破壊されるコロンブス像と「風と共に去りぬ」〜全米デモ:奴隷制と向き合うアメリカ

文=堂本かおる
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 黒人男性ジョージ・フロイド氏がミネソタ州ミネアポリスで警官に殺害されたのは5月25日のことだった。警察暴力への抗議として地元ミネアポリスで始まった Black Lives Matterデモは全米50州、そして世界各国に広がり、20日以上経った現在も連日続いている。日本でも6月7日に大阪、14日には東京でも行われた。

事件の経緯

全米でデモと略奪「黒人に正義を!」〜ジョージ・フロイド殺害事件

 黒人男性ジョージ・フロイドが警官に殺害された事件への抗議デモが全米各地で続いている。 まずは以下の映像を観て欲しい。3 Brother…

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破壊されるコロンブス像と「風と共に去りぬ」〜全米デモ:奴隷制と向き合うアメリカの画像2 ウェジー 2020.06.04

 これまでも同様の警察暴力事件が起こるたびに抗議デモが行われた。だが、ほとんどの事件は「捜査中の事故」とされ、加害者の警官は無罪放免となった。やがて同様の事件が起こって黒人が殺され、デモが起こり、警官は無罪となり……を繰り返してきた。

 しかし今回は様相が異なる。「大企業」および「社会」が反応し始めたのだ。

 ケーブルTV局HBOは、新たに立ち上げたばかりのプラットフォームHBO Maxから映画「風と共に去りぬ」を一時的に削除した。奴隷制賛歌の描写があるためだ。

 グラミー賞受賞暦もある人気カントリー・グループ、レディ・アンティベラムは、グループ名を「レディ・A」と改名した。「アンティベラム Antebellum」という単語が、やはり奴隷制時代につながることが理由だ。

 さらに、各地でコロンブスを始め、奴隷制に関わった “偉人” の銅像が破壊、または撤去されている。

 上記、いずれもアメリカの歴史と社会背景が浸透していない日本では理解しにくい事象のため、以下に解説する。

奴隷制によって栄えたアメリカ合衆国

●コロンブス

 コロンブスは「新大陸発見」を成した偉人と見做されているが、アメリカス(北米・中米・南米の総称としては複数形となる)では「侵略者」「虐殺者」「奴隷商人」としても認識されている。

 クリストファー・コロンブスは1492年にカリブ海域に到達し、西インド諸島の先住民を奴隷とする計画を立てるが、最終的に先住民の大虐殺を行う。島々はヨーロッパ諸国の植民地となるが、いなくなった先住民の代わりに、アフリカの黒人を連行し奴隷とした。後年、アフリカからの奴隷は北米にも連行されることとなった。

 北米にアフリカからの黒人が初めて連行されたのは1619年とコロンブスの死後だが、奴隷制の礎を作ったのがコロンブスと言える。また、北米には中南米カリブ海からの移民(虐殺された先住民の血を引く人々)とその子孫も大量に暮らしている。

 アメリカ合衆国は奴隷制によって現在の経済大国の地位を築いている。古今どんな業態であれ、膨大な経費がかかるのが人件費だ。アメリカは国の経済の土台となった綿花やタバコの栽培を全て奴隷の労働力で賄い、経済を発展させたのだった。

 当時、奴隷は高価な買い物だったが、一度買えば死ぬまで使えた。白人奴隷主が黒人女性奴隷をレイプし、または奴隷同士で結婚させ、生まれた子供たちも奴隷として、やはり死ぬまで使った。アメリカの栄華は、黒人奴隷の存在無しにはあり得なかった。

 こうした奴隷の子孫が今、アメリカに暮らす黒人たちだ。その彼らが警察暴力によって次々と殺害されている。約150年前の奴隷制終焉の後も現在に到るまで、奴隷であったことから凄まじい差別の対象となっているのだ。今回のジョージ・フロイド殺害事件によって巻き起こったデモの背景には、過去数百年にわたるこうした歴史が潜んでいる。

 だからこそ奴隷制を象徴するコロンブスの銅像の撤去が行われている。アメリカの過去を無かったことにする行為ではない。国を築き上げながら無残に命を落としていった黒人たちの子孫であり、今も命を落とす危機に晒されている黒人や中南米系人が、彼らの命を蹂躙する歴史を形造った人物を銅像として奉り、日々目にする謂れはないのである。銅像は撤去の上、歴史資料として博物館に収めるべきである。

コロンブスの銅像を撤去せよ!~新大陸 “発見”と大虐殺

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破壊されるコロンブス像と「風と共に去りぬ」〜全米デモ:奴隷制と向き合うアメリカの画像2 ウェジー 2017.09.07

●『風と共に去りぬ』

 ハリウッド映画の代表作とも言える『風と共に去りぬ』は、1939年の公開当時、大絶賛されてアカデミー賞各賞を受賞した。時代設定は南北戦争(1861-1865)の前後。南部の裕福な綿花農場主の娘スカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)と、夫となるレット・バトラー(クラーク・ゲイブルス)との壮大な大河メロドラマだ。

 スカーレットを含む大農場の子息令嬢たちのライフスタイルは極めて優雅で豪奢。その贅沢を支えているのは農場で働く奴隷たちだが、スカーレットも両親も奴隷の存在を当たり前のものとしている。

 映画のオープニングで綿花畑で働く奴隷たちの姿が映るが、いたって牧歌的な描写であり、苦しみの表情は見当たらない。スカーレットを実質的に育てたのは、 奴隷の乳母マミー(ハティ・マクダニエル)だ。マミーは長年、屋敷の中を仕切っており、スカーレットに対しても一見、対等かと思える話し方をする。

 だが、マミーや他の奴隷たちの生活背景は一切描かれない。マミーの家族は登場せず、寝泊りしているであろう奴隷小屋、マミーと他の奴隷との会話シーンもない。マミーと奴隷たちはスカーレット一家に仕えるだけの存在として登場する。

 この南部富裕層のライフスタイルを、南北戦争に敗れた後の南部人が「美しいもの」として回顧するシーンがある。HBO Maxは、こうした奴隷制賛美についての注釈を付けた上で『風と共に去りぬ』をストリーム・ラインナップに戻すとしている。

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