悪意なく「排除」する日本のLGBTQ運動とBlack Lives Matterの深い関わり 鈴木みのり×畑野とまと

文=カネコアキラ

社会 2020.06.25 12:00

 年々参加者が増加し、お祭り化していく東京レインボープライド。源泉は、51年前の6月28日にアメリカ・ニューヨークのバーから起きた「ストーンウォールの蜂起」、その翌年NYで行われたクリストファー通り解放記念日のマーチ(今でいうプライドパレード)にある。

 その時代を追ったNetflixドキュメンタリー『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』を見ると、同じ性的マイノリティ間でも人種、ジェンダー、収入などに基づく格差があり、特に黒人をはじめとするトランスジェンダーの排除がうかがえる。現在、世界中で起きているBlack Lives Matterだが、黒人トランスへの複合的な排除や暴力はまだまだ大きな問題として焦点化されにくい。そのために、今アメリカではBlack Trans Lives Matterのコールが叫ばれている。

 日本の主流派のLGBTQシーンも、シスジェンダーが中心と言わざるを得ない。アメリカでのトランスの人権運動と日本のLGBTQブームにおけるトランスの扱いは、どう異なるのか? 歴史を参照し、考えるために、その時代からの歴史に詳しいトランスジェンダー・アクティヴィストでライターの畑野とまとさんに話を聞くことにした。

Black Trans Lives Matter特集をはじめるにあたって

 5月25日、アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス警察所属の白人男性から取り調べられている最中に、黒人男性のジョージ・フロイドさ…

ウェジー 2020.06.24

鈴木みのり
1982年高知県生まれ。ライター。ジェンダー、セクシュアリティ、フェミニズムへの関心から書評、映画評などを執筆。『i-D Japan』『週刊金曜日』(2017年書評委員)『すばる』『ユリイカ』などに寄稿。第50回ギャラクシー賞奨励賞受賞(上期)ドキュメンタリー番組に出演、企画・制作進行協力。利賀演劇人コンクール2016年奨励賞受賞作品に主演、衣装、演出協力などを担当。(写真撮影:竹之内裕幸)

畑野とまと
ライター/トランスジェンダー活動家。ビデオ編集者、金融系システムエンジニアを経て、男性から女性へと性別移行。ニューハーフとしてセックスワークに従事した後、ゲーム攻略本などのライター業へ転身。1996年に日本初のトランスジェンダー専門のホームページ「トランスジェンダーカフェ」を開設。以後、トランスジェンダーの人権活動を行っている。著書「トランスジェンダリズム宣言」(共著)「セックスワーク・スタディーズ」(共著)また、直近ではクィア・マガジン『Over』Vol.1「ストーンウォールの真実」を寄稿

「LGBTQ」の運動は公民権運動をもとにしている

鈴木 アメリカでの社会構造上の黒人差別に抗議し変化を求める運動Black Lives Matterについて、日本でも芸能人含めていろいろな方が支持を表明しています。俳優・モデルの水原希子さんもインスタグラムで情報のシェアをたくさんしています。そこで、『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』というNetflixドキュメンタリー映画を紹介していました。ジョンソンは、現在のプライド・パレードのきっかけとも言われる「ストーンウォールの蜂起」を始めた一人と言われていて、「S.T.A.R」(Street Transvestite Action Revolutionaries:路上にいる異性装の行動する革命家たち)という、ホームレスのゲイ、トランスジェンダーらをサポートし、住む場所を与えるグループを作った人です。

水原さんのように影響力のある方がこうした作品をシェアするのは、多くの人に歴史が継承されていくという意味でも良いと思うんですが、ただ、紹介の仕方が気になりました。水原さんはマーシャ・P・ジョンソンを指して「英雄」「東京レインボープライドにつながる」と書いていたんですね。当時、白人でシスジェンダー(出生時に割り当てられた性別に違和感を抱かない)・ゲイ中心のLGBTQコミュニティからトランスジェンダーは排除されていたし、ジョンソンも、共同でS.T.A.Rを立ち上げたシルヴィア・リヴェラもホームレスになった。そうした歴史をきちんと踏まえないと、言葉だけひとり歩きする懸念が湧いたんです。

