NHKがアメリカ抗議デモの問題点を「経済格差」に矮小化、動画削除し謝罪

文=wezzy編集部
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『これでわかった! 世界のいま』番組Twitterより

 アメリカ全土で行われている抗議デモに関して、NHK総合の国際情報番組『これでわかった! 世界のいま』6月7日放送での杜撰な解説が、批判を浴びている。

 同日、番組のツイッターアカウント(世界のいまMr.シップ)が番組で流したものと同じ1分21秒の動画を投稿し、広く拡散した。<#抗議デモ>というハッシュタグと<アメリカの白人と黒人の格差について、オレが説明しヨーソロー>というコメントを付けた投稿だ。

 動画では、車やビルが燃え盛る街のなか、暴動を起こす黒人たちをバックに、白いタンクトップ姿のマッチョな黒人男性がこのように語っている。

<俺たちが怒るその背景には、俺たち黒人と白人の貧富の格差があるんだ。そうさ、黒人より白人は平均で資産を、なんと7倍ももっているんだ。そこに、そこによぉ、新型コロナウイルスの流行が。その影響を大きく受けたのも、俺たち黒人なんだよ。なあ、ひとつ聞くが、アメリカでは失業か労働時間を削られた黒人はどれだけいるんだ。45%だ! こんな怒りが〜、あちこちで噴き出し〜たんだ〜>

 この説明は物事をあまりに単純化しすぎている。

 今、アメリカで相次ぐ抗議デモの発端は、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害されたことである。ジョージ・フロイドさんは首を8分46秒もの間地面に押し付けられ、死亡した。

 差別感情を下敷きにした白人警官による黒人への不当な暴力や取り調べは長い間アメリカで問題になってきたが、ジョージ・フロイドさんへのむごい暴力をおさめた動画がSNSで拡散され、ついに多くの人々が行動に出た。デモには人種を問わず、差別に反対する多様な人種の人々が集っている。

 そうした背景をいっさい説明せず、新型コロナウイルスのまん延で浮き彫りとなった経済格差の問題であるとまとめた動画は正確性を欠いている。

 また動画では、抗議する人たちが平和的な手段で主張を訴えるのではなく、略奪などの暴力行為を行っており、しかもそれを黒人たちが行っているかのように描かれている。これは差別を助長する一部報道を強調するものであり、その点でも問題だ。

 ちなみに『これでわかった! 世界のいま』のアカウントは、前述の動画以外にも次のようなツイートで全米抗議デモを説明していた。

<白人警察官には黒人に対する漠然とした恐怖心があって、今回の抗議デモの発端となったような事件がなくならないとも言われているんだヨーソロー>
<アメリカ社会は、考え方の違う両者が互いにののしり合って、どんどん分断が深まっていってしまったんだ>

 アメリカの抗議デモを「経済格差」の問題に矮小化して解説し、公権力による不当な暴力で黒人の人命が危ぶまれている状況への抗議の声を<考え方の違う両者が互いにののしり合って>と受け取ることそれ自体、暴力的としか言いようがない。

 NHKの動画投稿には批判が相次ぎ、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩氏は<今、全米で広がっているデモの原因は、警官が無抵抗の黒人を殺害する事件が続き、犯人が裁かれないことです。#BlackLivesMatter (黒人の命も大切だ)運動が求めているのは命の平等です。それを金目当てであるかのように歪曲して報道したNHKに抗議します>とツイートし、解説の誤りを指摘した。

 また、ニューヨーク・タイムズ紙の東京支局長だったマーティン・ファクラー氏もツイッターで次のようにNHKの報道姿勢を問題視した。

<この動画は、人種偏見の酷い例として海外のSNSで拡散されている。こんな鈍感な報道を防ぐには、メディアの中の多様性を増やすことがある。例えば、もしNHKに黒人ジャーナリストがいたら、この動画を止めることができたかもしれない。日本社会の多様性が増えているが、メディアは追いついていない>

 ジョージ・フロイドさんの死をきっかけとした抗議デモは、アメリカのみならず、イギリスなど全世界に飛び火している。6月7日には大阪でも差別に反対するデモ行進が行われた。人種差別はアメリカ限定の問題ではなく、それによって命の危険に晒されている人はアメリカのみならず全世界にいる。

 日本もまた対岸の火事ではない。日本における外国人に対する差別は日常的に行われており、就職や結婚や住居を探す際など、不当な扱いを受ける機会は数限りない。また、入管に長期収容されている外国人が人権侵害を受けている問題も未だ解決の目処が立っておらず、決して海の向こうの遠い国で起きている他人事ではないのだ。

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 NHKは6月9日、当該ツイートを削除。番組HPに謝罪コメントを掲載した。以下、引用する。https://www.nhk.or.jp/program/sekaima/sekainoima_doganitsuite.pdf

「これでわかった!世界のいま」のツイッターに掲載した CG アニメーションにつきまして、多くのご批判・ご意見をいただいております。
掲載したアニメーションは、6月7日放送の「拡大する抗議デモ アメリカでいま何が」の中で放映したものです。
番組では、デモの発端が、黒人男性が警察官に押さえつけられて死亡した事件であることを紹介したうえで、今回の事件に様々な人たちが怒りを募らせている背景やトランプ政権の対応とそれに対する批判、アメリカ社会の分断の現状などを 26 分間にわたってお伝えしました。
CG アニメーションは、番組の中で、アメリカの黒人の人たちが置かれている厳しい状況をわかりやすくお伝えしようと、格差のデータや指標とともに約1分20 秒間にまとめたものです。
しかし、視聴者からこのアニメーションについて、問題の実態を正確に表していないなどというご批判をいただき、掲載を取りやめました。
掲載にあたっての配慮が欠け、不快な思いをされた方にお詫びいたします。
NHK では、人権を尊重し、取材や制作のあらゆる過程で細心の注意を払うよう取り組んでまいります。

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