全米各地で大暴れ「カレン」とは一体、何者?~白人女性の特権意識

文=堂本かおる
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セントラルパーク・カレン

 数ある「カレン」事件の中でターニング・ポイントとなったのが、「セントラルパーク・カレン」だ。5月末、ニューヨークにあるセントラル・パークでバード・ウォッチング中だった黒人男性が、犬にリーシュを付けずに散歩させていた白人女性にリーシュを使うよう依頼した。

 すると「カレン」は取り乱し、警察に「アフリカン・アメリカンの男が私と犬を脅しています!」「すぐに来て!」と通報。男性はその様子を録画しており、翌日、男性の姉がSNSに投稿。その結果、女性は勤務先を解雇された。

 この件が非常に深刻に受け取られたのは、黒人男性と白人女性の歴史が理由だ。白人女性が黒人男性に「襲われた」「レイプされた」と嘘を言い、黒人男性が白人男性の一団に襲われ、リンチ、殺害される事件が過去に多発している。今回も警官が駆け付け、「カレン」の言葉を信じ、最悪の場合は黒人男性を射殺する可能性もあった。

 事態を重くみたクオモ・ニューヨーク州知事が「人種・ジェンダー・信仰に基づく虚偽の非難通報をヘイトクライムとする」法を望んでいると報じられた。

 なお、この女性が通報しながら犬の首輪を掴み、強く引き回したため、「犬がかわいそう」というコメントが多数寄せられた。黒人男性の命にかかわる事態であると理解しない、まさに「カレン」的コメントであったと言える。

反マスク・カレン

 当初、「カレン」は自分の意に沿わない黒人を排除しようとする白人女性を意味していたが、コロナ禍にあって反マスクの白人女性へと変化した。

 トランプは経済と大統領再選を優先させるために新型コロナウイルスの存在を認めたがらず、今に至るまで反マスク、反ソーシャル・ディスタンスを押し通している。トランプ支持者は追随し、強硬な反マスク言動を展開している。最初に挙げたスーパーマーケットのビデオの女性は「民主党のブタ!」と叫んでいる。マスクは政治の道具となってしまったのだ。

 しかしながら初期のカレンも、反マスクのカレンも、本質は同じだ。「黒人の文化や社会的立場など私には関係ない。私は私のやり方を通す権利があるし、黒人に私の権利を侵されるのは我慢ならない」と、「私にはマスクをしない権利があり、マスク派に指図される謂れはない。他人に感染させることなど私の知ったことではない」は同じだ。「カレン」の定義が「公共の場で権利・権限を主張する言動をとる白人女性」とされる所以である。

 何れにせよ、全米のあちこちで複数の「カレン」がここまで派手に暴れているには理由がある。Black Lives Matterの盛り上がりと、コロナ対策の失敗(というよりあえての無策)によってトランプの支持率が下がり、再選が危うくなってきたことが重なり、狼狽しているのだ。厭う相手の存在が大きくなると同時に己が信じるものが傾き、精神のバランスを欠いて言動のコントロールを失ったのだ。

男版カレン

 白人男性にもカレン的言動の者はいるが、女性ばかりが取り沙汰されるには理由がある。黒人女性のステレオタイプ「アングリー・ブラック・ウーマン(怒れる黒人女性)」へのカウンターなのだ。黒人女性が怒りを表すと、たちまち批判や揶揄として使われる表現だ。ミシェル・オバマはファーストレディ時代、このステレオタイプを持ち出されないために、言動にひときわ神経を使ったと語っている。

 対して白人女性には、標準、常識的、など逆のステレオタイプがある。スーパーマーケットで怒鳴る女性の映像をショッキングに感じたとすれば、それは見る側に「普通の白人女性はこんなことはしないはず」という思い込みがあるのだ。

 つまり「カレン」とは、黒人女性への不条理なステレオタイプをユーモアによって白人女性に返すものと言える。

 ちなみに男性版カレンは銃に飛び付く傾向がある。ロックダウン反対デモにアサルト・ライフルを抱えて州議事堂に詰め掛けたグループがいた。黒人男性が同じことをすれば警官隊やSWATに囲まれ、たちまち射殺だが、白人男性はデモの後、大型銃を肩に掛けたままサンドイッチを買いに出掛けたりもする(出来る)特権がある。

 だが、ついに男性版カレン「ケン」がSNSに登場した。

 6月28日、ミズーリ州セントルイスでブラック・ライブズ・マターのデモが行われた。デモが、ある弁護士夫婦の豪邸の私道に差し掛かった時、夫婦揃って銃を構え、デモ参加者に向けたのだった。いたって平和的なデモであったにもかかわらず、夫妻は “黒人の暴徒” に襲われる心配をしたのだった。

 その異様な姿はもちろん撮影され、架空の映画『ケン&カレン』パロディ・ポスターとなってSNSを駆け巡ったのである。
(堂本かおる)

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