以文社という出版社がBlack Lives Matterの創設者のひとりであるパトリス・カラーズへのインタビューを訳出しています(#BlackLivesMatter 運動とグローバルな廃絶に向けてのヴィジョンについて/パトリス・カラーズ)。その記事を読むと、クィアの運動がBlack Lives Matterに影響を与えていることがわかるんですね。

畑野 アメリカで始まったプライドパレードは、公民権運動を元にしているんですよね。だから今起きているBlack Lives MatterとLGBTQの運動には確かに繋がりがある。

鈴木 公民権運動に影響を受けていたクィアの運動が、今度はBlack Lives Matterに影響を与えているのは興味深いですよね。でもなかなかこういう歴史って知られてないと思います。

畑野 みんな歴史を知らないですよね。

鈴木 だから今日はとまとさんにお話を伺いたいなと。

畑野 ドラァグクイーンの歴史を振り返るのが面白いと思います。

19世紀中頃のアメリカでは、ヴォードヴィルという舞台演劇が流行っていました。そこでは顔を黒く塗った白人が、おもしろおかしく黒人を模すミンストレルショーが大人気だったんです。その流れから、白人男性が黒人女性を演じるようになり、さらには黒人男性が黒人女性の芸をする状況になっていく。19世紀末には、ドラァグクイーンのコンテストの元祖みたいなものが始まるんですが、勝つのは白人ばかりで黒人はまったく相手にされなかったんです。だったら、ということでニューヨークの地下で黒人を中心としたコンテストがスタートしたんですね。

鈴木 その流れが、マーシャ・P・ジョンソンが生きていた時代、そして1980年代末〜のニューヨークを舞台したテレビドラマ『POSE』の時代まで繋がっていくんですね。自分たちを排除する主流な白人社会を、おもしろおかしく模倣し返すのが、ドラァグの源泉ということですね。

畑野 そうそう。だからドラァグクイーンの歴史って、黒人差別の状況があっての話なんです。

その後、1930年からの3年間にドラァグクイーンが爆発的な人気を得るようになります。当時は禁酒法の時代だから、みんなバレないように地下でお酒を飲むでしょう? そのつまみとしてパンジークレイズと呼ばれたドラァグクイーンのショーを見るんですね。パンジーは日本でいうと「おかま」かな。クレイズはクレイジーのこと。

あまりに女装が流行ったものだからバックラッシュが起きて、アメリカで異性装が禁止されていくんです。すでにサンフランシスコでは19世紀中頃に異性装を禁止する法律はあったんですけど、1948年に発表された「キンゼイ・レポート」で、アメリカには想像以上にゲイがいることが数字で出ちゃってからは、保守的な人たちからの締め付けがどんどん強くなっちゃうんです。ハリウッドではホモセクシュアルの映画を作ってはいけないことになったし、合衆国関連の施設などでホモセクシュアルを雇ってはいけないという大統領が出たり。

鈴木 制度面での締め付けも徐々に進んでいったんですね。

畑野 そうそう。そういうときに何が起きるかというと、ドラァグクイーンとかトランスジェンダーが目の敵にされるんです。ホモセクシュアルの社会からも「お前たちがいるから警察に睨まれるんだ」って言われて、ゲイバーにトランスジェンダーが立ち入ることを禁止したり。

鈴木 現代にも通じるものがありますね……。

運動から排除されてきたドラァグクイーン

畑野 1950年にはマタシン協会(Mattachine Society)という、アメリカで最初のゲイの人権団体が創設されているんですが、白人男性の同性愛者の団体なんですね。

鈴木 女性の団体は?

