悪意なく「排除」する日本のLGBTQ運動とBlack Lives Matterの深い関わり 鈴木みのり×畑野とまと

文=カネコアキラ
【この記事のキーワード】

“暗に”排除する東京レインボープライド

畑野 東京レインボープライドも同じような匂いが少しするんですよね。本人たちに悪気はないんだろうけど。共同代表の杉山文野くんを見てても、地方の人たちの感覚とはズレてると思うのよ。

鈴木 トランスジェンダーとしてはつらい体験もされてきたとは思います。ただ、外からの見方ですが教育水準、資産、男性というジェンダーで現在生きている、といった面では、少なくとも性的マイノリティのなかでは特権性が強いように見えますよね。

一方で、今トランスにとって次の世代のロールモデルが少ない。虎井まさ衛さんがいて、杉山さんがいて、その次の世代にトランスとして生きていく選択肢がもう少しあれば、と。地方で孤立しているトランスの若者たちが、杉山さんのような人や、あるいは東京レインボープライドが大企業の協賛を得て世間に認められている様子を見て、生きていくことを奨励されると感じたり、不遇だからこそせめてその日は楽しくやりたい、という気持ちは想像できるので、ジレンマがあります……。

畑野 日本のLGBTQって許認可制なんだよね。「社会に認めてもらわないといけない」みたいな。

鈴木 でも誰かが認めようが認めまいが、生きる権利はあるはずで。

東京レインボープライドは肥大化していくことで、ブース出展の料金が高騰し、結果、長らく地道に活動を続けてきたサポート団体のブースを端に追いやったり、政治的なプラカードやフラッグを掲げてはいけないという意見もあった。とまとさんがおっしゃっていたマタシン協会みたいになっている。

畑野 そのあたりの構造はすごく似ているね。

鈴木 90年代前半にニューヨーク市がジェントリフィケーションのため、ホームレスが公園から排除された、そこにシルヴィア・リヴェラもいたという話が、渋谷区が宮下公園からホームレスを追い出したのと重なります。渋谷区の政策は、ダイバーシティを掲げたりプライドを応援しますと言う一方で、公園を再開発し、民間企業の利益誘導をしているように見える。公共の場であるはずが、「誰がそこにいて良くて、いられなくなる」を政治がやってるんですよね。そういう話は東京レインボープライドからは出てこない。

畑野 日本のプライドは暗にノーマライズしてるのよね。実際にはクィアな人がたくさんいるのに、そこには日が当たらないような雰囲気をつくっちゃう。

鈴木 しかもそれを悪意なくやっている。

畑野 そうそう。

鈴木 アメリカでは白人、黒人、ラテン系みたいに、人種など立場の差異を踏まえながら政治、運動、文化が積み上げられてきた一方、日本は長らく「単一民族神話」のように、すでにそこにいる/い続けた、さまざまなマイノリティを「なかったこと」にしてきた。そうして、そこにいる人々を同じように見ちゃってるから、悪意なく、暗に、「これが普通」とできちゃうんですかね。

畑野 日本は目に見えない階級があるんですよ。でも東京レインボープライドみたいにいろいろな企業ブースが出てワイワイできる人と、そこには馴染めない人たちが真っ二つに分かれている。結局、いまの日本のプライドシーンって経済活動なんだよね。

ざっくりと日本の歴史を振り返ると、1994年に日本で初めて「東京レズビアン・ゲイ・パレード」が開催されるんですね。良くも悪くもゲイリブからスタートしていて、そういう方向性が強かった。その後、紆余曲折があって2000年から「東京レズビアン&ゲイパレード」が開かれ、2005年には「東京プライド」が設立されるんです。その都度内部では色々な問題と衝突していたようで。

鈴木 例えば、政治的な活動とお金をまわす事務的な仕事のバランスが取れなくなった、みたいなことでしょうか?

畑野 中にいる人たちのイデオロギーがバラバラなのよ。最初は「日本でもパレードをやりたいね」という素朴な思いからスタートしていると思うんです。でも、性的指向や性自認についてのまとめたジョグジャカルタ原則(2006年)が発表されて世界的なLGBTQムーブメントが起きたとき、日本もその流れに乗るんだけど、「お金になるだろう」という面も大きくて。

今年のプライドは新型コロナウイルスの感染拡大で中止になったけど、その前からスタッフがバタバタと辞めているのね。

鈴木 なぜですか?

