新型コロナウイルスで揺らぐ就職活動 二極化する就活生の結果

文=妹尾麻美
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GettyImagesより

母集団形成できない企業

 今年度(21年卒)の就職活動は、政府がこれまで通りの日程(3月広報活動開始、6月から採用選考活動開始)を企業に要請しており(詳細は「アフターコロナを就職氷河期にしないために これからの新規大卒就職-採用のあり方」)、大手ナビサイトの大規模合同説明会、また学内合同説明会などが3月に実施される予定となっていた。

 しかし新型コロナウイルス感染症によるイベント自粛の要請から、合同説明会は軒並み中止を強いられることとなった。この状況を企業の採用手順から考えてみたい。

 企業の採用活動の手順を紹介しよう。企業の採用は概ね、人員計画、母集団形成行動、選抜、内定者フォローの4ステップで捉えられている(尾形2007)。

 母集団形成行動とは、企業が応募してくれる人を集めるためのステップのことをいう(尾形2007)。具体的には、学生を集めるために説明会の時期を決めて実施したり、採用情報をどのナビサイトにいつ提供するかを考えたりすることのことを指す。今年度の採用活動は、この母集団形成の段階で直接的な接触が難しくなったといえよう。

 これまで、企業は大規模合同説明会や学内合同説明会に参加し、大学生と直接話をすることで関心をもってもらい一定程度の志望学生を確保していた。その上で、選抜へと進んでいた。しかし、今年度は十分な母集団形成ができないまま選抜へと進んだ企業や、母集団形成の段階で中断している企業などがある。新型コロナウイルスによるイベント自粛がこの母集団形成に大きな影響を与えているのだ。

 株式会社ディスコのキャリタスリサーチが5月下旬に実施した調査(2020年6月発行)によると、54.1%が母集団形成に課題を抱えているとされている。インターンシップや学生とのコネクションがある企業、また有名企業は母集団形成を有利にすすめていると考えられ、選抜も実施されているだろう。他方で、コロナ対応に追われ、採用まで手がまわらなかったり、学生の関心が集められなかったりする企業は採用に苦戦していたり、中断していたりするだろう。

 2020年5月17日の共同通信社の発表によると、26%(主要111社中29社)が「人員計画をへらす」と回答した。コロナウイルス流行の影響による経済悪化は採用抑制の流れになるとみてとれる。先にみた、キャリタスリサーチの調査(2020年6月発行)でも採用予定数を当初計画から下方修正すると答えている企業が17.6%となっている。企業の採用取りやめ等も報道されており、コロナウイルス流行の影響を被った産業において採用が抑制される流れになろう。

 採用活動の実施・中断についてもみておきたい。キャリタスリサーチの調査(2020年6月発行)をみると、オンラインで採用活動を実施している企業は8割近くに及ぶが、従業員規模によってもオンラインでの採用活動状況は異なる。東京商工会議所が4月下旬から5月上旬に実施した「【緊急調査】2021年卒採用活動における中小企業の動向アンケート結果概要について」をみると、採用活動への影響が生じたと答えた企業のうち51.8%が採用を延期・中断している。緊急事態宣言が解除されたため採用活動も動き始めている。4月・5月においても採用活動を続けていた企業は一定程度学生を集めることができていると考えられるものの、母集団形成やオンラインへの移行で困難を抱えている企業もあるだろう。

 このことを学生側からみた場合、何が指摘できるだろうか。

 まず、採用活動を継続してきた企業の競争率があがっていると考えられる。情報が少ないなかで就職活動したとき、応募者は既存の情報を頼りに活動するからである。

 この状況下で採用活動を続けている企業は学生からみると人を雇う意思があるようにうつるだろう。ならびに、インターンシップは企業にとって母集団形成の重要な機会である。昨年度(20年3月卒)の大学生・大学院生を対象にした内閣府委託事業の調査(浜銀総合研究所2019)によると、27.6%が参加したインターンシップが実質的な選考を行う活動を含んでいたと回答している。現時点ではわからないものの、今年度は早期から活動していた学生に情報が多く流れている可能性、さらには採用に結びついた可能性が高い。

慣れないオンライン面接・動画選考・対面式面接

 エントリーシートや面接といった企業の選抜方法も新型コロナウイルスの影響を受けている。

 オンライン面接は対面式の面接より得られる情報量が少ない。一部の企業はこれまで対面で判断していた応募者の雰囲気や話し方などが十分には得られないと感じているだろう。上記のことから、企業はすでにある確実な情報を頼りに選抜せざるを得なくなっているといえる。具体的には、これまでも選抜にシグナルとして有効であった学歴、企業にはよるだろうが体育会所属や留学経験などその企業で働く人が持つに近いシグナルを持つものが評価されると推測できる。

