
GettyImagesより
自然の中で幼児教育を行う「森のようちえん」。1950年代にデンマークで自主保育活動として始まったそれは1990年代からドイツ周辺へ派生し、現在日本でも認可外保育施設として全国各地に存在しています。ここ最近では幼保無償化の対象から外れる点から、さまざまなニュースでも取り上げられていました。
形にはまらないスタイルで保護者も積極的に活動に参加する教育は、パッと見にも革新的。お受験ママたちとは別ベクトルの熱量が、伝わってきます。ただ、その熱量が私の目にはカルト的にも見えて仕方がないのですが……。
いろいろなところで謳われている、森のようちえんへ子どもを通わせることのメリットをチェックしてみると、こんなことが書かれています。
・人間らしくのびのびと育っていく。自分で考えられる子になる。
・普通の幼稚園なら預けてはいおしまい、なので子どもの成長を目にすることができない。
・親も一緒に成長できる。
・その子らしさを大切にできる。
一見いいことが書かれているようですが、その裏に選民意識がニオイませんかね? だってこの言葉を真に受けると、まるで普通の幼稚園(や保育園)では個性が大切にされず、親は成長できず、人間らしくのびのびできない……と言っているかのようで。
Yahoo!で見つけた記事には、フリージャーナリストが森のようちえんの散歩に同行したエピソードが紹介されていました。移動中、子どもが足をとめても咎(とが)めない。みんなから置いていかれてもスタッフが付き添い、子どもの思考を邪魔せずに虫を見つめる様子を見守っている。『これが都会の保育園なら、保育士の「遅れないで!」という大きな声が飛んできそうな状況である」ですって。
トンデモ人脈が続々と…
実際にそうでしょうか? いろいろな、都会の認可保育園取材したんですか? 確かに保育者の人数に限りがあるのでひとりの子どもにつきっきりではいられないでしょうが、できる範囲で子どもが興味を示したものに付き合ってくれているようですが(少なくともわが子の認可園はそんな感じ)。推すものの素晴らしさを強調するために一方をサゲる手法で語られるものは、高確率でトンデモ要素が高いんですけど、さて森のようちえんの実情はどうでしょう。
前置きとしてお伝えしますが、森のようちえんの取り組みそのものは、素晴らしいです。自然の中で出会う、命のしくみや折々の四季。五感を刺激される、豊かな遊び場。私もアウトドア的な趣味を持っているので、子どもにこんな場を与えたかったと、憧れを抱く部分もたくさんあります。しかしこの類の「意識高い系育児」は、ダイソン掃除機のごとくギュンギュン怪しいものも吸い寄せるのが世の常。さて森のようちえんにはどんな人たちが集っているのか? そして子どもへの影響(ここ一番大事)は? その辺りを知りたく、今回は森のようちえんに詳しい、B子さんにお話を伺いました。
B子さん(以下、B子):この活動自体はデンマーク発祥で、そもそもは悪いものではないのですが、いつの間にか変な人たちが運営する団体が現れています。基本「森のようちえん」はネットワークに加入している団体が使う名称ですが、当然運営スタッフによる独自性があります。環境系やアウトドア系の自然体験活動から派生した団体は、参加する父兄に自然派寄りがいる可能性はありますが、団体自体はごくまとも。でも後発組には、過激なナチュラリストが多い印象ですね。
その一例が、自然派出産で知られる伝道詩人えいた氏が森のようちえんの運営に携わっていることでしょう。すると次第に、それに賛同する「自然派ママ」たちが増えてくる。そんな傾向があると思います。私の周囲でも森のようちえん活動をしたいという若い親御さんがいらっしゃって、何か協力できたらなと思っていたのですが、そこへもトンデモ信者や極端な自然派ママなどの意識高い系の人たちが集まってきて、げんなりしてるところです。
ここで言うところの「自然派ママ」とは「自然な暮らしを楽しむママたち」という意味ではなく、ワクチンをはじめとする医療を叩いたり、電子レンジや使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの「自然じゃないもの」を嫌ったり、白砂糖や牛乳をディスる……といったタイプの保育者全体をさします。
マルチ商法に胎内記憶
B子さんは、森のようちえん全体が偏った自然派育児を推奨しているわけではない、と強調。しかし、近年はいわゆる「自然派」が増えてきている。そしてその大きな原因に「MW園」の存在があるのではと指摘します。
MW園は、森のようちえんの中でも古く、成功事例として取りあげられる、有名園。そこのA園長は森のようちえん界隈の重鎮であり、園を運営するほか、執筆活動や各地での講演活動、コンサル等も行っているよう。立派な活動も多々あるのですが……彼女の発信をざっくり見るだけでも、当連載でいうところの「トンデモ度」は、かなりの高レベル。
【一例】
・「自然なお産」の神様と呼ばれた、吉村医院で子どもを出産。
・ドテラ愛用者。ブログなどでドテラの利用法を紹介している。
(ドテラ=マルチ販売されているアロマオイル)
・胎内記憶推し。日本における胎内記憶研究の第一人者である池川明医師の講演会をアナウンスしている。
(胎内記憶=「母親のお腹のなかにいたときの記憶」のことだが、胎内記憶研究の第一人者である産婦人科医・池川明氏により、「お腹の中に入る前=空にいたときの記憶」やら「前世の記憶」やらへ話が広げられ、「子どもは空の上からお母さんを選び、やってくる」なる設定がデフォルトになっている。胎内記憶を持つ子どもを教祖&宣伝等に使う最近の動きは、控えめに言ってもヤバい)
ほかにもアドラー心理学の勉強会、元宇宙人であるという小学生、引き寄せ系の「法則マスター」とのお話会etc. うん、なかなかのスピ者っぷりです。
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