畑野 東京レインボープライド側との考えの違いというか、内側(LGBTQ当事者のコミュニティ)の人たちにとって有用な情報発信をしたいスタッフと、外向けに「LGBTQ」をアピールしたい人たちでの考えの違いのような部分があるみたい。

鈴木 これまでも東京レインボープライドに対する不満や異論って出てましたよね。主催者側はそうした声をどう考えているんだろう。

畑野 お金が正義になっちゃってるのかもねぇ……それだけ大きなお金が動いていて、当事者よりも参加企業が重要なのよ。わかりやすいのが、代々木公園のイベント広場のメインとなる場所は企業のブースばかりになっているじゃない。本来お金が集まったなら、支援団体に対しては、お金を出さなくてもブースを置けるようにするとか、むしろブースを出すために助成金を出すくらいのことをしてもいい訳でしょう。それにせっかく大きなステージを使うんだったら、海外のプライドみたいに日本国内でLGBTQの活動をしている人たちを集めてリレースピーチをしてもらうみたいなこともできる。でも現実はゲイリブ的なものは出来るだけ出さないで、ハッピープライドを演出する感じなので。

鈴木 そういう場所は与えません、と。

畑野 そう。暗に排除してる。

鈴木 とまとさんが言うように、営利企業が人道的な面をアピールすること含めブースを出したりイベントをやる一方、非営利のサポート・互助の団体にも場を提供するとか、バランスが大事ですよね。『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』でも、プライドで得た収益はいったいどこに消えたんだ、っていうエピソードがありました。

日本の主流派LGBTQコミュニティや運動から、トランスジェンダーが排除や無視・軽視されているのはどうしてなんだろうと考えた時に、トランスの団体がないこととも関係があるのかもしれない、と思ってるんですが……。

畑野 最近、浅沼智也くんが「TranS」って団体を始めましたよね。

鈴木 「きんきトランス・ミーティング」の取り組みも最近聞きます。新しい流れですよね。そこに可能性はあるかもしれない。

アメリカのBlack Lives Matterの動きを見ていると、『POSE』に出ていたインディア・ムーアやMj・ロドリゲス、脚本・監督・プロデュースで参加しているジャネット・モック、『Out Magazine』の前編集長ラケル・ウィリスなんかが、ストリートに出て運動したり、情報などを毎日SNSに投稿しています。「あの地域で家がないと困ってる人がいるから情報をシェアしてください」とか「この団体は寄付金が集まってきているから、次はあっちに寄付して」とか。そういうのって日本だと考えられないじゃないですか。タレントになっているトランス女性はいるけど、そもそもが少ないし。

畑野 小泉今日子とかが検察庁改正法案への反対を表明するだけで、政治的な発言をするなって怒りだす人がいっぱいいるのが日本ですからね。

鈴木 もしかしたらインディア・ムーアらは俳優として成功する前に、そういうコミュニティ・団体のお世話になっていて、だからこそ大事な機能だと認識しているのかもしれない。だから何か起きたときにぱっとサポートのために動くし、当然Black Trans Lives Matterも掲げる。

畑野 日本の場合、いろんなことがぶつ切りなんだと思う。次の世代、次の世代へ歴史が引き継がれていないし。

鈴木 そういう意味では、浅沼さんが始めた「TranS」だったり、りぽたんさんらの「きんきトランス・ミーティング」が、そういう機能を日本に作り出せるかもしれませんね。

歴史と思想の再確認が必要

畑野 最初の話に戻ると、最近は減っちゃったけど、以前は「なんでプライドって言葉を使っているんだ。LGBTQに誇りなんてあるわけないじゃないか」って言っている人が結構いたんですよね。プライドって言葉自体、Black Prideの受け売りで。

鈴木 公民権運動の影響を受けたっておっしゃってましたね。

畑野 もともと公民権運動や反戦運動といった社会運動をしていたブレンダ・ハワードと言うバイセクシュアルの女性がいたんですね。マルコム・Xなどの言葉を生で聞いていた人。その人がゲイリベレーションフロント(ゲイ解放前線)に参加したときに、公民権運動で掲げられていたBlack Prideって言葉を参考にしたんです。「多くの人達はゲイであることを非難するけど、自分たちはゲイであることに誇りをもっているんだ!」って意味で、ゲイプライドを提唱して。

鈴木 そういう文脈を踏まえると、掲げられるスローガンやシュプレヒコールに思想、歴史がちゃんとあることがわかりますよね。でも日本ではそれが脱色されやすい。

最近、ここ5年くらいのSEALDsの活動など、市民運動の歴史を勉強してみようと思って本を読んでいるんですけど、奥田愛基さんらはアメリカのOccupy Wall Streetで叫ばれていたシュプレヒコールを研究したと言っています。自分たちがなぜ安保法案に反対しているのか、どういう思想で「安部はやめろ」と言うのかを考えながら言葉を選んでいるのだと。

今はミュージシャンやアーティストがレインボーフラッグを掲げたりイベントに参加したりしているし、Black Lives Matterでも支持を表明する人たちもたくさんいるけれど、今日とまとさんに聞いたように、歴史や文脈を踏まえていくこと、それらを学ぶ場を作っていくことも大切だと思いました。
(企画/鈴木みのり、構成/カネコアキラ)

■「特集:Black Trans Lives Matter」一覧ページ

1 2

「悪意なく「排除」する日本のLGBTQ運動とBlack Lives Matterの深い関わり 鈴木みのり×畑野とまと」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。