Black Trans Lives Matterと映画・ドラマ作品をめぐる10の視点

文=秋田祥
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見えにくいトランスジェンダー男性俳優の活躍

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 トランスジェンダーの俳優といえば女性の活躍がめざましいが、アメリカでは近頃、トランス男性も存在感を増してきている。TIME誌は2019年に、「トランスマスキュリンの俳優」と多様化するキャラクターや物語を特集。ニューヨークタイムズの雑誌T Magazineは2020年2月に、同様の内容の長文記事を撮り下ろし写真とともに掲載。そこにはアジア系俳優も数名登場するが、黒人俳優は極端に少ない。

 そんななか安定してテレビドラマに出演しているのがブライアン・マイケル・スミスだ。2012年から『ブルーブラッド ~NYPD家族の絆~』などに出演、2017年にはエイヴァ・デュヴァネイによるドラマ『Queen Sugar』で、主要キャストの親友でトランス男性の役を演じている。

 このキャラクターは自身のジェンダーをある回で明らかにする。スミスはそれに合わせ、自身のジェンダーも公表した。その背景には、今後、物語のなかでもトランスの人を演じたいと感じはじめたからだと言う。昨年からは『Lの世界』リブート版にも出演。

 黒人トランス男性俳優は他に、例えばマーキース・ヴィルソン(Marquise Vilson)も小さいながら出演機会を重ね、頭角を現し始めている。

黒人のクィアなキャラクターたち

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 興味深いトランスキャラクターの描写や、既存の「男/女」二元のジェンダーにカテゴライズされない人々の描写にも注目したい。

 例えば、イギリスのコメディドラマ『セックス・エデュケーション』の、主人公の親友のエリック。彼は特別な日にはジェンダー規範にとらわれずに、ファッション(パンプス!)やメイクを通し自信をもって表現する。

 ニューヨークで実際に起こったレイプ事件の冤罪を元にしたドラマ『ボクらを見る目』では、黒人やラテン系の主人公らの家族模様にトランスジェンダーの存在も無視せずに、見せる。無実の罪に苦しめられる少年たちのなか、中心的に描かれるコーリー・ワイズが獄中で思う姉との思い出のシーンは印象的だ。姉のマルシーを演じるのはトランスを公表しつつ人気モデルになったアイシス・キングだ。劇中、ジェンダーを移行する前後両方のマルシーをキングが演じている。

 『マスター・オブ・ゼロ』では、リナ・ウェイス演じるデニースが主役のエピソードは評価が高い。その“神回”でウェイスは、黒人女性で初めてエミー賞脚本賞(コメディ部門)を受賞。1995年の幼いデニースは、母親が用意した白いドレスを拒絶し、マスキュリンな服を着こなす。心地よく感じる服に身をまとう。狭義のトランスではないが、いわゆるブッチなどと呼ばれるマスキュリンなレズビアンの表象として、重要なカルチャーの1つとも関連づけられる。

この3作はすべてNetflixオリジナル作品。従来の言葉を自称しながらも定義にとらわれない人、または出生時に与えられたジェンダーを離れつつたどり着く先を決めずに生きる人たち。その過程、葛藤、決意のニュアンスは物語をより豊かにする。

ブラウンピープル:ベテラン&注目の才能たち

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 ラテン系、東アジア以外のアジア系、ミックスなど、愛着をもってブラウンと自称する、トランスの人々。欧米で黒人文化を語るときに、その存在を忘れてはいけない。白人が占拠する空間では黒人と同じように差別をされることもある。一方、文化的に刺激を与え合っていることも多いだろう。

 アマゾンプライムのドラマ『トランスペアレント』は裕福な白人の家族を中心に描かれるが、主人公モーラの友人を演じるアレクサンドラ・ビリングスは、ネイティヴ・アメリカンとアフリカ系のミックスだ。2020年現在58歳の彼女は80年代から演技をはじめ、名脇役として知られ、HIVポジティブであることも公表している。最近は、ブロードウェイのミュージカル『ウィキッド』にも出演。

