アフターコロナを就職氷河期にしないために これからの新規大卒就職-採用のあり方

文=妹尾麻美
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矛盾する報告書

 ここで、日本の労働市場、とりわけ新規大卒就職-採用のあり方を見通すために、先に言及した採用と大学教育の未来に関する産学協議会の報告書「Society5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」(2020)に記述されている採用のあり方を2点みていきたい。

 第1に、企業の雇用形態として「メンバーシップ型」のメリットを活かしながら「ジョブ型」を組み合わせた「自社型」の雇用システムが推進されている。ここでジョブ型採用と呼ばれているものはかつての「高度専門能力活用型グループ」に近いものがイメージされている。

 しかし報告書には「欧米型のように特定の仕事が不要となった場合に雇用自体がなくなるものではない」と注で記載されており、メンバーシップ型からジョブ型への移行というよりも、一部の採用を専門知識の有無によって選考するという理解が正確だろう[3]。なお、この報告書では主に「採用」のやり方が指摘されており、雇用形態を大きく変えるほどのものとはいえない。

 第2に、採用選考の多様化・複線化について論じられている。ここでも、現行の日程を踏まえ、早期化傾向が適切ではないと指摘されている。浜銀総合研究所の調査(2019:68-70)によると、大学生・大学院生でインターンシップに参加した者の割合は年々増えており、またその参加日数は1日が最も多い。第1の論点と関わるが、ジョブ型採用への移行が念頭に置かれているのは主にデジタル技術やデータサイエンス分野、またこれまでもそれに近い状況となっていた理工系が想定されている。となると、これまでもメンバーシップ型雇用となっていた文系の大学生については、おそらく今後もメンバーシップ型の採用が続くだろう。

 経団連の調査によると、今後、新卒者の採用(最も人数の多い社員区分)で「メンバーシップ型を重視」「どちらかというとメンバーシップ型を重視」と答えている企業が66.2%となっている(日本経済団体連合会2020年1月21日)。報告書においても、短期的に現行の日程を変更する可能性は高くはないと指摘されている。となると、22年3月卒の文系大学生に関していうならば、メンバーシップ型雇用が継続し、経済悪化による不景気の影響を受けることになる。そうなれば、早期から就職活動することが得策と考える学生が出てくるのは間違いない。加えて通年採用が進めば、就職活動の長期化は免れない。

 これら2点から見えてくるのは、文系の大学生に関しては、短期的にその活動の変更はないということである。企業は早くからメンバーとしての熱意のある学生のみをメンバーシップ型採用し、それ以外の学生に対し「スキルを身に付けなかったからだ」と自己責任としていく可能性は十分にある。

労働市場と今後の雇用

 ここまで、近年の日本の新規大卒就職-採用のあり方について振り返ってきた。では新型コロナウイルスの感染拡大によって、22年3月以降に卒業する学生たちにどのような影響が出てくると考えられるだろうか。

 今後、コロナウィルスの流行による世界的な不況が待っていると想定される。そうなったとき、一部の大学生は、大学3年生から活動することでメンバーシップ型雇用にとどまろうとするだろう。

 1990年代後半から2000年代の就職氷河期に、就職活動が早期化し、この時期に専門職化は進まなかったという過去の状況(cf妹尾2020)があり、何らかの介入がない限り過去の轍を踏むと見て取れる。すなわち、専門的知識が重要といいながら、そのジョブ型の部分は形骸化し、就職-採用活動が早期化するという展開である。こうなると、早期に活動をはじめた大学生とそうできなかった大学生でその後の内定取得の状況は異なってくるだろう。早期から活動を始めても採用されなかった場合、長期の活動を強いられる。

 就職氷河期に就職できなかった者が非正規雇用となり、40代を迎えてもなお、十分な給与を得られず社会的な問題となっていることがすでに知られている。政府が進めている就職氷河期世代の採用も十分に進んでいるとは言い難い(東京新聞2020年5月18日)。

 コロナウィルスによる不況が過去の氷河期と同様にならないよう、過去の問題を検証し、失敗を回避する必要がある。政府や経団連、求人関連企業は一部の早期化には歯止めをかけ、世代問わず雇用を確保するなどの対策をすべきであろう。まずは、今年度以降、新卒で就職できなかった者に対して既卒生でも差別なく選考を受けられるようにするなどの工夫が挙げられる。

 採用と大学教育の未来に関する産学協議会(2020年5月29日)はコロナの状況下で、企業が柔軟な対応を行うように努めると表明した。こうした柔軟な対応が一部の者に有利に働くような状況をつくるのではなく、フェアであるように、また「大学時代の思い出は就職活動」といった大学生を作り出さないよう検討してほしい。

[1]全国求人情報協会(2020)は、2020年3月19日に大学等団体と共同声明を発表し、学生に対して配慮するため、ようインターンシップやワンデープログラムを長期休暇や土日祝を中心に開催することを推進している。
[2]これは「白い布仮説」と呼ばれている(永野2012)。
[3]この報告書を読む限り、大学院生に対する長期インターンシップと採用の関連が想定されており、既卒者が生活の保障(賃金)を受けながら職能を身につけるためにインターンシップをすることは想定されていない。

<引用文献>

株式会社浜銀総合研究所、2019、「内閣府令和元年度委託調査事業 学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果報告書
就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議、2018年10月29日、「2020年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方
インターンシップの推進等に関する調査研究協力者会議、2017、「インターンシップの更なる充実に向けて 議論の取りまとめ
全国求人情報協会2020年3月19日「学生の学修経験時間の尊重に向けたインターンシップ実施についてご協力のお願い
日本経済団体連合会、2020年1月21日、「2019年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果
採用と大学教育の未来に関する 産学協議会・報告書、「Society 5.0 に向けた大学教育と 採用に関する考え方」、2020年3月31日
採用と大学教育の未来に関する産学協議会、2020年5月29日、「現在、就職活動をしている学生の皆さんへ」 
東京新聞 2020年5月18日 「氷河期採用9割弱予定なし キャリア重ねた人優先」政府要請広がらず
本田由紀、2014、『社会を結びなおす』岩波書店
高原基彰、2009、『現代日本の転機』NHKブックス
妹尾麻美、2020、「(研究ノート)企業・大学生を媒介する就職情報サービスの変化 : 90 年代から00 年代における活動時期の検討を通じて」『年報人間科学』41、37-51
濱口桂一郎、2013、『若者と労働』中央公論新社。
永野仁、2012、「企業の人材採用の動向 ──リーマンショック後を中心に」『日本労働研究雑誌』No.619、21-28。

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