1日22時間、トランスジェンダーの彼女が独房で過ごしている理由

文=遠藤まめた
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 「男の集団にも女の集団にも入れるわけにはいかない」とされて1年近く、周囲から孤立させられている人がいる。品川にある東京出入国管理局に収容されているフィリピン人のトランスジェンダー女性のパトさんだ。

 他の被収容者に許された1日約7時間の自由時間は、彼女の場合にはたった2時間に制限され、その間ほかの被収容者と接触することはない。独房に入れられ、1日22時間をひとりで過ごす。

 日本で生活する移民らの権利保障に取り組む移住者と連帯するネットワーク(移住連)の記事によれば、フィリピン人の被収容者は談話室などに集まっておしゃべりをしたり、差し入れを分け合ったりすることでストレスの多い収容生活を乗り過ごしているというが、こうした交流もパトさんには許されない。彼女の窮状をバズフィードの記事で知り、日本人のトランスジェンダーができることはないかと思って入管に面会に行くことにした。そもそも入管がどこにあるのかも、無知な私はわかっていなかった。

 品川駅で降りると入管行きのバスのりばの案内はわかりやすく表示されていて、意外とたくさんの人が入館前のバス停で降りた。案内をしてくれた日頃から入管収容者との面会を行ってい方によれば、新型コロナウイルス感染症の影響で面会者は減っているのだという。

 面会は平日午前9時~11時、午後1時~3時に限定されていて土日は不可だ。入り口では面会者の名前や住所を書き、身分証を掲示しなくてはいけない。性別欄があり、無視して提出したが「記入してください」と指導された。普段、性別欄を空欄にしていて問題になることは稀でムムっと思ったが、入り口で争いたくなかったので身分証の表記に従う。被収容者への差し入れがあればここで申告する。張り紙があって、差し入れていいものとダメなものの例示があった。乳液はOKだけど色がついた化粧品はダメ。ノートは金属のリングがついたものはNG。

 面会室に入るときはケータイや録音・撮影できるものは持ち込めないので、ロッカーに荷物を預ける。面会室は机のこちら側と向こう側が透明なパネルで仕切られていて、不謹慎だけれど「本当にテレビで見たとおりなんだな」と思った。感想があまりに無知すぎるが、それぐらい収容施設という場所と接点のない人生を送ってきたし、日本に暮らす多くの人もそうなのではないかと思った。

 パトさんは「ぐでたま」のTシャツをきていて、開口すぐ「女性被収容者の輪にいれてもらえないなら、せめて男性被収容者と一緒でもいい。そう言っているけど、それもダメ。だれとも話せない」という状況を語ってくれた。

 外見からして、もし彼女が男性と一緒になったら、それはそれで性的いやがらせに遭う可能性が高い。実際に、別の入管では、ペルー人のトランスジェンダー女性が本人の意思に反して男性の複数房に収監され、そこで嫌がらせを受けていた。それでも誰かと一緒がいい、とにかく誰かと会話がしたいと彼女が切望するのは、1日22時間を独房でだれとも接触せずに過ごすことが過酷すぎるからだ。起きている間はずっとテレビを見ている。それ以外にやれることがない。ひらがなを覚えた。カタカナも。簡単な漢字も覚えた。1年間テレビしか見ていないから。

 国連では2013年、苦痛を伴う独居房への収容が、拷問禁止条約が禁じる「残酷、非人間的で名誉を傷つける取り扱い」に当たる可能性があると報告されている。トランスジェンダーであるという理由で、パトさんは他の収容者よりもさらに懲罰的な扱い方を1年近く受けている。人権侵害以外のなにものでもないと思うが、その状況を作っているのが私たちの暮らす社会だということが重たい。自分たちにできることはなんだろう、と頭をひねるけれど、やっぱり重たい。

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