教育現場で横行する「授業乗っ取り」とは? 教師のプライドを傷つけ生徒に不信感与える

文=宮西瀬名
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GettyImagesより

 兵庫県神戸市内の市立東須磨小学校で昨年10月に発覚した、教師間のいじめ問題。激辛カレーの強要、性行為の強要と画像撮影の要求、数々の暴言など次々と教師たちの蛮行が明らかになった。奈良の小学校など他校でも同様の事例が報告され、残念ながら学校現場で起きているいじめは子供間に限らないことが浮き彫りにされたのだ。

 教師間であっても様々なトラブルは起きてしまう。暴力はもってのほかだが、のみならず「授業乗っ取り」という問題もあるそうだ。「授業乗っ取り」は名古屋大学大学院准教授の内田良氏の造語で、先輩教師が後輩教師の授業の問題点をその場で指摘し、そのまま授業を“乗っ取る”こと意味する。内田氏は今年1月、「授業乗っ取り」が「あちこちで起きている」とTwitterに投稿した。

<先輩教員による#授業乗っ取り

僕の素人感覚では,他人の部屋に入って勝手に片付けするようなもの。行動の選択肢としてまず思い浮かばない。

それがあちこちで起きている。誰かがそれをやったものが「学習」され,教員文化のなかに(よかれ悪しかれ)選択肢の一つとして蓄積されているということか>

 するとこれを誘い水に、Twitterではハッシュタグ「#授業乗っ取り」をつけ、自身の経験を打ち明けるユーザーが相次いだ。

<教員一年目の本当に辛かった時期、指導教官に何度もされました。アドバイスをいただけるのは助かるのですが児童の前でこれをされるのが本当にきつい>

<初任のとき、指導の先生に何回かやられたな〜自分の力不足を子どもたちの前で見せつけられているようで本当に本当にストレスだった>

 先輩教師の意図がどのようなものであれ、後輩教師側は教壇に立つ自信を奪われることもあるという。内田氏に授業乗っ取りについて話を伺った。

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内田 良/名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。博士(教育学)
専門は教育社会学。学校のなかで子どもや教師が出遭うさまざまなリスクについて,調査研究ならびに啓発活動をおこなっている。 著書に『学校ハラスメント』(朝日新書),『ブラック部活動』(東洋館出版社),『教育という病』(光文社新書),『教師のブラック残業』(学陽書房,共編著)など。ヤフーオーサーアワード2015受賞。

「授業乗っ取り」は信頼関係を壊す

 「授業乗っ取り」が発生するのは小学校が多いようだ。中学校、高校は教科担任制で、教師の専門性はばらばらだ。教科が異なれば口は出せない。一方で、小学校の場合は学級担任制で、先輩の教師が後輩である若手に指導が可能だ。「そのことが背景にあるのかもしれません」と内田氏は言う。

 そもそも「授業乗っ取り」とは、どういうことなのか。

内田氏「授業乗っ取りと言っても、先輩教師が突然教室に入ってきて授業を乗っ取るわけではありません。

 授業乗っ取りが起きる経緯ですが、学級崩壊とまではいかなくても生徒たちをうまく指導できず、スケジュール通りに授業を進められていない状態にあるクラスでは、解決のため職員の間で問題を共有し指導方法を模索します。

 そして先輩教師が問題点を探るために後ろで授業を見学する際、後輩教師のやり方に思わず首を突っ込んでしまう、という流れが多いようです。『もっとこうしたほうが良いんじゃない?』と横入りして自分が授業を始めてしまうのですね。中には、『今、あの子がすごく良いこと言ったじゃん』と口をはさむケースもあります。