 マーベルコミックをドラマ化した『ジェシカ・ジョーンズ』には、アニーシュ・シェス(Aneesh Sheth)というインド系アメリカ人でトランス女性の俳優が参加している。シェスの役柄は、自身のジェンダーについて話すことはないが、南アジア人としてのアイデンティティは明確に映される。彼女は今年、ヒューマンライツキャンペーンのヴィジビリティ・アワードを受賞した。

 同じくインド系のシャーン・ダサニ(Shaan Dasani)は、映像作家でもある俳優で、近頃はウェブシリーズ『Razor Tongue』に出演。

 数多くのLGBTQ映画祭でも上映されたこのシリーズは、グアム出身のレイン・ヴァルデスが原案と主演もこなすシャープなコメディだ。ヴァルデスは、裏方の仕事をしていたが、『トランスペアレント』出演をきっかけにドラマなどに多く出演、LGBTQIAのための演技スクールも設立している。

 また、世界のLGBTQ映画祭では、白人以外の監督によるものや俳優が登場する作品も確実に増えてきている。

黒人トランスジェンダーのクリエーターの可能性

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 俳優として活動していないために日本からは見えにくいが、アメリカやカナダなどでは有名な黒人トランスジェンダーの才能たち。

 なかでもハワイ出身のジャネット・モックは超がつくほど有名になった。エンタメ専門のジャーナリストからテレビ番組の司会、鋭いメディア批評を織り交ぜたコメンテーターなどを経て徐々に名を広め、2014年に発表した自伝本で一目置かれる存在へ。2017年のポッドキャストでは、ビヨンセの母、ティナ・ノウルズにインタビュー。トランスジェンダーの人権問題に関しても声をあげ、多くの受賞歴がある。

 『POSE』には脚本、プロデューサーとして関わるだけでなく、シーズン1では1エピソードを監督。非白人トランス女性でテレビドラマの監督をしたのはモックが初となった。

 さらにNetflixと複数のプロジェクトを3年契約した。大きな資本に関わる現在でも媚びない姿勢を保ち、影響力を増し続けている。

 モックも公に活動を応援しているのがアート界でも注目されるトルマリンだ。運動家であり、映像作品も制作。Black Lives Matterでも訴えられている、監獄・警察システムの解体を、トルマリンは以前から問題視していて、再注目されている。短編『大西洋は骨の海』やニューヨーク近代美術館のウェブサイトで特別公開されている新作を通し、黒人トランスジェンダーたちの築いてきた歴史にスポットをあてる。新作にはキアヌ・リーブスも出資。

黒人トランスジェンダー俳優と就労

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 目覚しい活躍の一方、大多数のトランスジェンダーの俳優を取り巻く現実は今も厳しい。トランスの人のいないアカデミー賞やエミー賞で、シス男性がトランス女性役を、シス女性がトランス男性役を演じて讃えられる姿は、お馴染みの光景のようにすら感じる。

 ハリウッドの俳優らは、人種間(白人/非白人)、ジェンダー間(男性/女性)の賃金格差の問題に取り組んでいるが、トランスジェンダーの俳優たちはその前に、役を手に入れることにまだ苦労しているとされる。

 そして多くのトランスのキャラクターはトランス女性であるために、トランス男性の俳優はさらに役を見つけるのに苦労する、とスリランカ系アメリカ人のコメディアン/俳優のディーロはBuzzFeedに語っている。そのような状況では、ギャラについて交渉することは非常に難しくなってしまう。しかし同記事によると、早くからこれらの問題に声をあげてきた黒人トランス女性の俳優アンジェリカ・ロス(『アメリカン・ホラー・ストーリー:1984』『POSE』)は、それでも賃金の交渉を怠らないと言う。そのためには、これまでの功績をしめす必要があるが、幾重にもマイノリティであるため、ただ頑張ればいいというレベルではない。

一方、ハリウッドのトランスコミュニティは、改善のために経験の少ないトランスジェンダーの人々を積極的に雇用したり製作を学ぶ場を作っている。『トランスペアレント』や『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』の現場で実践された試みだ。近い将来、それらの芽が育つのを私たちは目撃することになるだろう。
(企画:鈴木みのり、秋田祥)

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