畑野 1955年にドーター・オブ・ビリティス(Daughters of Bilitis)というレズビアンの団体ができています。ふたつの団体は一緒に活動を始めるんですけど、全米に支部ができていく中で、マタシン協会の上層部と若い人たちの考え方が違ってくるんです。「私たちは変態じゃありません」みたいなことを上層部が言い出して。

鈴木 ノーマライゼーションされていく。

畑野 2丁目でも、シス男性の同性愛者はわりとドラァグクイーンとお酒飲んだりしているじゃない? たぶんアメリカの若い子たちも同じような状況でドラァグクイーンとのお付き合いがあったんだと思うんですよね。

鈴木 つまりマタシン協会の上層部は「クリーンさ」を押し出したいから、ドラァグクイーンのような有徴性の高い人たちは排除するけど、街に飲みに出るような人たちは同じ場所に一緒にいるわけだからそう簡単に排除ということにはならないわけですね。

畑野 しかも白人中心だから黒人の同性愛者との付き合いが上層部にはないわけですよ。白人のハイソサエティが飲むようなクラブにしか行かないし。

鈴木 『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』でも、クリストファー通り解放記念日の後年、マフィアと繋がっている、ニューヨークでのマーチ=パレードのリーダーになっていく人たちはみんな白人男性でしたね。マタシン協会の状況と構造的に似てますね。

畑野 さっき異性装を禁止する法律が増えていったって話をしたけど、1965年くらいまでニューヨークは同性愛者にアルコールの販売をしてはいけないって法律もあったんですね。

鈴木 どうやって同性愛者ってわかるんですかね?

畑野 これはマタシン協会のお手柄なんだけど、あるときマタシン協会の人が3人でニューヨークのバーに行ってお酒を注文するのね。それでお酒が出てきたら「僕たちゲイだけどこれ飲んでいいの」って聞くんです。そしたらバーテンダーが手でコップに蓋をして。その瞬間の写真が残っているんだけど、それをアメリカ自由人権協会に持っていくのね。「ニューヨークでは人権的に間違ってことをしている」って。それがきっかけで同性愛者にアルコールの販売を禁止する法律が撤廃されるんですよ。

面白いのが、「ストーンウォールの蜂起」が始まったニューヨークのストーンウォール・インってゲイバーはアルコールの販売許可証を持っていないお店だったんです。他のバーと営業形態が違って、3ドル払えば誰でもお店に入れて、お酒の持ち込みをオッケーとしていたのね。

どうしてゲイバーでもお酒の販売が許可されたのにそういう形態にしていたかというと、黒人とかいわゆるカラードと呼ばれる人たちや女性、ドラァグクイーン、トランスジェンダーは、白人男性が飲みに行くようなハイソサエティなゲイバーにはいけないわけ。でも3ドル払えばストーンウォール・インには一晩中いられたのね。だからドキュメンタリーを見るとわかるけど、当時ストーンウォール・インに通っていた人は「あそこは不良のたまり場だった」って言い方をしているんです。不良っていうのは、言い換えればシス男性の白人じゃない人たちのこと。

鈴木  マーシャ・P・ジョンソンも不良みたいな扱いをされていて、排除されていたってことですよね。

畑野 マーシャ・P・ジョンソンとシルヴィア・リヴェラが作ったS.T.A.Rは、ストリートってついているくらいですから、ホームレスの集まりだったんですよね。当時、異性装者は犯罪者的な扱いをされていたのでアパートメントを借りることができなかったんです。

最初に鈴木さんがお話になったように、マーシャ・P・ジョンソンとシルヴィア・リヴェラは「ストーンウォールの蜂起」後の運動からも排除されていました。蜂起から1年後の1970年に記念イベントとしてパレードを行おうという話になるんですが、マタシン協会はその会議をボイコットするんです。

鈴木 なぜですか?

畑野 マタシン協会はストーンウォールの蜂起を評価していなかったんです。Black Lives Matterもそうだけど、暴動をただ単に否定する人って結構いるでしょう。マタシン協会も自分たちは危害を与える人ではないといって政府にすり寄りたかったんですね。

ただ最初のパレードはなし崩し的に始まり、そして大成功を収めたら、2回目以降にマタシン協会がパレードを乗っ取るんです。そしてドラァグクイーンやトランスジェンダーを排除しようとしていく。私はよく1973年のシルヴィア・リヴェラのスピーチを紹介するんですけど……

