“低視聴率俳優”のレッテル貼られるより深夜ドラマやネトフリがいい…停滞のドラマ業界はアフターコロナで変われるか

文=wezzy編集部
【この記事のキーワード】
低視聴率俳優のレッテル貼られるより深夜ドラマやネトフリがいい…停滞のドラマ業界はアフターコロナで変われるかの画像1

Getty Imagesより

 木村拓哉主演ドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の撮影はすでに再開し、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』の収録も6月末から再開予定とアナウンスされるなど、緊急事態宣言が解除されて徐々にドラマ製作の現場が戻りつつある。

 ただ、再開後の撮影現場は各局それぞれの感染拡大防止のためのガイドラインに則って撮影しなければならない。日本テレビが制作したガイドラインには「1日の撮影時間は12時間まで(うち2時間は休憩)」「メインキャストは撮影時以外はセット内でフェイスガードを着用」「ロケは貸し切り可能な広い敷地のみ」「食事はなるべく1人で食べる」「キスシーンやアクションシーンはなるべく避ける」など、細かいルールが設けられた。

 こうした状況下でテレビドラマはどのように変わっていくのか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、話を聞いた。

成馬零一
フリーライター、ドラマ評論家。著書に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社)、『キャラクタードラマの誕生: テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

「日本テレビのガイドラインを見ていると「苦しそうだなぁ」と思いますね。他局も同様でエキストラを使っての撮影も難しくなるから、『半沢直樹』(TBS系)でよく見られたような人がたくさん出るシーンというのも、相当気を使わなければ撮れないものになると思います。
 ただ、撮影面での大変もさることながら、それ以上に気になるのは、脚本をどう書いていくのかという問題ですね。
 コロナというのは、私たちの生活を根底から変えてしまったわけです。だから、2020年以降の現代を舞台に作品をつくる場合、コロナ以前の生活様式をそのまま描くと違和感が残る。
 マスクをつけているかどうかや、ソーシャルディスタンスをどのようにとるのかといった現実の状況を反映させなければ、『あの人がマスクをしていないのにはなにか理由があるのだろうか?』といったように、視聴者はそこに別の意味を見出してしまいます」(成馬零一氏、以下同)

 コロナに対応しながらドラマをつくることはあらゆる面で簡単なことではない。そうなってくると、必然的に製作可能なドラマの本数は減ってしまうのではないか。

「そもそもドラマはここ数年どんどん本数が増えていました。特に深夜ドラマの数が増えていて、2020年1月スタートのドラマでは、プライムタイム19本に対して、深夜ドラマはBS、CS、地方テレビ局制作のドラマも含めると30本以上つくられています。こうした深夜ドラマに関しては予算やスケジュールの関係で本数を減らしていかざるを得ないだろうし、今後も再放送で対応することになると思います」

 ただ、プライムタイムのドラマもすぐに戻るかといえば、それはどうか分からないという。というのも、この状況になって再放送したドラマが意外にヒットしているからだ。

「たとえば、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の再放送は10%を越える視聴率を取っていて、この数字ならプライムタイムのドラマでも十分合格点。再放送でもそれができると分かってしまった。
 ですので、この状況は今後も続くことになるのかもしれません。ただ、再放送が続くことに関して私はそんなに悪いこととは思っていません。たとえば、いま再放送している『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)は、木皿泉が脚本を書いた青春ドラマの名作ですが、こういった優れた過去の名作ドラマに地上波のテレビで触れられる機会はもっとあってもいいと思います。
 アニメだと過去の名作に触れる機会がありますよね。日本テレビ系列でスタジオジブリの映画が繰り返し再放送されていますから。それは日本のアニメの強さをつくっているひとつの原因だと思うんですよ。テレビで優れた過去作を見る機会があることによって、多くの人がアニメを見るにあたっての基礎教養を自然と身につけている。
 テレビドラマにはそういう場所がなかったので、この機会にそういった環境がつくられてもいい。優れた過去作に触れることで、『こんなに面白いドラマがあるんだ』とドラマファンになる人が増えるのではないかと期待しています」

 本数の面でも、見直しがあっていい。毎シーズン大量の新作テレビドラマをつくる中で、企画のネタ枯れは顕著だ。漫画原作のドラマ、医療ものや刑事もののドラマばかりが多数つくられ、作品の多様性が失われつつあった。再放送ドラマの視聴率が軒並み好調なのも、学園ものやラブストーリーなど最近のプライムタイムのドラマでは減りつつあるタイプの作品だからとの指摘もある。

 こうした状況だからこそ、一歩立ち止まってドラマづくりの在り方を見直すことも求められているのではないか。

「大衆性と作家性を兼ね備えた良質な作品が多かったことが、テレビドラマの強みだったのですが、2010年代後半頃から、そのバランスが崩壊しつつあります。特に、プライムタイムのドラマでそれが顕著ですね。
 いま、俳優にとって民放のプライムタイムに放送されるドラマは、あまり魅力的な仕事ではありません。表現の幅が狭くやれることに制限がある。
 しかも、一度失敗すると“低視聴率俳優”“低視聴率女優”の汚名を着せられて、その後のキャリアに支障をきたす。それくらいハイリスクの枠になっていて、だから、深夜ドラマやNetflixなどの配信作品で好きなことをやりたいという人はとても多い。
 その状況は、俳優だけでなく脚本家も同じです。プライムタイムのドラマが漫画原作や刑事ものの続編ばかりが占め、野木亜紀子のような一部の例外を除いて、オリジナル作品が減る傾向にある。それによって2000年代にオリジナルで良い作品を書いていた作家性の強い脚本家が深夜ドラマや配信、WOWOWといった視聴率のことがあまりうるさく言われない場所に活躍の拠点を移しています」

