IZ*ONE(アイズワン)が活動危機に抱いた思いとは 歌詞に込められたファンへのメッセージ

文=まつもとたくお
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IZ*ONE公式Twitterより

 韓国人9名と日本人3名からなるグローバルガールズグループ・IZ*ONE(アイズワン)が6月15日、『Oneiric Diary(幻想日記)』をリリースした。彼女たちにとっては3枚目のミニアルバムで、前作『BLOOM*IZ』に引き続き主要な音源配信サイトで1位を獲得。CDは約39万枚を売り上げ、女性グループのアルバム初動記録を更新した。

 IZ*ONEはデビュー以来ずっと歌唱と楽曲を評価されてきたグループではあるものの、今回のアルバムもクオリティーが高く、各メンバーのプロフェッショナルな姿勢も強く感じさせる内容となっている。

 では、“プロフェッショナルな姿勢”とは何を指すのか。美しいコーラスワークや繊細な感情表現、刃群舞(カルグンム)と呼ばれる一糸乱れぬダンスパフォーマンスなど、プロの歌手に求められるものはいろいろとあるが、最近のIZ*ONEを見て思うのは、“アイドルとしての力量”が相当あるということだ。『Oneiric Diary(幻想日記)』はその点を明確に示した作品と言えよう。

 ここでグループの結成から現在に至るまでを振り返りたい。まず彼女たちは人気オーディション番組『PRODUCE 48』(韓国のケーブルテレビ・Mnetで2018年6~8月放送)で選ばれた“アイドルの精鋭”だ。同番組は視聴者が投票によってデビューメンバーを選ぶもので、韓国在住者のみならず、日本からもAKB48グループ所属者が多数出演して話題となった。

 様々なバトルを経て勝ち残った12人はIZ*ONEと名付けられ、2021年4月までの期間限定で活動をスタート。2018年10月にリリースしたデビュー曲「La Vie en Rose」は情緒的なメロディラインが人気を集め、大ヒットを記録する。同年はたくさんのガールズグループが登場したが、IZ*ONEは実力とビジュアルの良さでライバルを圧倒していた。

 そして2019年2月、彼女たちは日本進出を果たす。日本デビューシングル「好きと言わせたい」から現時点での最新曲である「Vampire」まで、韓国でのサウンドカラーとは異なった秋元康プロデュース作は、いまだに賛否両論はあるものの、ファン層を広げることに貢献したのは間違いないだろう。

 しかし、何もかもが順風満々に進んでいたのはここまでだ。同年の夏頃から日韓関係は悪化の一途へ。そのため、彼女たちのような日韓混成グループは言動にも慎重にならざるを得ない空気が支配していく。

 さらに不幸な出来事は続いてしまう。初のフルアルバム『BLOOM*IZ』が発売される直前の2019年11月上旬、『PRODUCE 48』の投票操作疑惑が浮上したのだ。選ばれた12人に罪はないのは明らかだが、事の重大さを考慮してグループの活動は休止に。そのため、同アルバムも発売延期せざるを得なかった。

 2020年2月、一連の問題が収束へ向かったことを受けて活動を再開。久しぶりに登場したIZ*ONEに対する、WIZ*ONE(ファンの呼称)の期待感と渇望感は相当なものだったようだ。約3カ月遅れでリリースした『BLOOM*IZ』は、最終的に歴代ガールズグループ最高のCDセールスという名誉に輝いている。

 この勢いのままで行ってほしいとファンの誰もが思う中、今度は新型コロナウイルスの流行で再び活動は停滞気味に。そして状況が落ち着いたのを見計らってリリースしたのが、『Oneiric Diary(幻想日記)』というわけである。

IZ*ONEが歌詞を通してWIZ*ONEに伝えた思い

 以上のようにデビューから現在までの約1年8カ月という短い期間でIZ*ONEにはいろいろな困難が訪れたわけだが、それらに関してメンバーたちがコメントすることはほとんどなかった。「たまには本音を言ってもいいのでは?」とも思うが、ラジオやテレビ、SNSでの発言はファンへの感謝や気遣いばかりだ。

 『Oneiric Diary(幻想日記)』はポジティブなオーラを放つナンバーがずらりと並ぶ。エキゾチックなムードが漂うリードトラック「幻想童話(Secret Story of the Swan)」をはじめ、70年代のディスコミュージックを思わせる「回転木馬(Merry-Go-Round)」、そしてトライバルハウスの「Rococo」など、気分が高揚するサウンドばかりだ。

 歌詞も同様である。“私と夢を見よう/準備はできているよ”(Pretty)、“さあ、ここよ/私の手を握ってついてきて/もう退屈な観念から抜け出して” (Rococo)といった風に、リスナーを元気づけるものが多い。

 とはいえ、前向きな歌のようでいて気になる言葉や表現がところどころに散りばめられているのが、本作の大きな特徴だ。メンバー全員で作詞したミディアムテンポのポップス「With*One」も全体のトーンは明るいものの、“伝えられなかった気持ちでただ後悔ばかりしています”、“過ぎ去った時間はすべて忘れます”と、かなり意味深だ。

 前述の「幻想童話(Secret Story of the Swan)」には、“想像していたすべての瞬間が/目の前に近づくそのときまで/あなたのためにダンスを踊るわ”という一節がある。「夢が現実になるまで応援する」と解釈するのが普通だが、「2021年4月の活動停止まで一生懸命がんばりたい」というメンバーの思いが込められていると考えられなくもない。

 すべての人に夢と希望を与える。常に努力する姿を見せる。余計なことは言わずに自分たちの気持ちは歌とダンスで表現する――。『Oneiric Diary(幻想日記)』を聴くと、こうしたアイドルの美学が伝わってくる。

 数々の困難を乗り越えてきた彼女たちが本作を通して一番伝えたかったこと、それは「残り少ない時間を一緒に楽しもう」ということだろう。ファンもそのメッセージをしっかり受け止めて、最後の日が来るまで熱い声援を送り続けてほしいと思う。

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