鈴木 みんながブーイングしているやつですね。

畑野 そう。重要なのはブーイングが起こっているってことなのね。たぶん白人男性がブーイングしているんです。

鈴木 マタシン協会の上層部に近い人たちが。

畑野 スピーチの中でシルヴィア・リヴェラは「白人の中産階級以外の人たち」と呼び掛けているんですよね。それは自分たちが白人の中産階級から差別されていることをすごく明確にしているわけ。

ネットで探しても全然記録が出てこないんですけど、1978年のパレードはドラァグクイーンとトランスジェンダーの参加が禁止されているんですよね。写真が出てこなくて。ただ逸話が残っていて、パレードの参加を禁止されたマーシャ・P・ジョンソンとシルヴィア・リヴェラの二人が、パレードの先頭に掲げられる横断幕の前を歩いていたらしいんですね。「ここから後ろがパレードなんでしょう。私たちはただ道を歩ているだけ」って。

鈴木 なんで残ってないんでしょうね。

畑野 黒歴史だからだと思う。だってドラァグクイーンとトランスジェンダーを明確に排除していたことなんて公にしたくないじゃない。

鈴木 今のアメリカでもLGBTQの運動からトランスに関するイシューが後回しにされるなど、また歴史が繰り返されているような気もします。ドナルド・トランプが大統領に就任してからも、トランスジェンダーを排除する政策が打ち出されています。

畑野 そう。トランプはアンチトランスジェンダーな政策をたくさん出していますよね。またバックラッシュが起きている。ただややこしいのは、トランスジェンダーにとって良いことがあって、その上でバックラッシュが起きているわけじゃないことなんです。一番大きな出来事は、2015年アメリカで同性婚が認められたことだけど、そのとき同性愛者を狙ってバックラッシュが起きたというよりは、トランスジェンダーという分かりやすい存在がターゲットになっているんです。

鈴木 『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』でも、本作のもう一人の主人公でもあるビクトリア・クルスがトランス女性への暴力事件の裁判に行き、支援者のテッド・マクガイアと話していたところ、「こんなに大きな事件なのに注目されない」「LGBTっていうけどLGBがどこにいるんだ」という言葉を聞きます。「同性婚が達成されたからゲイたちはもう我々のことを気にかけなくなった」と。

畑野 同性婚が達成された年(2015年6月26日に最高裁判決)のシカゴプライドでは、ゲイ中心のパレードに冷や水を浴びせるように、黒人のLGBTQ系のグループがジャックして、すごく荒れたんですよね。「Black Pride Matter」などのプラカードを掲げて割り込んで。「あんたたち同性婚で浮かれているんじゃないよ。こんなにたくさんのトランス女性が殺されているのに」って言ったんです。確か前年に黒人のトランス女性が30人くらい殺されていたんですよね。YouTubeでBlack Out Prideって調べるとその様子が見れると思います。今でもニューヨークのプライドは白人以外のコミュニテイーに対して冷たい部分があるらしいんですよね。結局、主催者の中心は白人なんで。

“暗に”排除する東京レインボープライド

畑野 東京レインボープライドも同じような匂いが少しするんですよね。本人たちに悪気はないんだろうけど。共同代表の杉山文野くんを見てても、地方の人たちの感覚とはズレてると思うのよ。

鈴木 トランスジェンダーとしてはつらい体験もされてきたとは思います。ただ、外からの見方ですが教育水準、資産、男性というジェンダーで現在生きている、といった面では、少なくとも性的マイノリティのなかでは特権性が強いように見えますよね。

一方で、今トランスにとって次の世代のロールモデルが少ない。虎井まさ衛さんがいて、杉山さんがいて、その次の世代にトランスとして生きていく選択肢がもう少しあれば、と。地方で孤立しているトランスの若者たちが、杉山さんのような人や、あるいは東京レインボープライドが大企業の協賛を得て世間に認められている様子を見て、生きていくことを奨励されると感じたり、不遇だからこそせめてその日は楽しくやりたい、という気持ちは想像できるので、ジレンマがあります……。

畑野 日本のLGBTQって許認可制なんだよね。「社会に認めてもらわないといけない」みたいな。

鈴木 でも誰かが認めようが認めまいが、生きる権利はあるはずで。

東京レインボープライドは肥大化していくことで、ブース出展の料金が高騰し、結果、長らく地道に活動を続けてきたサポート団体のブースを端に追いやったり、政治的なプラカードやフラッグを掲げてはいけないという意見もあった。とまとさんがおっしゃっていたマタシン協会みたいになっている。