 コロナは、テレビドラマの業界が負のスパイラルから抜け出すきっかけとなるのだろうか。

アフターコロナのドラマはどうなる? 東日本大震災の時を振り返る

 撮影現場が元に戻りつつあるとはいえ、ドラマ製作者にとっては厳しい状況だ。しかしクリエイターたちは逞しく、新たな試みを続々と生み出している。

 俳優たちが家で撮影した映像で構成するテレワークドラマ『今だから、新作ドラマ作ってみました』(NHK)や、夫婦やきょうだいなど現実に一緒に暮らしている俳優をキャスティングした坂元裕二脚本のリモートドラマ『Living』(NHK)などは、まさにこの状況を反映した表現だ。こうした手法は定着していくのだろうか。

「テレワークドラマやリモートドラマに関しては過渡期の表現というのが率直な感想で、これが定着するかどうかというと、ちょっと難しいだろうと思います。
 画面が切り替わらないと、やっぱり間がもたないですよね。そうした制限のなか面白いことをやろうとすると、『今だから、新作ドラマ作ってみました』みたいに、幽霊が出てくるとか、心と身体が入れ替わっちゃうとか、飛び道具的な設定をつくるしかない。これは1回しか使えない手で連続ドラマには向かない。
 実際の家族をキャスティングした『Living』のチャレンジも面白かったのですが、これもやはり1回しか使えない飛び道具的な手です。
 リモートの映像が劇中に出てくるなどの手法はこれから多用されると思いますけど、リモート映像だけでドラマを成り立たせるのは、さすがに無理があるのではと思います」

 成馬氏は東日本大震災の発生にテレビドラマがどのように反応したかを振り返る。

「この状況を反映したうえで、面白いものをつくる人は必ず出てくるはずです。コロナ禍は日常を根底から変質させてしまうわけじゃないですか。そうした変化を物語の中に取り込むことで新しいアイデアの詰まった作品をつくる人は出てくると思うんですよ。
 振り返れば、東日本大震災のときがそうでした。テレビドラマは現代を舞台にして日常を描く作品が多いので、製作者たちはいちはやく震災以降の日常の変化を物語の中に取り込んでいきました。
 たとえば、宮藤官九郎は2011年10月から放送された『11人もいる!』(テレビ朝日系)で、地震により家が倒壊したため東北から転校してきた小学生のエピソードを書いています。
 東日本大震災のとき、テレビドラマは日常の変化を表現に反映させたのが非常に早かった。この後も、2013年には、坂元裕二が『最高の離婚』(フジテレビ系)で、震災の帰宅難民だったことが縁で結ばれたカップルの結婚と離婚を描いています。同じ年には劇中で2011年3月11日の出来事が描かれる『あまちゃん』(NHK)もありました。
 いま盛んに「新しい日常」「新しい生活様式」という言葉が飛び交っていますけど、そうした生活の変化を踏まえたら、単純にラブストーリーをつくるだけでも、新しい切り口で物語をつくることができると思うんですよ。
 特に、宮藤官九郎は自身が新型コロナ感染症にかかったことで、様々な体験をしたわけですよね。彼が新しい作品でその経験をどう物語に昇華するのかは、非常に気になります。
 あともうひとつ。社会派ドラマが増えるのではないかとも思います。
 つい先日、検察庁法改正案をめぐる議論で「芸能人の政治的発言」をめぐる騒動がありましたけど、コロナの状況下で政治と人々の距離が近くなっているように感じます。『健康で文化的な最低限度の生活』(フジテレビ系)のような社会派ドラマが増加する傾向に拍車がかかるように思います。
 いずれにせよ、いまはこれまでにないドラマをつくることができる題材がたくさんあります。そうしたものを物語に入れ込む勇気は必要なのかもしれないですけど、東日本大震災のときのことを思い返せば、製作者はこの状況を貪欲に作品に反映させて、これまでになかったドラマをつくってくれるはずです」

 成馬氏が期待を寄せるのが、2021年度前期の連続テレビ小説『おかえりモネ』だ。

「この作品は清原果耶が演じる気仙沼出身の天気予報士の女性が主人公で、東北の復興のみならず、気候変動もテーマになるのではないかと言われています。
 脚本は安達奈緒子で、キャストやスタッフも2018年放送の『透明なゆりかご』(NHK)のチームが再び集まっています。『透明なゆりかご』は、性的虐待や妊娠中絶を描いた産婦人科医の物語で、非常に尖った作品でした。『おかえりモネ』も『透明なゆりかご』のように、現実の社会状況を色濃く反映したものになるのではないか。
 本作の舞台は2019年になるそうですが、2020年まで描く可能性もあると思います。そう考えると、『おかえりモネ』はコロナ禍を描いた最初の朝ドラということになるのかもしれません」

あなたにオススメ

「“低視聴率俳優”のレッテル貼られるより深夜ドラマやネトフリがいい…停滞のドラマ業界はアフターコロナで変われるか」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。