の夜もデモと略奪は起こった。ニューヨーク市内では、前夜はSOHOのシャネル、ヴェルサーチ、グッチなど高級ブランド店も含め、多くのブティックの窓が割られ、商品が盗まれた。この日はマンハッタン34丁目でメイシーズ・デパートを含む多数の店舗も襲われた。

デモのあり方を巡って議論する男性と、16歳の少年

 黒人の中にも平和なデモを目指す者、警官隊と衝突しても自らの主張を表明する者、そして単なる略奪者が存在する。白人デモ参加者も多く、中には警官が白人女性を攻撃しにくいことを知った上で、その “白人特権” を使って黒人の盾になる者すらいる。

 他方、略奪やデモの現場にいたジャーナリストや市民が「州外ナンバーの車」「投石用レンガを黒人参加者に手渡そうとする白人」「ビルのガラス壁を破壊している白人グループ」「建物の壁にBLM(ブラック・ライブズ・マター)とスプレーで描く白人」などを目撃している。メンフィスで裁判所に放火して逮捕されたのは、白人だった。デモ参加者も、SNSで情報を収集する人々も、各行政首長たちも、こうした白人たちの実態をつかみかねている。

 いずれにせよ今、アメリカは非常な危機にある。過去4年間、トランプ・パンデミックに毒されたところへコロナ・パンデミックに襲われ、人も経済も疲弊し切っていた。そこへ今回の事件と全米デモが起きた。黒人市民と、思いを同じくする人々は心から怒り、同時に深い悲しみに襲われている。

 今後、抗議デモがいつまで、どのように続くのか。トランプはどう出るのか。誰にも予測できない。
(堂本かおる)

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