 では、緊急事態宣言が解除された今、どうなっていくのだろうか。先にみたキャリタスリサーチ(2020年6月発行)をみると、現状、面接をオンラインで実施している企業が多いと考えられる。しかし、今後の状況によっては、たとえば最終面接まで至った大学生に対面式の面接をする、といったことも考えられうる。企業にとってもオンラインでの選抜方法が負担となっているのは間違いないが、大学生にとってもオンライン面接、あるかもしれない対面式面接、一部には動画提出なども課せられており、さらには大学のオンライン授業も重なり、著しい負担となっていることが考えられる。

見えない採用過程

 上記のことをまとめると、現状、採用を継続している企業の競争が激化しており、これまでも優秀とされてきたシグナルを持つ学生がしのぎを削っているような状況であろう。

 さらに、学生にとっては就職活動を同時に行っている他者が見えないなかで実施されているため、これまでであれば周りを見ながらやってきた層は取り残されてしまうという問題も生じる。すなわち、ごく一部が勝ち抜き、内定が得られなかった学生、志望業界の採用がなくなった学生、周囲が見えないなかで活動できていない学生が取り残されてしまうという分化がより進展していく。

 6月を迎え、緊急自体宣言が解除された今、内定が得られず思うように活動できない学生もこれまで以上に生じている可能性がある。

 なお、対面状況であったときもそうであったのだが、採用活動時期と採用人数の充足状況に応じて、採用基準の境界が変動することも考えられる(小山2010)。小山(2010:215)は採用の前半に採用基準の境界線が低くなり、後半になるにつれ、採用人数の充足状況に応じて採用基準が高まる事例を挙げている。この知見を応用すると、すでに一定程度採用人数が充足している企業に関しては今後この境界線は高まる可能性があり、一方で、採用人数が充足していない企業であれば採用基準の境界線は低く設定されていると考えられる。

 今年度は企業の採用活動状況さえこれまで以上にわからず、大学生は各企業の対応に一喜一憂してしまうかもしれないが、落ち着いて行動することが求められる。

かすかな希望

 大学生の「就職したい」という気持ちと、「企業の採用人数は多くならない」という現実があり、大学生には冷酷な事実をつきつける(C.f. 福井2014:163)。内定が得られないことに対して、落ち込みも起きてしまうだろう。それに追い打ちをかけるように第2波の流行となる可能性もあり、ウイルスを恨むことしかできない。企業側はすでに採用を予定していても経営状態の悪化からそれが不可能になる可能性やそうした対応を迫られることもある。

 ただし、先にも示したように、21年3月卒は母集団形成が十分にできていない企業、やむなく採用中断している企業もある。6月を過ぎても、採用活動は継続されるだろう。一部の企業や一部の学生にとって、採用-就職活動の長期化は避けられない。

 企業・大学生双方に活用を勧めるのが、大学キャリアセンター(就職部)の活用である。大学のキャリアセンターは、企業と大学生のマッチングを効率のよい形で進めてきた歴史もあり、企業にとっては条件の合いやすい大学生にリーチすることができる組織となる(大島2012)。実質的な解決方法としてキャリアセンターを用いることをおすすめする。

企業も数十年スパンで働く人をこうした状況下で雇わねばならないことに苦慮しており、一部の大学生には焦りもある。これまで志望企業を定めて活動してきた大学生からすると、なおさらだと思われる。しかし、そうした状況であるからこそ、一端冷静になり、自分の置かれた状況を客観的に把握するようつとめてほしい。

<引用文献>

就職・採用日程に関する関係省庁連絡会議、2018、「2020 年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」
株式会社ディスコ キャリタスリサーチ、【確報版】2021年卒 採用活動の感触等に関する 緊急企業調査、2020年6月4日
共同通信社の発表(2020年5月17日)「新卒抑制26%に拡大21年度、コロナ不況警戒」
東京商工会議所 人材・能力開発部「【緊急調査】2021年卒採用活動における中小企業の動向アンケート結果概要について」
株式会社浜銀総合研究所、2019、「内閣府令和元年度委託調査事業 学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査 調査結果報告書」
日本経済団体連合会、2020年5月「オフィスにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」
尾形真実哉、2007、「日本企業の新卒採用行動傾向の検討」『日本労務学会誌』第9巻第1号、pp.2-15。
小山治、2010、「なぜ企業の採用基準は不明確になるのか」苅谷剛彦・本田由紀編、『大卒就職の社会学』東京大学出版会、pp.199-222。
福井康貴、2014、『歴史のなかの大卒労働市場』勁草書房。
大島真夫、2012、『大学就職部にできること』勁草書房。

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