畑野 そのあたりの構造はすごく似ているね。

鈴木 90年代前半にニューヨーク市がジェントリフィケーションのため、ホームレスが公園から排除された、そこにシルヴィア・リヴェラもいたという話が、渋谷区が宮下公園からホームレスを追い出したのと重なります。渋谷区の政策は、ダイバーシティを掲げたりプライドを応援しますと言う一方で、公園を再開発し、民間企業の利益誘導をしているように見える。公共の場であるはずが、「誰がそこにいて良くて、いられなくなる」を政治がやってるんですよね。そういう話は東京レインボープライドからは出てこない。

畑野 日本のプライドは暗にノーマライズしてるのよね。実際にはクィアな人がたくさんいるのに、そこには日が当たらないような雰囲気をつくっちゃう。

鈴木 しかもそれを悪意なくやっている。

畑野 そうそう。

鈴木 アメリカでは白人、黒人、ラテン系みたいに、人種など立場の差異を踏まえながら政治、運動、文化が積み上げられてきた一方、日本は長らく「単一民族神話」のように、すでにそこにいる/い続けた、さまざまなマイノリティを「なかったこと」にしてきた。そうして、そこにいる人々を同じように見ちゃってるから、悪意なく、暗に、「これが普通」とできちゃうんですかね。

畑野 日本は目に見えない階級があるんですよ。でも東京レインボープライドみたいにいろいろな企業ブースが出てワイワイできる人と、そこには馴染めない人たちが真っ二つに分かれている。結局、いまの日本のプライドシーンって経済活動なんだよね。

ざっくりと日本の歴史を振り返ると、1994年に日本で初めて「東京レズビアン・ゲイ・パレード」が開催されるんですね。良くも悪くもゲイリブからスタートしていて、そういう方向性が強かった。その後、紆余曲折があって2000年から「東京レズビアン&ゲイパレード」が開かれ、2005年には「東京プライド」が設立されるんです。その都度内部では色々な問題と衝突していたようで。

鈴木 例えば、政治的な活動とお金をまわす事務的な仕事のバランスが取れなくなった、みたいなことでしょうか?

畑野 中にいる人たちのイデオロギーがバラバラなのよ。最初は「日本でもパレードをやりたいね」という素朴な思いからスタートしていると思うんです。でも、性的指向や性自認についてのまとめたジョグジャカルタ原則(2006年)が発表されて世界的なLGBTQムーブメントが起きたとき、日本もその流れに乗るんだけど、「お金になるだろう」という面も大きくて。

今年のプライドは新型コロナウイルスの感染拡大で中止になったけど、その前からスタッフがバタバタと辞めているのね。

鈴木 なぜですか?

畑野 東京レインボープライド側との考えの違いというか、内側(LGBTQ当事者のコミュニティ)の人たちにとって有用な情報発信をしたいスタッフと、外向けに「LGBTQ」をアピールしたい人たちでの考えの違いのような部分があるみたい。

鈴木 これまでも東京レインボープライドに対する不満や異論って出てましたよね。主催者側はそうした声をどう考えているんだろう。

畑野 お金が正義になっちゃってるのかもねぇ……それだけ大きなお金が動いていて、当事者よりも参加企業が重要なのよ。わかりやすいのが、代々木公園のイベント広場のメインとなる場所は企業のブースばかりになっているじゃない。本来お金が集まったなら、支援団体に対しては、お金を出さなくてもブースを置けるようにするとか、むしろブースを出すために助成金を出すくらいのことをしてもいい訳でしょう。それにせっかく大きなステージを使うんだったら、海外のプライドみたいに日本国内でLGBTQの活動をしている人たちを集めてリレースピーチをしてもらうみたいなこともできる。でも現実はゲイリブ的なものは出来るだけ出さないで、ハッピープライドを演出する感じなので。

