「3密」の精神科病院が「夜の街」同等の対策の対象とならない理由

文=みわよしこ
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 全国で緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルスの感染拡大への一定の注意のもと、社会活動や日常活動が再開された。しかしコロナ禍の影響は、日ごろ想定されない方面まで、広く深く及んでいる。それはメンタルヘルスも例外ではない。

精神科の外来患者は減少したか

 新型コロナは、健康に対する脅威である。感染が拡大すれば、医療ニーズは高まるはずだ。しかし、医療機関に対する影響は、決して一枚岩ではない。

 まず、外来患者に関して見てみよう。2020年3月日経メディカルOnlineが医師を対象として行った調査によると、前年同時期との比較で、53.4%が「患者が減っている」と回答した。患者が50%以上減少したり(3.5%)、外来機能を停止したり(0.2%)したという回答もある。しかし、42.3%は「ほとんど変わらない」、4.2%は「増えている」と回答している。中には、50%以上増えている(1.0%)という回答もある。

 患者が減少したという回答が最も多かったのは小児科(78.0%)だったが、考えられる原因は、主に医療ニーズ自体の減少である。平常時よりも手洗いやマスク着用が奨励され、学校が休校となったため集団生活の機会が減少した。このため、風邪・ウイルス性胃腸炎・インフルエンザを含めて、子どもが感染症に罹りにくい。さらに、外遊びしたくとも、公園の遊具が使用禁止になっていたりする。放課後の部活もない。すると、負傷する機会も減少するというわけだ。そこに、病院での感染を恐れた受診控えの影響も加わる。

 成人を対象とした診療科で「患者が減少した」という回答が多かったのは、整形外科(63.7%)と消化器内科(61.2%)であった。さらに、一般内科および総合診療科(58.6%)、眼科(57.5%)、呼吸器内科(54.7%)が続く。患者にとっては、「急いで受診せず様子を見る」という判断が比較的容易そうな診療科だ。また医療機関側が、次の診察との間隔を長めにすることによって通院間隔を減らし、結果として院内感染リスクが低減するように調整している可能性も考えられる。

 脳神経外科、一般外科および消化器外科では、「減っている」が50%弱、「変わらない」が50%強となっている。循環器内科も同様の傾向だ。これらの診療科の外来としてイメージされるのは、長期的に付き合う疾患の定期通院、手術後のフォローアップなどである。短期的には激増も激減もしにくいが、医療機関にも患者にも「通院頻度を減らしたい」というニーズはありそうだ。さらにコロナ禍は、緊急性のない手術や入院の延期ももたらした。すると今後は、それらの後のフォローアップの機会も減少することになる。長期にわたって影響が残りそうだ。

 全く雰囲気が異なるのは、精神科だ。患者数が「減っている」という回答は最少の25.0%、「変わらない」という回答は最多の73.3%である。医師たちからは、「今後、患者が増えそう」という意見もある。増える理由として挙げられているのは、失業による精神科患者の増加であったり、感染恐怖や不潔恐怖をもつ患者が症状を悪化させることであったりする。コロナ禍による経済への打撃があり、感染リスクが存在する以上、それらによる患者の増加は避けようがない。

 もちろん精神科でも、医療機関と患者の両方に、「感染リスクを減らしたい」というニーズがある。長期処方によって通院頻度を減少させることも、対面での診察や処方を電話やオンラインに切り替えることもでき、通院患者は減少することになる。患者が増える要因と減る要因の影響が釣り合っていれば、患者は増えも減りもしないだろう。

精神科病院の経営状態の変化は不明

 6月5日、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」追加報告には、2月以来の「自粛」に緊急事態宣言が重なった4月の状況が示されている。2020年4月は、全国の病院1203院の66.7%が赤字であった。2019年4月、赤字の病院は45.4%であったこと。全体的に病院の経営悪化が見られていたことは疑いようがない。最大の原因は、外来・入院とも患者が減少したことであろう。それは、素人かつ部外者の筆者でも容易に想像できる。

 同調査の「最終報告」に記載された分析は、「特に新型コロナウイルス感染患者の入院を受入れた病院では(略)経営状況の悪化は深刻」としている。厚労省は、診療報酬の割増などの配慮を行っていたが、それでは不十分であったということであろう。ただし、最新の「追加報告」に示されているデータを見る限り、経営悪化を「新型コロナ患者を受け入れたから」と言い切れるかどうかには、疑問も感じられる。2019年4月から2020年4月の赤字率の増加は、「全病院」「新型コロナ患者の入院受け入れあり」「新型コロナ患者の入院受け入れなし」のいずれでも21~23%となっており、大きな差は見られないからだ。とはいえ、一時閉鎖を余儀なくされた病院に注目すると、赤字率は同期間に、50.6%から79.4%へと約30%の増加となっている。いずれにしても、深刻な影響があったことは事実であろう。

 この調査を検索すると、検索結果の上位に「四病協」(四病院団体協議会)のWebページが現れる。上記の3団体に、日本精神科病院協会(日精協)を加えた協議会だ。しかし、この報告書には、日精協は参加していない。もちろん、日精協が独自に、精神科病院への新型コロナの影響に関する調査を行っている可能性はある。しかし現在のところ、そのような動きは公表されていない。

 精神科病院には、もちろん「精神科だからこそ」の影響がありうる。医療全体を襲う危機に際し、精神科の特性は、どのように現れるのだろうか。

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