 ビジネスシーンでいうと、後輩のプレゼン中に、先輩が『そんなんじゃ伝わらないよ』とプレゼンを乗っ取ることに近いのかなと思います」

 「授業乗っ取り」は最近になって急に出てきた新しい問題というわけではない。

内田氏「授業乗っ取りの原点は、小中学校で校長先生を担った経験のある教育者・斎藤喜博氏が1950年ごろに提言した“介入授業”だと考えられます。

 斎藤氏は著書『授業』の中で、『授業をする教師自身が一人の人間として恥をかくこと、傷つくことを恐れない人間になること』、『他人の前に自分の志向や論理を明確にし、衝突することで自分を傷つけたり自分を否定したり否定されたりすることを恐れない人間になることである』と介入授業について述べています。

 一見、パワハラ満載の考え方のように思えますが、当時は『専門家として教師どうしが切磋琢磨してより良い授業にする』という機運が高く、授業に堂々と介入することが許されていたのでしょう」

 だが「介入授業」と「授業乗っ取り」は全く同じものとは言えないだろう。

内田氏「一緒くたにすべきではありません。介入授業は各所で行われていましたが、次第に斎藤氏が指摘する介入授業の目的や哲学を無視し、介入授業のやり方だけを表面的になぞったもの、つまり授業乗っ取りばかりが現在に残ってしまったのだと思います」

 では「授業乗っ取り」はなぜ改善の必要な問題として表面化してこなかったのか。

内田氏「学校内のハラスメントについて教師の方々に聞き込み調査をしていく中で、『先輩に授業を乗っ取られて困った』という声は思いのほか多くありました。しかし『授業を乗っ取られたのは自分が至らないから』、『自分がうまく授業をできなくて乗っ取られてしまったのだから、恥ずかしくで誰にも話せない』という心理から、周囲に相談することも困難だと考えられます」

 「授業乗っ取り」をする先輩教師側にも悪意があるわけではない。だが結果的に、若い教師の成長する芽を摘むことになりかねず、適切な指導方法とは言えないのだ。

内田氏「生徒の前で『お前の授業は良くない』ということを晒す行為なので、教師の自尊心は傷つけられます。それに加えて、生徒の側にも『先生、授業乗っ取られてるけど大丈夫?』『この先生は頼りにならないのかもしれない』という不信感を与え、担任教師と生徒の信頼関係を引き裂く恐れがあります。そもそも学級崩壊手前の状況になっているクラスですから、余計に立て直しが難しくなってしまいます」

 実は同様のケースが部活動でも見られるという。

内田氏「基本的に部活動の顧問は学校教師ですが、外部の指導者による乗っ取りや、最悪の場合、保護者が乗っ取ることもあります。もともと部活動の顧問になる先生の半数近くがその競技の経験がなく、むしろ保護者のほうがその競技に詳しいことは珍しくありません。保護者の勝手な指導で、生徒はやはり混乱させられます」

 では学級を立て直すにあたり、先輩教師は担任教師をどのようにサポートすることが適当なのだろうか。

内田氏「先輩教師が授業を見学して、その後、授業時間外に個別で後輩教師にアドバイスしてあげれば良いのです。授業乗っ取りの一番の問題は“生徒の前で指導すること”なので、生徒がいない場で指導するのであれば何の問題もありません」

 しかしその「指導時間」が取れないほどに、教師が忙殺されている職場もある。授業準備に時間を割けず、生徒たちの理解を促進するクオリティの高い授業を行うことが難しい教師もいるという。

内田氏「学校にいる間は目の前の子供のことや行事といった学校全体のことなどに時間をとられてしまい、どうしても自分一人でできることは後回しになりやすく、授業準備は自宅に持ち帰るという教師も多いです。

 土日や長期休みを利用して、学校内で他の教師に自分の授業を見てもらったり、民間企業が実施しているセミナーに参加したりなど、授業の質を上げる機会は結構用意されています。それでも『忙しくて疲れている』、『部活動の指導がある』、『ワークライフバランスを重視したい』といった様々な理由のために、授業の改善になかなか取り組めていない状況です。学校に蔓延している長時間労働は、授業乗っ取りをはじめ、様々な教育問題に影を落としています。個々の教師が授業準備にじっくりと取り組める環境が必要です」

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