鈴木 そういう場所は与えません、と。

畑野 そう。暗に排除してる。

鈴木 とまとさんが言うように、営利企業が人道的な面をアピールすること含めブースを出したりイベントをやる一方、非営利のサポート・互助の団体にも場を提供するとか、バランスが大事ですよね。『マーシャ・P・ジョンソンの生と死』でも、プライドで得た収益はいったいどこに消えたんだ、っていうエピソードがありました。

日本の主流派LGBTQコミュニティや運動から、トランスジェンダーが排除や無視・軽視されているのはどうしてなんだろうと考えた時に、トランスの団体がないこととも関係があるのかもしれない、と思ってるんですが……。

畑野 最近、浅沼智也くんが「TranS」って団体を始めましたよね。

鈴木 「きんきトランス・ミーティング」の取り組みも最近聞きます。新しい流れですよね。そこに可能性はあるかもしれない。

アメリカのBlack Lives Matterの動きを見ていると、『POSE』に出ていたインディア・ムーアやMj・ロドリゲス、脚本・監督・プロデュースで参加しているジャネット・モック、『Out Magazine』の前編集長ラケル・ウィリスなんかが、ストリートに出て運動したり、情報などを毎日SNSに投稿しています。「あの地域で家がないと困ってる人がいるから情報をシェアしてください」とか「この団体は寄付金が集まってきているから、次はあっちに寄付して」とか。そういうのって日本だと考えられないじゃないですか。タレントになっているトランス女性はいるけど、そもそもが少ないし。

畑野 小泉今日子とかが検察庁改正法案への反対を表明するだけで、政治的な発言をするなって怒りだす人がいっぱいいるのが日本ですからね。

鈴木 もしかしたらインディア・ムーアらは俳優として成功する前に、そういうコミュニティ・団体のお世話になっていて、だからこそ大事な機能だと認識しているのかもしれない。だから何か起きたときにぱっとサポートのために動くし、当然Black Trans Lives Matterも掲げる。

畑野 日本の場合、いろんなことがぶつ切りなんだと思う。次の世代、次の世代へ歴史が引き継がれていないし。

鈴木 そういう意味では、浅沼さんが始めた「TranS」だったり、りぽたんさんらの「きんきトランス・ミーティング」が、そういう機能を日本に作り出せるかもしれませんね。

歴史と思想の再確認が必要

畑野 最初の話に戻ると、最近は減っちゃったけど、以前は「なんでプライドって言葉を使っているんだ。LGBTQに誇りなんてあるわけないじゃないか」って言っている人が結構いたんですよね。プライドって言葉自体、Black Prideの受け売りで。

鈴木 公民権運動の影響を受けたっておっしゃってましたね。

畑野 もともと公民権運動や反戦運動といった社会運動をしていたブレンダ・ハワードと言うバイセクシュアルの女性がいたんですね。マルコム・Xなどの言葉を生で聞いていた人。その人がゲイリベレーションフロント(ゲイ解放前線)に参加したときに、公民権運動で掲げられていたBlack Prideって言葉を参考にしたんです。「多くの人達はゲイであることを非難するけど、自分たちはゲイであることに誇りをもっているんだ!」って意味で、ゲイプライドを提唱して。

鈴木 そういう文脈を踏まえると、掲げられるスローガンやシュプレヒコールに思想、歴史がちゃんとあることがわかりますよね。でも日本ではそれが脱色されやすい。

最近、ここ5年くらいのSEALDsの活動など、市民運動の歴史を勉強してみようと思って本を読んでいるんですけど、奥田愛基さんらはアメリカのOccupy Wall Streetで叫ばれていたシュプレヒコールを研究したと言っています。自分たちがなぜ安保法案に反対しているのか、どういう思想で「安部はやめろ」と言うのかを考えながら言葉を選んでいるのだと。

今はミュージシャンやアーティストがレインボーフラッグを掲げたりイベントに参加したりしているし、Black Lives Matterでも支持を表明する人たちもたくさんいるけれど、今日とまとさんに聞いたように、歴史や文脈を踏まえていくこと、それらを学ぶ場を作っていくことも大切だと思いました。
(企画/鈴木みのり、構成/カネコアキラ)

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